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廃病院  作者: やちひそ
6/11

小夜子

 暗闇から聞こえてくる女の声は、本来とは違って不気味に聞こえます。次点で、子供、老人の声、という具合でしょうか。

 さて、女の声が聞こえてきた当事者は、どうするのでしょうか。

 続きを見ましょう。

 

→■1、女を助けに行く■

 2、女を見捨てる

 3、まずは、自動ドアを調べる

 4、武器を探す

 5、その他

 

 「助けて……。誰か……い……の? ダレカ……イマセンカ?」

 弱々しい女の声。どこか艶かしく、それでいて純情な子羊の声だった。その声に恐ろしさを感じつつも、首の無い化け物に比べたら、ずっと増しに思えた……。

 

 俺は不自由な人間のように脚を動かし歩く。声が歩いてくる方へ向かえば向かうほどに玄関からの月明かりが無くなっていく。だが、その代わりに一定間隔にある病室。その中でもドアが半壊している場所。恐らく窓があるのだろう、そこからの月明かりがスポットライトのように廊下を照らしていた。そろそろと歩く分には問題無さそうだった。

 

 声の導くままに歩いて行く。手探り。目探り。足探り。月明かりは大体で、数メートル感覚を開けて照らされている。だから、その隙間はしわくちゃの暗幕が撒かれているよう。その暗幕をめくってしまったら、下から得体のしれない蠢くモノ達が這い出してきそうだった。

 歩く。のそり。擦る。ズゥ……。光る物を見つけてはガラスの破片か? と気にし、足でつついてみたりした。

 割れた窓ガラス。朽ちて錆び、半壊したドア。医療用のハサミ。ピンセット。包帯。簡易ベッド。布地は切り裂かれ、綿がはみ出ている。破けてボロボロになった紙……ポスター? には人体の内蔵や、病例、症例。さらには歯科などで使われていそうな歯型模型あった。廊下から見える病室内は散乱している物で、なんの部屋か簡単に区別できそうだ。だがそのどれもが無残。中には赤黒い染み。よくわからない毒々しい色の染みに汚染されていた。まるで子供がキッチンのシンクに絵の具をぶちまけたみたいだった。

 「ダレカ……。ねぇっ! 誰かいるんでしょっ!! たすけてよぉ……ぉ……」

 うるさい……! わかってる……。わかってるけ……ど。こっちだって一生懸命にやっているんだから……急かさないでくれ……!!

 精一杯努力をしているのに、その努力が足り無いとなじられているようでイラッとしてしまう。冷静になれと何度も繰り返すが「助けて」という、うるさい声が思考を鈍らせてしまう。頭痛がしそうな頭を振りながら、少しだけ足を速めた……。

 

 俺は『X線室』という表札の前で立ち止まる。確かにこの中から女の声が聞こえてきていた。自分の呼吸と同じように、止むこと無く懇願の声が聞こえてくる。その声色は初めよりも小さく、少ししゃがれているようでもあった。ずっと叫んでいたのならそれも当たり前かもしれない……。

 女の声しかしないことを確認し、ドアを開け…………ようとしたができなかった。ドアは住宅などの一般的な開くタイプではなく、鉄の引き戸タイプだった。取っ手は丸ノブではなく、障害者でも開けやすいような細長いアルミ? の棒を縦に取り付けたタイプだった。

 「開かない……!?」

 力を入れても鍵が掛かっているのか、引っかかって開かない。

 「ァ……!? 鍵は錆びているから、もっと力を込めれば開けられるハズ……!」

 女の支援が届く。廃病院の中で一人だったせいか、妙な親近感が湧き、勇気をもらったようだった。

 両手で取っ手を持ち、横の壁が少し出っ張っているのを見つけ、引っ掛かけるように足をつっぱる形にした。両手と足に力を込めて、思い切り踏ん張る。

 ンッ! んん……! ァ……!! ……!

 繰り返すごとに、女の励ましの声に連動して、ドアが開き始める。鍵が錆びているというのは本当のようだ。

 グッ……ガッ……バキンッ!

 「ァ……開いた!? ハハ……」

 ドアを右へ引き、開けた。

 部屋の薄汚れたベッドの上には、女が仰向けに寝転がっていた。両手を頭の上に上げている。すぐに目についたのは女の肢体。闇にそぐわぬ白い素足。幽霊のようなそのふくらはぎ、太腿が伸び、そこからつながっているであろう秘部はアイロンしたばかりのような白衣の裾で守られていた。豊かな膨らみにそって、登っていくと、手折れそうな百合の首。儚くも大きい瞳から落ちていたであろう涙の筋に、ドアからの月明かりが反射している。それが数層倍も彼女を女たらしめていた。

 女が救われたように声を掛けてきた。

 「あ……良かった……。助けて……」

 辺りを見回し、危険が無いか確認する。だが、女が生きていること。それがすでに安全であるという証拠。そう思い至り、すぐに駆け寄った。

 ジャラッ……という音が互い違いの方向から耳朶に響く。発生源を確かめると、女の両手、両足には頑丈そうな手錠が掛けられていた……。女が動くたびにジャラッという金属の艶のある音が流れる。

 「ァ……あの。私は市之原……市之原小夜子いちのはらさよこです……」

 和紙に赤い墨汁を一滴垂らしたような口唇がおずおずと動く。俺が何も言わないのを、自分が不信に思われている……とでも思ったのか、名乗ってきた。ちょうど良かったので俺も名乗った。

 「俺は……鈴木です。高校生です……」

 「私も学生です。でも……大学生です」

 ぎこちない。どこか変な自己紹介が終わると、待ってましたとばかりに沈黙が訪れた。

 また赤い口唇がムズムズと動き出す。ジャラッとわざとらしく音が鳴ったと思ったら。

 「あの……何とかして、この手錠をはずしてもらえませんか……?」

 

 1、手錠をはずす

 2、手錠をはずさない

 3、手錠をはずさずに、女の身体検査をする

 4、先にドアの施錠ができないか考える

 5、その他

  

 

 こんな廃病院で大学生のお姉さんと出会いました。

 裸に白衣のみという、おかしな格好です。しかし、普段ならおかしい格好なのですが、こんな廃病院だとそうともいえないかもしれません。逆に、こんなところで、パリっとしたリクルートスーツを来ているほうがおかしいでしょう。

 さて、当事者は小夜子を助けました。

 ミステリー好きの方はもしかしたら、そろそろおかしな点に気づいているかもしれません。

 では、今回はこれで。さようなら。

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