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番外編6



さぁ泳ぐぞ!…と宣言された割には、にーちゃんは鷹にーさんに借りたパラソルの下に連れて行かれてしまった。

にーちゃんを連れて行かれてぶぅぶぅ文句を言ったら、「男には男同士の話があんだよ」と鷹にーさんにウィンクされた。

志津子が「…素でウィンクする人なんて、始めてみたよ…男前だから許される行為だね」と冷静に判断していた。

確かに…。



仕方がないから、女ばっかりでパラソルの前に広がる流れるプールに飛び込むことに。

プールサイドからどぼんと飛び込めば、水の冷たさにうひゃぁ!と叫んでしまった。

志津子もねーさんもゆめも冷たい!と満面の笑顔で、めちゃくちゃうれしそう。

志津子は普段絶対しそうにないポニーテールだし、ゆめはかわいいおさげだし。

笑顔がさわやかで、まるでCMにでも出てきそう。

これだけでも来てよかったって感じ!


プールを1周するたびに、にーちゃんと鷹にーさんの様子を伺う。

男同士の密談は続いているようだ。

そのうちにーちゃんを開放してくれなければ、ゆめとくっつける作戦は実行できないではないかと気付いた。

楽しすぎてすっかり忘れていたけれど。


4周目を過ぎる頃、使命を忘れる前にといろはねーさんに話を振る。


「ねぇねぇ、いろはねーさん、このままにーさんがにーちゃん独占してたら

 作戦決行できなくね?」

「まぁ、そうだけど…鷹には鷹の使命があるのよ」

「何それ?別指令?」

「当たり前じゃない!鷹だってプールで遊びにきてんじゃないのよ?

 龍で遊びに来たんだから!

 鷹も参加したいに決まってるじゃない」

「うわっ!完全包囲網」

「ふふふ…鷹にはせいぜい龍の不安を煽ってもらわなきゃね~」


にやりとほくそえむねーさんは、完全魔女モード。

絶対に敵に回したくないぞ。

私は心の中でにーちゃんに向かって手を合わせた。




しかし。

それにしても。


これだけ流れるプールに入ってたら、嫌でも目に付くんだけど…ゆめって、カナヅチ?

浮き輪を抱きしめたまま決して放そうとしないし、ちょっと浮き輪を揺らしただけで慌ててるし。

聞いてみたら、真っ赤な顔で頷いた。

あのゆめにも不得意なものがあったんだ~!と驚き。

なんでもそつなくこなすのにねぇ。



「ねぇ、そろそろ一旦上がらない?」

「アイスでも食べに行こうよ、いろはさん!」


いろはねーさんの掛け声にうれしそうに志津子が応えた。

アイスはいつでも大歓迎だ!!


私は流されかけていたゆめの浮き輪を引っ張って、プールサイドに向かった。

ひざの高さぐらいになってから浮き輪を放すと、ゆめがすっと立ち上がった。


うっ…うっわぁ~!鼻血だ!鼻血ものだっ!

なになになに?これっ!?

このモデルのような神々しさは!?

いろはねーさんも志津子ももちろん美しいし、かわいい。

けど、なんかリラックスしているゆめは次元が違う気がする。

近づきがたいわけではなく、それなのに触るのをためらうような清廉さ…私の中のオヤジが悶える。

さすが母が美人モデルで父が男前芸能人なだけある。



周囲を見渡すと、私と同じく心にオヤジを飼っている男たちがじろじろとゆめを見ている。

おぉ!もしかして、ここにゆめを置き去りにしたら、狼の群れに羊放すようなもん?

にーちゃんをちらりと見ると、ゆめを見たまま固まってる。

…あれはもう、当てにならんかもしれん……。

ちなみに、鷹にーさんはいろはねーさんに釘付けだ。

男って、どうしようもねぇな!



小さく毒づいていると、いろはねーさんが鷹にーさんに抱きつき、顔を寄せ合った。

ぎょぎょっ!!



「…ちょっと、アイスクリーム食べてくるわね?」

「あぁ、行っておいで?

 でも、他の男に気をつけろよ?」


鷹にーちゃん、人目も気にせずちゅーしたよ。

唇に。


うわぁ~たかだかアイス買って食うって報告だけで…バカップルだよ。

純正バカップル。



志津子は感心してるし、にーちゃんは呆れてるし、ゆめは真っ赤になって硬直してる。


…うわ。

ゆめ、全身真っ赤だ。

恥ずかしがって顔を赤らめたら、全身こんなになってんだ~。

こういうの、なんていうの?

扇情的?

蠱惑的?

凶器だな、こりゃ。

めちゃくちゃうまそう…。



離れがたそうな二人にはいはい、と適当なリアクションをしてから、4人でバッグを持ってフードコーナーに行った。

にーちゃんが付いてこようとしていたようだが、なぜか鷹にーさんが止めていた。

なになに?

作戦が始まってるとか??


いろはねーさんと志津子に視線を送ると、にんまりと笑った。

うわ。

似たようなタイプだったんだ~、やっぱり。




…ってな感じで、けなげに作戦について考えていたのも、ソフトクリームを手に入れるまでのことだった。

乳風味濃厚な激うまソフトを前に、へたれにーちゃんの恋愛についてなど考えられるだろうか?

いや、それは無理。

心の中で反語をキメる。

これで国語のテストもうまくいくに違いない。



それにしても、女4人で和気藹々は楽しい。

お互いのアイスを試食しあい、心も腹も大満足だ。


「みんな食べ終わったみたいだし、私、手を洗うついでに

 ごみ捨ててきます」

「ありがと~!お願いね!」



ゆめはさささとごみを集め、ゴミ箱に寄ってから手洗い場に向かっていった。

それにしても、ゆめは姿勢がきれいだなぁ。

今はパーカーを着込んでいるけど、すらっとして本当にきれい。

パーカーから伸びる足なんて、どんだけ長くて白いんだ?とうらやましくなるぐらい。

その上性格よし!心根よし!なんて、あまたの女に言い寄られてるにーちゃんが陥落するのも無理ないよなぁ~。

将来的には私のお義姉さんになるんだもんな。

お義理さんか…いいなぁ、たまらん、お義姉さん。



…などと妄想しながらぼんやりとゆめを目で追っていると、見知らぬ男二人がゆめに近づいてきた。

大学生ぐらいだろうか?それとも、もっと上?

って、何で男二人でこんなとこ来てるんだ?

男性陣には気の毒なことだが、女二人でプールに来るよりも痛々しい感がより強く感じられる。

男って、そういうところ不便だよなぁ~。


…って、違う違う。

そうじゃなくって。

ゆめだよ、ゆめ。


最初は和やかに何かを説明していたゆめも、男が何やら言ってから顔色が変わり、さらに男のうちの1人が手首を握った瞬間に真っ青になって硬直した。

やばいっすよ、やばいっ!

私はゆめに背を向けて座っているいろはねーさんと志津子に、「ゆめがヤバイ!」と叫んだ。


「あんたたち、待ってな!」と言い残し、いろはねーさんが突進していった。

ちょっと距離がある位置だったけど、途中、ねーさんも変な男に声をかけられている。

体の大きな、めちゃマッチョなヤツ。

突然腕をつかまれて噛み付くように怒鳴っているねーさんに、白い歯をきらきらさせて笑ってる。

すげぇ、神経及び脳みそこれ全部筋肉タイプだ。



…って、全然助けになってないしっ!!!


志津子と二人で目を見合わせ、助けに行こうとしたとき。

うわぉ!な光景を見た。


鷹にーさん、殺気が…すごっ!

マッチョが一瞬でねずみみたいにこそこそ逃げてった!

そしてさらに、いろはねーさんを無理矢理引っ張って、建物の影に消えていった。


「うわ~…あれって、かの有名な”愛のお仕置きタイム”かしら?

 これまでマジでやっちゃうんだ~」


志津子のキラキラした目が二人を目で追っている。

…親戚のそういうの、あんまりうれしくない。


そしてゆめの方に目を向けると、なな、なんと!

ゆめを抱き上げているにーちゃんと、にーちゃんの首にしがみついているゆめ。

男たちはとっくに立ち去っていて、いいところを完全に見逃したことを知る。


にーちゃんたちはつかつかと私たちのところに来て、「パラソルの方に行ってるから」と告げた。

「お前たちも気をつけろよ」という言葉に「はーい」とよいこの返事を返し、志津子と二人元の席に座った。



「なんか、うまくいったっぽい?」

「馬鹿ね。水着のゆめを見せた地点で、目標達成してるのよ」


そうか、と思った。

ゆめが魅力的であれば、それだけでにーちゃんが行動するきっかけとなるのだ。

だからか。

志津子が来た時からずっと純粋に楽しんでいたのは。


だったら私も楽しもう。

ということで…


「ねぇ、志津子。

 あそこの屋台、全部制覇しない?」

「もちろん。食わずにいられるか!」



私たちは固いこぶしを振り上げ、屋台に突進した。









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