姉君の心の内
拍手に置いていた小話です。
リリアナとヴィルフリートの婚約はフォンディアの伝統の花祭り、フォルフルーレで発表されることになった。春の始め、花が一斉に咲き始めた季節に行われるお祭りで、農業国であるフォンディアでは豊穣祈願の祭りとして知られている。
お祭りでは未婚女性は、王族の姫たちのティアラに似せて白い花で作った花冠を頭に載せて、祭りを楽しむのだ。王都のメインストリートには屋台が溢れ、花娘と呼ばれるその年に成人を迎える女性たちが馬車に乗ってパレードを行う。そしてその先頭には未婚の王女が立つ。現在は三人の王女がみんな未婚であるので、三人で一緒に立つことになるだろう。
――しかし。
「来年からは私とリリアナ。再来年には私一人だけかしら?」
フォルフルーレの際に着るドレスは純白の白であるとされている。もちろん、町娘が着るのはそうではないが、王女の衣装は真っ白であると決められているのだ。
ルシールの自室にて、その衣装の衣装合わせをしている際にルシールから思わずという様子で言葉が漏れた。それを聞いて、長年使えてくれている衣装係がふわりと微笑んだ。
「お二人のご婚約がお決まりになられたのでしたね」
彼女は優しげに言いながらも、その手は止まらない。ルシールの好みをしっかり把握している彼女は、そう言いながら針で仮止めをしているのだ。ルシールが言わずとも、好みの形に仕上げられていくドレスを見ると彼女との付き合いの長さがよく分かるように思う。
「……ねぇ。そういえば、あなたは姉さまや妹はいらっしゃるの?」
「はい。妹が二人おります。もう二人供、嫁いでしまいましたわ。姉妹では独り身なのは私だけです」
そう言ってくすりと笑う彼女の笑みに寂しさの色は見受けられない。
「寂しくない?」
「寂しくないと言えば嘘になりますね。それまでずっと一緒に育ってきたのですから」
「そう……」
ルシールは彼女の返事を聞いて、しゅんとうな垂れた。そんなルシールを見て、明るい声を出したは目の前の女性だった。
「でも、そんなの一瞬だけです。夫となる人と一緒にいる時の妹の顔も幸せそうなことときたら!それに、姉妹の仲が無くなるわけではありません。私と妹はどんなことがあろうとも、ずっと姉と妹なのです」
「そう、ね。ありがとう。ナターシャ」
「いいえ。――姫様、こちらにこのレースで花を作ってはいかがでしょう?」
「花?いいわね!付けて頂戴」
はっと気付いたように顔を上げたナターシャの言葉で、しんみりとした空気はあっという間に霧散する。乙女達の間にお洒落を楽しむ心より勝るものはないのである。




