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3話



青龍からの帰り香澄を探して歩き回ったけれど、結局追いつくことが出来なかった。

何度も携帯に電話をかけ、メールを送ったりしたが、電源を切っているようで繋がる事はなかった。

もちろん、メールへの返信は、一切なかった。


ゆめは携帯を握り締めたまま、自室のベッドにうつぶせに寝転がった。



香澄は、酷く怒っていた。

私が龍さんに話しかけたのが悪かったんだ…彼女の龍さんへの気持ちを知っていたのに…


ゆめは香澄を酷く傷つけてしまった事実に苦しみ、自分を責め続けた。

自分の行動は香澄にとって裏切り行為と映ったに違いない。

とにかく謝りたかった。

香澄を傷つけるつもりはなかった、と。



けれど。


今日のことでゆめの心の隅っこの方に、簡単には消えそうにないほど龍の笑顔が焼き付けられたのは

事実だった。

それが一体自分の中のどんな感情からくるのかわからなかったけれど、龍の真直ぐな力強く澄んだ

瞳がこれまで出会った中でも一番信頼できる人なんだと無条件に思わせてくれる。


こんな気持ちを持ってしまうという事は、香澄の気持ちを踏みにじり、彼女の恋路を邪魔することに

繋がっていると言えるのかもしれない。

とても卑怯で浅ましい行為なのかも…。


考えて考えて考えつめて出てきた結論に、罪悪感が募り、ゆめを苛んだ。



ゆめはごろりと寝返りを打ち、天井に向かってブレスレットがある右腕を伸ばした。

きれいなトンボ玉とシルバーチャーム。

龍はこれが特別だと言っていた。

それを自分が所有することを許されたのは信じられないことだったが、それでももう今更これを

手放すことは出来そうになかった。


これがあれば、これまで閉じこもってきた殻が破れ、新しい自分になれるんじゃないか…そんな気が

するのだ。

臆病な自分に特別の勇気をくれる、唯一無二のチャームだ。


チャームの一つ一つに指を滑らせる龍の指をふと思い出したゆめは、本人の意思に反して頬が

どんどん赤らんでいった。

自分よりも大きな節くれ立った指は男の人にしてはほっそりとしてて、次々とアクセサリーを生み

出していく技を宿しているのだと思うと、とてつもなく摩訶不思議な存在に見えた。


魔法の手だ…ゆめはそう感じた。


人を元気にしてくれるチャームを作り出し、頭をぽんぽんと撫でただけで哀しくて不安な気持ちを

やわらげてくれる。



『ずっとあの温もりが自分の傍にあってくれたら』


…ゆめはそう考えて、はっとした。



自分が知らず龍に温もりや安らぎを求めていたことに、今更ながら気付いた。

出会ったばかりだというのに…


それが恋と呼べるものなのか、それとも無防備な雛鳥が親鳥を求める気持ちなのか、ゆめには区別

できなかった。

ただ龍だけは自分を傷つけたりしないと、根拠もなく信じることが出来る、それだけだった。



「……もしかしたら、考えている以上にストレスたまってるのかも」

ゆめはふぅ…とため息をついた。



時計を見れば、もうすぐ11時になろうとしていた。

そろそろ眠らなければ、明日は学校がある。

そうでなくても安心して眠れない日々が続き、慢性的な寝不足になっているのだから。


ベッドから飛び起きて、自室の扉に付けられた真新しい二つの鍵がちゃんと閉められていることを

確認したゆめは、パジャマ代わりに来ているスウェットに着替え、枕元に置いてある新品の

ジョギングシューズがちゃんとあるか自分の目で確かめた後、電気を消し、ふとんにもぐりこんだ。



今日、ゆめの母親は会社に泊まりこんでの残業だし、現在父親という立場にある男は海外への

長期出張に行っていて、1~2週間は帰宅しない予定だ。

ほっと体の力を抜いたゆめは、それでもいつもと同じ浅い眠りの中を漂った。






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