其の六 はいすくーるらいふだよ!
なんか今回はかなり長くなった…w
1/4:若干描写を修正しました。
(2013.9.31/大幅改訂)
「ただいま~」
見慣れた青いFDの入った車庫の横を通り、我が家の玄関を開ける。
あの後ボクはチャラ男達が復活しないうちに慌ててその場を離れた。
にしても……すっかり忘れていた。
先程、チャラ男集団を薙ぎ倒したのはボクが男だったころからの親友、というか幼馴染?の【亞木村 奏人】だった。尤も、あの場にボクがいたなんてあっちは気づいてないだろうけどね。だって今のボクは正真正銘の女の子なのだから。
あいつもボクと同じ高校に行くことになっている。だから、下手なボロを出す前にボクが女の子になったことを言ったほうがいいんじゃないかと思っているのだが……
ひとまず、ボクは母さんに相談することにした。予想通りキッチンにいた母さんに声をかける。
「母さん」
「あら、お帰り澪」
「えっと、あのね」
「ん、なあに?」
「さっき、帰り道にチャラ男集団に絡まれたんだけど……」
「なんですって!!!そいつらまとめて皆殺しね!!!!どういう連中だったの?教えなさい!!!澪に絡む男は即殲滅よ!!!!」
しまった。ボクがさっき起きたことの冒頭(?)を話した途端に「絡まれた」という言葉に反応した母さんが暴走しだした。やばい、これは危険だ。止めなきゃ今も昏倒してるだろう連中をガチで殺しに行きかねない。
「ちょ、母さん!!!!最後まで聞いて!!!!」
「はっ!?ごめんなさいね、続きを話して頂戴」
「うん、で、そこを通りかかった奏人が助けてくれたんだけど……」
「あら、奏人君が?」
「うん。それで……そろそろ奏人にボクが、その…女の子になっちゃったこと、言ったほうが良いんじゃないかって思うんだけど……学校でボロ出るの嫌だし…」
そう、ボクは女の子ライフ初心者のペーパードライバーだ。ボク単身だけだと色々とマズって面倒なことになりかねないと思う。
「あら、母さんもそう思うわよ?言っちゃいなさい」
「でも……あの、嫌われたりしないかな?」
「どうして?」
「だって……いきなり女になって、不気味とか思われないかって……」
男だった友達がいきなり女になっているのだ。普通にあり得る話ではない。人間というものは自分たちと違うもの、あるいは奇異なものを排斥したがる。嫌われたって不思議じゃない。けど、母さんはこんな言葉を返してきた。
「あら、奏人君はそんなことで澪を嫌うほど最低な人だったの?」
「ううん、奏人は最低じゃない!!!」
「なら、澪が女の子になったぐらいで嫌わないわよ」
「……うん!」
母さんのその言葉で一気に決意がついた。
「逆に喜ばれるかもよ?」
キッチンを出る際にそんな言葉が聞こえたが、聞こえなかったことにする。
「さてと」
階段を上り、自室へと向かう。
スマホを取り出し、登録されている奏人の番号へとかける。コール音が数回続いた後、聞き慣れた声が応答に出た。
『もしもし、亞木村です』
「あ、奏人?ボクだよ」
『澪か?どうした?』
幸い、男だったときも変声前だったので女声になったことはバレてないらしい。
「奏人、今から暇?」
『ああ、別になんもないけど?』
「えっとね、じゃあボクの家来て?」
『え?ああ、いいけどなんで?』
「秘密、じゃね~」
そんな感じで通話を終了する。さて、奏人が来るまで何してようかな……
◇ ◇ ◇
side奏人
ちょっと街に出かけた帰りにナンパ野郎に絡まれてる女の子を助けて帰宅した直後、親友の澪から電話がかかってきた。暇なら家に来いとの事だったが、別にやることもないので行くことにした。しばらく歩くと、見慣れた親友宅が見えてきた。ふと、弐ノ瀬家の車庫に収まっている青いスポーツカー――――澪の姉、楓さんの愛車に目をやって回想する。少し前にちょっと横に乗せてもらったことがあるが……俺はあの時、下手な絶叫マシンを遥かに超す恐怖を味わった。だって車が横滑りしてるんだもんなぁ。100キロオーバーで。
とまぁ、そんなことは置いといて。
俺はインターホンを押した。
”ピンポ~ン♪”
「は~い」
呼び出し音が鳴り、しばらくしてからそんな声と共にドアが開いた。
「よぉ、澪。久しぶr……!?!?」
俺の言葉が途中で途切れた。
俺の目の前でドアを開けているのは……女の子。黒いロングヘアに大きな瞳。めちゃくちゃ美少女だ。だが、澪には楓さん以外に姉妹はいなかったはずだ。とするとこの女の子は……?
俺が呆けていると、女の子が喋った。見た目通りの可愛い声で。
「急に呼んじゃってごめんね?奏人」
……この口調は……澪か?
だが、目の前にいるのは正真正銘の女の子。胸で自己主張するちょっと小振りな双丘が女性だということを示している。しかも、身に着けているのはスカート。澪には女装趣味はなかった筈。だが、俺を”奏人”と呼び捨てで呼ぶのもこの家には澪しかいなかった。とすると……
「澪……なんだな?」
「うん。ちょっと訳ありでね…それより上がってよ」
「あ、ああ」
俺は女の子になってしまった澪に勧められるまま弐ノ瀬家に入った。
その後、話を聞くところによると、朝起きたらいきなり女の子になってたらしい。原因もまるでわかんないから女の子として生きることにしたとのこと。
「なるほどな……お前も苦労したんだな。まぁ、俺は今までどおり親友だから心配するな」
「…うんっ!」
俺がそう言葉をかけると、澪はぱぁっと花が咲くように笑顔になった。
ぐはぁぁっ!?!?
かっ、可愛いじゃないか。
俺は隣で不思議そうにこっちを見上げてくる澪に気づかれないように脳内のやましい何かを揉み潰した。
……その後も、澪の不注意で短めのスカートからチラチラと見える白いモノとか、事あるごとに見せる可愛すぎる表情とか……とにかく俺は邪念を揉み消しまくった。
◇ ◇ ◇
数日後、side澪
窓から差し込む朝日にボクは目を覚まし、時計を確認した。
「…………。」
ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!?!?
今日は高校の入学式だってのになんで起きなかったんだボク!!!!!!ってか、そんなこと言ってる場合じゃないよ!!!!
急いで着替え等支度を終わらせ、自室のドアを蹴り開けて一路一階へ猛進。階段を駆け下り、靴下のせいでグリップしない足でスリップしながらバイクレースのように体を倒して無理やり曲がり角を抜け、リビングへ飛び込む。準備が出来ていた朝食を早食い記録を更新して食べ、時計に目をやると、開始まであと20分程しかなかった。着くまでにかかる時間と殆ど一緒だった。行くだけで始まってしまう。
「ちょ、走らなきゃ間に合わないじゃん!!!!行ってきま~す!!!!」
そう言って母さんの返事も待たずにリビングを飛び出すとちょうど其処にいた楓姉さんに呼び止められた。
「何、姉さん!!!時間無いの!!!!」
「それなんだけどね、なんならあたしのFDに乗ってく?」
「乗るっ!!!!!」
そのときのボクには楓姉さんが天使に見えた。
”ギャギャギャギャギャッキュオオオオオ!!!!”
スキール音を響かせながら交差点をドリフトする青い流星が駆け抜ける。街中でドリフトとはどうかと思うが、姉さん曰く、「あたしは事故とか、他車に迷惑はかけないの!」だとか。まぁ、現に車通りが途切れたところを正確に狙って走ってるんだから納得できる。それに姉さんのドラテクなら尚更だ。
とにかくこれなら入学式にも間に合うだろう。初日から遅刻なんてかっこ悪すぎるもんね。FDの硬いサスの衝撃に揺られながらボクはそんなことを考えていた。
渋滞を避けて裏道を通ったりしながらFDは家を出てから実に5分で目的地【東雲学園】に到着した。
「お~東雲懐かしいなぁ。それじゃ、高校がんばってね~」
そう言い残した姉さんはFDを発進させた。
”ヒュォォォン・・・ルオオオオオオオオオ……ンッ”
RE独特のエギゾーストノートを響かせ、青いⅥ型FDは曲がり角の向こうに消えた。
「……今回は姉さんがあんな人で良かったかもしれないなぁ」
気を取り直してボクは教室へ急ぐべく、校舎へ入った。
てなわけで前後編に分けることに。
前回絡まれてた女の子の正体は次回になりますw