追われる男
鈴木は、クビナシの怖さに様子を見ることを選びました。隣には華奢な小夜子もいるので、慎重になるのも無理はないかもしれませんね。
追われている者としては非常な選択ですが、どちらも選べない以上はしかたないでしょう。
さて、彼らはどうなるのでしょうか。
続きを見てみましょう。
1、男を助けに行く
→■2、様子を見る■
3、近くの部屋から武器を探す
4、部屋に閉じこもり、市之原小夜子を守る
5、その他
俺も市之原小夜子もその場から動けなかった。いままでの経験から推測すると、そこら辺の大人よりもずっとクビナシは筋力が強い。かなりの大きさのチェーンソーをまるで包丁を扱うようにしていることから明白だろう。
「あの……どうしますか!?」
市之原小夜子の必死の声。クビナシに聞こえないように声を潜めたためか、より一層の焦燥感を感じた。唾液がいつの間にか枯れて、舌が口腔の上壁に張り付く。無理やり唾液を出し、湿らすように飲み込んだ。ゴクリと生々しい音を鳴らしたノド。その動いたであろうノドボトケを見た彼女。もし中年の男を見捨てれば、今後、俺のことを信頼しないだろう。……そんな眼をしていた。
こんなところで唯一の味方を失いたくない……!
「とりあえず、市之原さんは部屋に入って、いつでもドアを閉められるように構えていてください……! 俺が様子を見てきます。もし、クビナシが来ても、チェーンソーと同じ材質の鉄のドアが破られることは無いと思いますから……!」
「は、はいっ!」市之原小夜子は俺の腕を一回だけ力強く握り、逡巡した後、俺の言う通りにした。自分が閉じ込められていた部屋のドアを開けて、中に入ろうとする。
その時、不規則で慌てた足音と共に、廊下の曲がり角から中年の男が駆け寄ってきた。その形相のモノスゴさ……。月明かりのスポットライトの下を通り過ぎる時に見えた表情は、むしろ追われている方が鬼のようでもあった。
すぐ後ろにクビナシ。
ブゥゥゥゥォンッ! ゥゥオオオオンッ!! ブンッ! ガギィッ! ……
チェーンソーを横薙ぎ、縦薙ぎ、さらには振り回しながら追ってくる。空振りした刃は周囲の木材や、コンクリート壁を直撃。歪な音をまき散らしている。中年の男は、その金切り音に体勢を崩しながらも、地面に落ちている瓦礫を掴み、後ろも見ずに投げていた。
クビナシは、チェーンソーを滅茶苦茶に振り回しているせいか、速度的にはそこまで速くはなかった。かといって、距離が広がるわけでもない。男の脂汗、吐息は、ここからでも臭ってきそうなほどだった。
中年の男は、俺に気付く。 瞬間、クビナシが中年の男に追いついた。
「タ……タスケ……たすけてっ! ヒッ……!?」
暗闇で何かにつまずく男。少し腹がでていたためか、ビタンと倒れこむ。ちょうど、頭の上、数センチにチェーンソーが横薙ぎにされ、男の髪の毛が何本か切られ、ハラリと。
俺は、近くにあった瓦礫を掴み、クビナシに向かって、思い切り投げつけた。それが偶然にもチェーンソーの回転する刃の部分に当たる。ガッ! という破壊音がなり、瓦礫は四散。だが、中年の男がこちらに逃げられる数秒の時間は稼げたようだ。クビナシは、突然の闖入物の出どころを確認するために、挙動不審になっていた。中年の男は足をもつれさせ、左右の壁に肩をぶつけながらも懸命に走り寄って来る。
「早く! こっちですっ!!」必死の形相で手招きをする。中年の男は、蜘蛛の糸を掴んだかのごとく、うっすらと笑い、部屋の中へ転げながら滑り込んだ。
「鈴木くんもっ!」市之原小夜子の声を聞くまでも無く、部屋の中へ入った。
「……!? 閉まらないっ! 閉まんないよっ!!」
市之原小夜子の絶叫! 腰まである黒髪をざんばらに乱しながら、体全体を使ってドアを閉めようとしている。
錆びついたドアを無理やり開けたせいか!? クソッ! さっきは閉まったじゃないか!! フザケンナッ!!
ブウウウウンンッ! ウゥゥゥゥンンンン!!
どんどん近づいてくるクビナシの音。血管にアドレナリンが分泌されたようにバネになる。弾かれたように体を疾駆させ、市之原小夜子を無理やり後ろへどかせた。
「キャッ!?」市之原小夜子の悲鳴を無視して、足を壁に突っ張って、ドアを閉める! ギギィ! とサビを、こそげ落とすような音がして半分だけ閉まった。俺の……男の力ならいける!
そこで月明かりが人型に遮られた。
ブウウン! ブン! ギイイイイイイイィィィィイイイイイィィィイァァァ……!!
チェーンソーが横向きに突き刺さってきた。「……ハッ!?」思わず後ろに仰け反りながら、倒れこむ。「アブナイッ!?」女の声。柔らかい感触。市之原小夜子の体に衝突するように尻餅をついてしまっていた。月明かりに照らされたクビナシの体は、死体の肉片をゲル状の物質で固め、腐らせたような色。その体を、医者の白衣ならぬ、黒衣で隠すように……覆うように着ていた。胸板……というより胸骨の辺りだけ体が露出していた。後ろから男の声が聞こえる。
「バケモンはデカいから、たぶん入れん! オツムもたぶん良くないみたいだっ!」
たぶんたぶんと連呼してくる。だが、その発言の通り、クビナシはドアを開けようともせず、体を横向きにしようともしない。ただただ、正面向きで直進し、半開きのドアにぶつかる。それで後ろに数歩後退して、またチェーンソーを試す。その繰り返しだった。
頭が……脳が無いからモノが考えられないのか!?
市之原小夜子が半開きのドアを指さして、絶望を伝えてくる。
「か……壁が!? ドアの周りの壁が削れてきてる……!? どうしようっ!?」
1、チェーンソーに気をつけながら、ドアを閉める
2、ベッドでドアをふさぐ
3、中年の男に相談する
4、部屋を物色する
5、その他
どうやらクビナシは知能が高くはないようです。知能が高い殺人鬼なんて考えただけでも恐ろしいですね。ホラー映画などもなぜか怪物は知能が低いことが多いようです。でもよく考えたら、知能が高ければこんな局所などにおらず、さっさと国の中枢機関へ攻めこまれて、征服されてしまうことでしょう。
そうなるともうホラーではなく、違うジャンルになってしまいそうです。
では、中年の男がどんな人物なのかを気にしながら……このへんで、さようなら。