とある護衛によるフォンディア滞在記録その3
38話~54話までの内容を含みます。
アベルニクス暦594年○月×日天気曇り
フォンディアより、ガルヴァンへ帰国してしばらく。再び、フォンディアへ訪れることとなった。これも、食料事情を陛下に直訴なされたヴィルフリート殿下の熱い気持ちが通じたおかげである。殿下の気持ちが通じたおかげで、私はまた女神――ジゼル嬢にお会いすることができる。彼女は元気にしているだろうか?そんなことを考えながら、殿下の後ろを着いて歩く。すると、やはりリリアナ様の後ろに彼女は控えていた。控えめで優しげな笑み、やはり彼女は私の女神である。
だが、そこではっと我に返る。私の職務は殿下の護衛だ。そう思い直して、殿下のことをちらりと見れば、殿下はリリアナ様を目の前に顔が緩んでいる。……私たちの前で厳しい顔をしている殿下とは人が違うようなのだが、気のせいだろうか?
――いや!きっと、これも女性たちの前で怖がらせてはいけないという殿下のお心遣いなのだ!間違いない!やはり、殿下は素晴らしい人である。
アベルニクス暦594年○月×日天気晴れ
本日はフォンディア国リコンテ領の特産品である、ルージュ作りを見学した。正直、酒は飲む専門で酒を作るなんてことは考えたこともなかった。だが、そんな私ですら感心してしまうほどリコンテのルージュ作りは繊細で丁寧だった。しかし、そんな様子に魅入られていたのは私だけでなく、殿下たちもそうだったらしい。
殿下たちの足は止まり、二人で楽しげに話しながら酒樽を見ている。酒の樽を見ながら笑い合えるというのは、一体どういうことなのだ。男女二人で居れば、それが酒樽であろうと空の樽であろうと、面白いのだろうか。そうなのだろうか。思わず、そう考えながら頭を悩ませていると、隊長がため息を吐いた。そして、ようやくこちらへやって来たお二人に注意をしていた。……が、自分のことを褒められて戻ってきた。隊長はニヤけるのを我慢すると、米神がピクピク動く癖があるの知っていますよ。
アベルニクス暦594年○月×日天気晴れ
リコンテの視察中、唯一当てられた休養日が今日である。ヴィルフリート殿下は、なんと!お忍びでリリアナ様と街へ視察に行かれることになった。これが自国であるならともかく、ここは他国のフォンディアである。問題がないのかと心配になったが、殿下の様子を見る限り止まる様子はない。隊長も私の顔を見て、首を振った。……分かります。諦めろってことなんですね。
殿下は楽しげに私たち護衛の服を奪――借りて、リリアナ殿下の下に向かわれた。二人は私たちのことなど忘れたように楽しげで。そういえば、途中の屋台の女将が気になる話をしていた。なんと、リリアナ様とローレンス殿が恋仲であるという話だ。私の前ではその様な様子は見せないが、それもやはり禁じられた恋だからというヤツなのだろか。まるで『ユーリア王女と騎士ラベルト』のようではないか!思わず目を輝かせて見ていたら、隊長に殴られてしまった。
そして、そんなことを考えている間に殿下が!殿下が、聞き捨てなら無いことを仰っていた。殿下もリリアナ殿下に想いを寄せていらっしゃるだなんて、まるで小説のようではないか!私は影ながら応援しています。
教会を出た後、屋台を覗いていたかと思うと、あっと言う間に私たちの前から走り去ってしまった。とは言っても、リリアナ殿下をお連れしてのことだから、正直目が追えないほどではない。隊長は見失っていたようだが、私は殿下が行かれた方向をしっかり見ていた。
でも、と思ったわけである。普段重責を追うお二人に少しくらい自由な時間があっても良いのでは、と。隊長にはさっさと見つけ出せと言われ、実際見つけ出していたが、少しの間だけは二人きりにして差し上げたいと思ったのもまた出すぎた真似なのだろう。
アベルニクス暦594年○月×日天気雨
フォンディア王都へ戻って来た晩。フェルディナン陛下が晩餐会を主催された。それにはもちろん、ヴィルフリート殿下もご出席なされたのだが、その会では陛下が驚きの発言をなされた。
なんと!ルシール王女とのご婚約を示唆するようなことをお話されたのだ。傍にいらっしゃった、王妃レオンティーナ様との間に生まれたご息女でいらっしゃり、リリアナ殿下の姉上である。前にご拝顔させていただいた時も、美しい方だと思ったが、レオンティーナ王妃様もまた大変お美しい方だ。ルシール殿下をお産みになられたとは思えないほど、若々しく美しい。若かりし頃は絶世の美女と名を馳せたそうだが、正直今でも私は――!
そんなことを考えている間に、殿下たちのお話は終わったらしい。ヴィルフリート殿下は取ってつけたような笑みで、丁寧に言葉を濁していらっしゃった。
アベルニクス暦594年○月×日天気雨のち曇り
リリアナ殿下の姿が消えた。城の者は、急に体調を壊してフリアンへ療養に向かわれたと話すが、どうも様子がおかしい。ヴィルフリート殿下の機嫌も悪い。隊長にリリアナ殿下の所在を探れと任務を与えられた。
アベルニクス暦594年○月×日天気曇り
今日も晩餐会でルシール殿下のことを言われたらしく、一段とヴィルフリート殿下の笑みが胡散臭いものになっている。リリアナ殿下といらっしゃる時はあんなにも自然に笑っていらっしゃるのに。
アベルニクス暦594年○月×日天気晴れ
今日は風が強い。リリアナ殿下はディオン殿下の屋敷にいらっしゃることが分かった。我が女神、ジゼル嬢もそちらにいらっしゃった。その話を申し上げると、早速ヴィルフリート殿下はそちらに向かわれるとのこと。それに伴って、護衛――ヴィルフリート殿下付き特殊部隊も付き従うこととなった。ディオン殿下の屋敷に忍び込むとは行っても、人数が多ければ多いほど見つかりやすい。今回は敵相手ではないので、眠らせることも傷付けることもできない。つまり、絶対に見つかってはいけない。そのため、私が一人で殿下のサポートに当たることとなった。少し危ない場面もあったが、殿下はリリアナ様の所へ辿りついたようである。
しばらく辺りを警戒しながら、近くで待っていた。本当に穏やかな国だと思った。
結局、ヴィルフリート殿下はリリアナ様をお連れすることは叶わなかったようだ。だが、その表情に満ち足りたものを感じる。
アベルニクス暦594年○月×日天気晴れ
リリアナ殿下が城へ戻られたという話を聞いた。それをヴィルフリート殿下にお伝えすると、安心したようだった。これで殿下の公務にも力が入ることだろう。
アベルニクス暦594年○月×日天気雨
リリアナ殿下がお城に戻られたというのに、お会いすることが叶わないらしい。どうやら身体の調子が悪いそうで、臥せっているのだと言う。だが、ジゼル嬢も休暇を貰っているらしく、城にいない。主人が臥せっているのに休暇を貰うなんてことがあるのだろうか?
アベルニクス暦594年○月×日天気晴れ
何だか城の中が騒がしい。空気がざわついているとでも言うのだろうか。殿下にそれをお知らせすると、殿下は悩ましげな顔で眉を顰めた。その後、城の中を探るように放たれた。ディオン殿下の屋敷と比べると、当然ながら警備も多い。だが、不自然な穴があることに気付いた。まるで、故意に開けられたような警備の穴。それはリリアナ様の居室の傍であった。
大急ぎで殿下の下に戻ると、そこに殿下の姿はなく、パニックに陥っている隊長を始めとする面々の顔がある。話を聞くと、風が部屋に入ってきて、殿下を連れて行った。そんなおとぎ話みたいな話を聞いて、納得できるものか!とりあえず、殿下が消えたという方向へ向かう。その場所へ向かうと、すでに事は起こっていた。ギルバート殿下が指揮する兵たちが居て、この国の貴族だろうと思われる人物を取り押さえていた。そしてしばらくして、殿下がリリアナ殿下をお連れして屋敷から出てきた。
とりあえず、言えることは殿下が無事で良かったということである。
アベルニクス暦594年○月×日天気晴れ
ヴィルフリート殿下からの親書を持って、私一人でガルヴァンへ戻ることとなった。この親書を陛下にお届けすることにより、殿下がリリアナ殿下との婚約が成立することになるのだ。そう思うと、軽いはずのこの紙もまるで石のように重く感じる。
しかし、それを私に預けてくれた殿下のお気持ちにお応えしなければ!という思いも強い。少しでも早く、ガルヴァンに着けるように帰路を急ぐ。
『ヴィルリート王子とリアーナ姫~異国の姫君~』作/ラモン・エドワード
ヴィルリート王子が公務で異国に立ち寄った際、知り合ったのがフォンディーヌ国の姫君・リアーナ姫だった。真面目で実直な王子と、芯の強い姫。二人は次第に恋に落ちるが、彼らに待ち受けるのは国という壁。そして連れ去られる姫を王子は救うことができるのか――。
元関係者!?とも噂される、ラモン・エドワードによる人気著書!
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※本作はフィクションです。実在の国や団体とは一切関係ありません。




