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理想のお姫様たち  作者: 香坂 みや
本編別視点
10/14

47話 想い(IF ローレンス)

47話でやって来たのがローレンスだったら……という、仮想のローレンスがお相手の話です。ローレンスを応援して下さった方々に捧げます!

「……ローレンス、きっと心配しているわね」

 ぽつりと漏れた言葉は重く自分の心に沈む。

 ベッドの上で読んでいた本の内容は全く頭の中に入って来ない。ページを捲る手は止まり、頭に思い浮かべるのはきっと自分のことを心配しているであろう自分だけの騎士のことだ。昼間、ジゼルに頼んで自分は元気で居ることを伝えてもらうように頼んだ。だが、それでも心配性な彼はきっとリリアナのことを心配して居ても立ってもいられないでいることが簡単に想像できる。

 彼がリリアナの騎士になってから、まだたったの数ヶ月だ。それでもいつも片時も離れずにリリアナに尽くしてくれる彼は今では無くてはならない存在になっている。まだ数日しか離れていないのに、こんなに不安になるのはどうしてなのだろう。本当は答えは出ているのに、その考えを頭を振って散らす。


 その時、背丈よりも高い大きな窓の傍からガタリと何かが揺れる音がした。窓の傍には大きな木が立っているので、その木が揺れる音だろうか?と考えていると、再び窓が音を立てる。

「――!」

 恐る恐るリリアナが窓の傍に寄ると、窓がゆっくりと音も立てずに開いた。そしてそこに現れたのは黒い衣服で頭から足先までを身を包んだ人。目元だけを晒しているだけで顔は見えないが、背丈からして男であろうと思われる。リリアナは身を固くして、僅かに後ろに下がると男は口元を覆う布を顎までずらし、被っていたローブの頭の部分を外した。

「――リリアナ様、私です。ローレンスです」

「ろ、ローレンス!?」

「ッ!リリアナ様、お静かに。気付かれます」

 思わず驚いて声を上げてしまったリリアナの唇にローレンスは慌てて口の前に人差し指を立てて止めた。おのずと近づくその距離と、自らの唇に触れるその指にリリアナの顔は花が咲くように赤く染まった。動揺してしまい声を出すことも出来ずにただ首を縦に振って頷いたリリアナを見て、ローレンスも自分のしていることにようやく気付いたらしい。慌てて指を離すと自身もリリアナと同じように顔を赤色に染めた。

「……も、申し訳ございません!」

「い、いいのよ。私が声を上げてしまったから。……それよりも、どうやってここに?」

 リリアナは動揺した心を誤魔化すように、ローレンスに急いで質問をした。何せここは王位継承権第二位を持つディオンの屋敷だ。それ相応の警備がなされており、当然ながらそう簡単に忍び込めるような場所ではない。

「それは、その、まぁ方法は色々あるものです」

 にっこりと笑みを浮かべたローレンスは質問には答えるつもりはないようで、そのまま笑顔を崩さずリリアナを見るばかりだ。そんなローレンスにリリアナはため息を吐いて、そっと彼の腕に触れる。

「私は無事だとジゼルが伝えたはずよ。……怪我はしていない?」

 怪我を確かめるためというつもりだったが、突然リリアナに触れられたローレンスはびくりと身体を跳ねらせた。そしてまるで石像が動くかのようにゆっくりとリリアナを見たままからだを硬直させている。

「り……リリアナ様!?」

「私は私のために貴方に傷付いて欲しいわけじゃないわ」

 顔を俯かせてぽつりと呟く。それは小さな声であったが、その距離故にローレンスの耳にもしっかり届いた。

 叔父であるディオンはリリアナに危害を加えようとする者、または自分からリリアナを連れ去ろうとする者に容赦ないだろう。たとえリリアナがどんなに懇願しようとも、その手を緩めることはないように思う。それはローレンスが相手でも同じことで、彼は簡単にローレンスを亡き者にしてしまうかもしれない。それを思うとリリアナの胸はぎゅっと締め付けられる。リリアナがここにいることでローレンスが傷付かないのであればそれで良いとさえ思う。

「リリアナ様、私は大丈夫です」

 その声を顔を上げると、ローレンスはリリアナを安心させるように優しく微笑んでいた。でも、そう言われても不安なものは不安だ。リリアナは瞳を潤ませ、ローレンスを見上げる。

「……私、ローレンスが傷付くところを見たくないの。――貴方を失うことが怖いのよ」

 声を震わせ漏れた言葉と一緒に、一滴の涙が零れた。ローレンスはふわりと穏やかな笑みを浮かべたまま、右手の親指を這わせてその雫の拭った。

「こう見えて案外強いのですよ。ですから、どうか私の事はご心配なされずに。私が恐れることは、リリアナ様のお傍に居られないことだけなのですから」

「ローレンス……」

「己が仕える主にこういった想いを持つことは許されることではないのかもしれません。それでも、私はリリアナ様を愛しく想っております。どうか私の命が尽きるその時まで、リリアナ様のお傍に居ることをお許し下さい」

 ローレンスは熱の籠もった瞳でそう告げて、リリアナの左手を取るとその薬指に唇を落とす。その熱い視線はリリアナの瞳を絡めたまま離さない。リリアナの胸は煩く高鳴り、その音はローレンスの耳にまで届いてしまいそうだと思う。

「許さないわ!」

「……やはり許されない想い、でしたか……」

 リリアナの強い調子の言葉にローレンスは目に見えて分かるくらいに肩を落とし、悲しげにリリアナの手を離した。

「何があっても、私の傍から離れることは許さない。ローレンスの指の先から髪の毛一本まで私のものなんだから」

 リリアナはそう言い切って、ローレンスの胸に飛び込む。突然の衝撃にも難なく受け止めたローレンスは驚きと戸惑いに支配されたまま、リリアナを見ている。

「それは、その……?」

「言葉にしなくては分からない?……私も、同じ気持ちよ。私の命が尽きるその時まで傍に居て。片時も私を離さないで。お願いよ」

「――!」

 ローレンスはリリアナの名を呼び、自身の身体に比べて一回りも小さな身体を愛しげに抱きしめた。そしてその肩口に顔を埋め、小さく身体を震わせた。

「……信じられません。こんな幸せが我が身に起こるなんて」

「それなら、こうしたら信じられる?」

 リリアナはそう言って、僅かに身体を離してローレンスの唇に自らのそれを触れさせた。ほんの一瞬触れただけの口づけ。だが、それでも二人には十分だった。ローレンスの瞳は愛しげにリリアナを見ていて、きっとリリアナの表情も彼と同じだろう。ローレンスの手はもう二度と離さないとでも言うかのようにリリアナの身体をきつく抱き寄せ離さない。

「……どうやらまだ信じられないようです」

「そんな」

「ですから、確かめさせて下さいませ」

 ローレンスは愛しげにリリアナを見つめたままその距離をさらに縮めた。リリアナはそっと瞼を閉じて、その甘い口づけを受け止めた。


 だが、甘い時間はそう長い時間続かなかった。

「――リリアナ様、物音が聞こえた気がするのですが?入室してもよろしいですか?」

 ノックの音と同時に扉の外から寝ずの番をしている屋敷の侍従の声が聞こえる。

「何でもないわ。ちょっと本を落としてしまっただけよ。今上掛けを羽織るから少し待ってちょうだい。――人が来るわ。ローレンス、一先ず帰って」

「しかし!」

「大丈夫。ここに危険はないわ。……それに、私はここから自分の足で出なければならない。そうしなければずっと逃げ続けるだけだわ」

 リリアナの言葉にローレンスは納得がいかないように引き下がる。リリアナは笑顔でそれを制して、ローレンスの頬み右手を添えた。

「……リリアナ様」

「必ず城へ戻るわ。だから城で待っていて。私の心は貴方と共にあるわ。――お願い」

 リリアナはそう言ってローレンスに触れるだけの口づけを落とす。

「貴女は卑怯だ。リリアナ様にそう言われたら、聞かないわけにいかないではないですか。……どうか、ご無事で」

 ローレンスは最後にぎゅっとリリアナの身体を抱きしめて、来た時と同じように窓から出て行った。開かれた窓からは風が入り、ひらひらとカーテンがたなびく。すぐに見えなくなったその姿を見続けていると、扉が開かれ人が入って来た。


「――リリアナ様?」

「窓を開けていたから本が落ちたのね。今日は風が強いもの」

 リリアナは窓を閉めながらそう言って、ローレンスが来た時に落としてしまっていた本を閉じた。

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