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廃病院  作者: やちひそ
3/11

聞こえなくなった音

 当事者は1番の選択肢を選んだようです。

 足音みたいな音がしていたのを聞いたはずなのに、ドアを開けてしまってよかったのでしょうか?

 では、様子を見てみましょう。

 

→■1、待合室のドアを開けた■

 2、ドアを開けず、元の位置に戻った

 3、ドアを開けず、他の部屋を探した

 4、植木鉢を手に取り、自動ドアに投げつける

 5、その他

 

 

 意を決して鉄なのかアルミなのかの冷たい取っ手をひねる。サビで完全に開くかどうか疑問だったが…………。

 ギィィィ……ギッギィ……。

 ……開いた。つっかえながらも何とかという具合。後ろの機械音から逃れたいがために、ドアが体の幅まで開くと、するりと待合室に侵入した。

 暗闇。手の平までがやっと。クンッ……と鼻を鳴らすとどこか髪の毛を煙草で焦がしたような一種独特の臭気。臭いというより……これから自分もそうなる気がして不気味だった。

 右肩からぬるりと滑り込み、もしものために取っ手は後ろ手で握ったままにする。玄関よりもさらに暗闇が増している。閉めきったら電気も通ってないこの廃病院では、自分の指先さえ見えなくなってしまうに決まっている。それは……嫌だ。

 ドアを光が入ってこれる程度だけ開けておき、中に入る。

 「……もしもし? 誰もいない……よな?」

 か細い声。喫茶店で友達と話している時だったら、間違いなく聞き返される程度。だがここでは、静寂を壊すほどに響き、うるさく感じられるほど。静かな図書館より音が無い。

 …………返事は無い。

 …………って当たり前だよ。そりゃそうだよ……当たり前に決まってる……!?

 「ハハッ! ハ……ァ……」

 ア……危ない。え? エ!? なんで俺危ないって思った? 俺なんで……!?

 ィィィィン……ンン……。

 不意に、遠くからチェーンソーのモーター音が聞こえてくる。

 時間が無いのは理解しているが、クビナシからガラス一枚の距離だったのに比べれば、穴が開いて、朽ちかけているとはいえ、分厚いコンクリートの壁はとても頼もしく思える。握りコブシでポンポンと軽く叩いても中身が詰まっている感触。

 …………じゃないっ!? ア……ハ……ハァ、ハァァァ……。

 息苦しい呼吸。吐こうとしても吸い込もうとしても上手くいかないもどかしさ。

 さっきの事なのに何で忘れてた!? たったこんなコンクリートの壁ごときに安堵してしまった!? 馬鹿か!? バカか俺は……!? クゥゥゥ。 もしさっきの足音が……足音が……危険な誰か……いや、ナニカだったら!? 

 それは逆に分厚い灰色のコンクリートが棺桶に一変するほどの凶事……、そのモノスゴさ……。再び、さらに三度の血管が浮かび上がるほどのギョロ目。見るまでも無く顔には恐怖のシワがひしめきあって押し合いへし合い。酷い。たぶん……絶対酷い顔。ドクッドクンッと絶頂寸前のような破裂音を心臓が作り、血流か血圧かは過度なストレスを中和するように真っ赤や真っ青な血管を巡っていってる。

 「やっぱ……いない……」

 ゴクリ。腐った汚水を彷彿とさせるどろりと粘つく唾液が喉をやっと通って行く。その音を聞きつけて今にもその辺りの物陰や、目の前にある受付カウンターの見えない側からナニカが襲ってきやしないだろうかとおののく。突如に暴力を振るわれた幼女のようだ。

 コンクリートの床をスニーカーで擦ってみる。ジャッジャッ……。さっき聴こえたような音。やっぱり誰かいて、どこかへ行ったのだろうか? それとも、そこら辺に転がっている石ころがたまたま、どこかから都合良く落ちてきたんだろうか? それがコロコロ、コロコロと床を擦るように……?

 駄目だ駄目だ! 考えるな。それを考える前に今やることは椅子を自動ドアの前に積み上げることだ! 椅子は五人掛けが二脚。それが乱雑に並んでいる。きっとここがちゃんとしていた時は綺麗に真っ直ぐに並べられて、あたかも一脚の長椅子のようだったのだろう。

 長椅子を一脚、引き摺るようにしてドアの所まで運ぶ。ガアァザァァッ……ヴヴゥ。と激しい音が鳴ったが、誰も居ないと確認できた今となっては、うるさい以外に思うことはない。…………ガアァザァァッ……ヴヴゥ……。

 長椅子を通すためにはドアを全開に開けなければならない。

 ………………ん? ………………ァレ? 耳を澄ます。

 スゥゥ………………………………………………………………。

 本来聞こえるはずが無い空気の通る音……といってもいいのか、無音独特の音がする。ツンとする薬品の匂いが今頃に鼻を刺激する。長椅子を持っている両手が痺れる。……重い。だがそんなことよりも……。

 「あの音が…………キ、キコ、キコエナイッ!? ァ……?」

 クビナシのチェーンソーの音が聞こえない。

 それだけ。たったそれだけ。その普段なら取るに足らない万事クダラナイし原因など素人もオモワナイコトで、俺の脳味噌は心臓から血を拒むように寒く凍え始める。眉尻は垂れ下がり地面に落ちてしまい、口唇は閉じたままなのに、もぐもぐと奇妙な動き。ふくらはぎからジワリ……ジンワリと痺れのようなものが這い上がって来て下半身へ、睾丸を通り丹田を突っ切り、背中の内側から爪を突き立て、外にまで達するほど刺殺しながら到達した時にそれが『ワカラナイ』という恐怖なのだと悟った。

 俺は、ドアを開けても……いいのだろうか?

 

 

 1、待合室のドアを開けて、長椅子を自動ドアの前へ運ぶ

 2、待合室のドアを開けず、様子を見る

 3、待合室のドアを完全に閉じて、壁に開いた穴から自動ドアを見る

 4、とりあえず武器になるようなものが無いか待合室を物色する

 5、その他

 

 ご精読ありがとうございました。

 ジーンズの当事者は少しおっちょこちょいのようですね。全容の見渡せない暗所の中で自分を害するかもしれない存在の、不在証明を得るために声をかけてしまっています。まぁ、怖いから仕方なかったのでしょう。愚策ですね。

 でも私も極度の緊張状態ではそうしてしまうかもしれません。みなさんはどうでしょうか。

 では、次話で当事者がどれを選択するのかを楽しみにしつつ……

 お疲れ様でした。

 

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