女の声
当事者はチェーンソーは素敵な能力なぞ持っていない、普通の人間です。
一体、クビナシから逃げ切れる……そもそも入ってきたのはいいが、出ることは可能なのでしょうか?
続きをどうぞ
1、待合室のドアを開けて、全速力で逃げる
→■2、チェーンソーを近くのもので押しやる■
3、穴に長椅子を立て掛ける
4、別の部屋に避難できないか調べる
5、その他
脈拍が加速されて、体中に焦りという血液が濁流となって回っていく。紅潮する頬に流れる汗。そんなものなどおかまいなしに辺りを見回す。
何かないか!? なんでもいい! なんでも! あのチェーンソーをなんとかできる…………なにか!!
目玉がぽろりと落ちそうになるほど凝視する。やがて暗闇に目が慣れたのか、それともチェーンソーが出し入れされる穴が広がったのか。先ほどは発見できなかったガラスのテーブルがあった。所々かけているがなんとかなりそうだ。
胴体ほどのガラステーブルを力いっぱい持ち上げ、凶刃に向かって思い切り突き出す。キイイイイィイィイイイ!! と触れた途端に黒板を爪で引っ掻いたような音が耳を焼いてくる。独特の音が腰を砕けさせ、鼓動の拍子が不規則になる。
「ふっ! ……ハッ! ァー!」
ハイエナじみた息遣いで、わざと気を狂わせるように押しこむ。すると、だんだんと、ゆっくりとだが奇怪な音を立てながらチェーンソーが後退していった。
甲高い音と壁を削る破砕音が互いに邪魔し合い、発狂している。薬品臭と暗闇が相まって気が狂いそうになっていた。
「イケルッ! ハァ……ァ!!」
グィギェィンン……ン……。生きていて初めてお目にかかる音の波がとどろき、一瞬にして静寂になる。チェーンソーは完全に見えなくなり、少し広がった穴からは月明かりが入ってきた。そのおかげでなんとか辺りが見えるようになった。
ちらばる破片やガラス、いまでは何が書いてあるか判別が難しいポスターや書類などをなるべくよけながら、穴に近づき、そーっと、そーっと覗いてみた。
声を抑えようと口を無理やり閉じても、嫌だ嫌だとばかりにむずむずと口唇が動いてしまう。それに連動するように荒い鼻息がうるさく飛び出してしまう。
「いったか……? 頼む……行っていてくれ……」
願うように待つ。それが叶ったのかどうかクビナシのみぞ知るだが、気配は失くなった。だがそれでも安心できずに体感で十分程度の時間、そのまま息を殺していた。なるべく呼吸をしないように……じっと……じぃっと……。
やがて意を決して待合室の扉を開ける。ギィィヴヴゥ。錆びが引っかかる音を出してドアは開かれた。
「…………いない。……いない……よな?」
わざと声を出してしまう。恐怖になんとか勝てるように空っぽの元気を出したつもりだが……たぶん滑稽な姿だろうことが自分で想像できる。
自動ドアを見る。……居ない。やっぱり居ない。クビナシは居ない。なぜ居なくなったのかわからない。だがこの辺りには居ない。ただそれだけの事実がとても安心させてくれた。
「ハハ……。アハハ……。やった…………。自動ドアを開けて帰ろう……! 早く帰ろ…………エッ!?」
エ……? エッ……!? 自動ドア……開けて帰ろう……だって!?
自動ドアは閉まっていた。とても人間が通れる隙間は開いていない。開けられた様子もないし、閉じられた様子もない。要するにあの時のままだ。
「なんだよ……!? じゃあアイツ……クビナシはどうやって待合室の外……この廃病院に入ってこれたんだよ!? エッ!? ァ……?」
股関節が壊れたようにカクカクと。電撃で脳が焼かれ安物の部品で修理してもらったような不良品の感覚。自分の体が得たいの知れない何かの事実によって、ガラクタにされているのを感じた。
その時、年若い女の声が聞こえてきた!
「ン……ッ! 誰か……誰かいますか!? 助けて……助けて……っ。ダレカッ……!」
きっと普段の学校でなら愛想よく、クラスでも人気者に違いない華のある声。だが、その麗しい声が逆にこの状態ではどこか怪奇じみた怨念の不協和音に聞こえてしまった。
「先客が……イルノカ!?」
1、女を助けに行く
2、女を見捨てる
3、まずは、自動ドアを調べる
4、武器を探す
5、その他
まさかの女の声。誰もいないはずの病院。
罠ということは考え難いですが、助けに行くリスクも相当です。
さっさと自動ドアから逃げるのが吉ですが、何の対抗手段もなしにクビナシに遭遇したら一貫の終わりです。
さあ、当事者は一体、どうするのでしょうか。
では、このへんで、さようなら。