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番外編5



「かーいせぇ~~~いっ!!」



もう、それはすこん!とぬけるような青空。

がんがん夏モードの快晴!

これは日ごろの行いのおかげだと、私は朝からご機嫌モードだ。



麦藁帽をかぶり、お気に入りのパイナップル柄濃紺アロハと白のショートデニムといういでたちで、私は颯爽と玄関から飛び出した。

昨日はいろはねーさんの部屋に3人で泊まってガールズトークをぶちかましたのに、全然疲れなんてない。



にーちゃんは一足先に店の近くにあるコインパーキングに行ってるって。

店には駐車場がないから、昨日の夜うちに置いてた車を取りに行って、そこに預けていたらしい。


早く早くとせかすと、ようやく二人が呆れ顔で出てきた。


志津子はデカTと腿の半分辺りでざっくりと切ったデニムにサングラスをかけている。

ずり落ちた肩から見えるのは、どうやらおニューの水着。

ちんまいくせに大きく見えるから不思議だ。

まさに、リトルジャイアント!


そしてゆめは淡いオレンジやピンク、黄色の花が散らされた、マキシ丈のノースリーブワンピに生成りのボレロを合わせている。

籠バッグがすごく涼しげで、夏らしい。

お嬢様だ、生粋のお嬢様だ!


二人ともかわいいっ!

友達でよかった、と心から思う瞬間だ。




教えてもらった駐車場に行くと、メタリックで夜みたいなブルーの軽自動車が止まっていた。

見慣れたにーちゃんの車。

運転するところはあんまり見ないけど、家に置いてあるからね。

たまに兄孝行と称して洗ってあげてるんだぞ!

…それ相応のおこずかいもらってるけど。



私たちに気づいたにーちゃんは、一瞬目を見開いた後「…おはよう」と言った。

およ?

挙動不審。

志津子のほうから不気味な笑い声が聞こえるからちらりと見ると、にまにま満足そうに微笑んでる?

…暑さにやられた、とか?



とにかく早く行こう!ということで、私たちは早速車に乗り込んだ。

もちろん、助手席はゆめ。

最初は後部座席に乗り込もうとしたけれど、にーちゃんがさささとやってきて、当たり前のように助手席のドアを開けてゆめを押し込んだ。

やっぱり大人だよなぁ~。

エスコートが自然だ。

…と思っていると、志津子が「あからさますぎ」と小声で呟いた。

なんでこれで進展しないのかねぇ…とぼやいている。


う~ん…同じものを見ているはずなのに、なぜにこんなに見解が違うのか?




平日のラッシュの名残か、道は少し混んでいた。

けど、都内を出ると車はすいすい進み、順調に大磯にたどり着いた。

夏休みというだけあって、学生らしい姿が多い。

活気があって、はしゃいでいる人たちの姿を見るだけで、体がむずむずする。



「早くいこぉ~!!!」


私は全員を先導して、ぐいぐいとプール目指した。





にーちゃんとは更衣室前で別れた。

女子更衣室に入ると、まぁそれはそれは華やかな世界だった。

女の子たちが全員華やかで、輝かしい!!

これだけ半裸の女が集まるってのも圧巻だよなぁ~!と呟くと、志津子に「オヤジ!」と指摘された。


いいんだよ、オヤジ万歳だ!



私や志津子はさくさく着替えてしまったというのに、ゆめはもじもじしててなかなか終わらない。

どうやらいまさら自分の水着に怖気づいたようだ。


志津子は呆れたような目をゆめに向け、腰に手を当てて自分の若干ボリュームに

欠ける体|(本人談)をさらけ出した。


「私のこの貧相とも言える体、さらしているのが恥ずかしいとでも言うの?

 私が恥ずかしくないというなら、ゆめのダイナマイトボディが水着に

 包まれることに、何の問題もないでしょ?」



どうだ!と言わんばかりの、自虐的主張。

素敵だ!素敵過ぎるよ、志津子!


それでももじもじするゆめに業を煮やした志津子は、「…やるよ」と私に目で合図をした。

阿吽の呼吸で応じた私は、志津子と二人でさくさくゆめの服を脱がしにかかった。


「え、ちょ、ちょっとっ!ま、まっ…て!」と慌てるゆめを「大人しくして!」と制する志津子は、まるでお母さんだ。

流石に下着に手をかけると、「わかったっ!ちゃんと着るからっ!」とゆめが断固と抵抗したため、私はしぶしぶ手を離した。

どうせなら、最後までやりたかった。



決意してからちゃっちゃと水着に着替えたゆめは、最後にパーカーを着こんでそのナイスバディをしまいこんでしまった。

もったいない…。


とにかく用意は出来た。

みんなかばんも持ったし、日焼け止めだって忘れてないし。

さぁいくぞ!…と音頭をとってプールへの入り口に向かった。



更衣室を出ると、やっぱり既ににーちゃんが立って待っていた。

週に何回ジムで鍛えてんだか知らないが、体には美しく筋肉が乗っていてかっちょいい。

白地に、左足の部分だけ水色のやしの葉っぱのイラストと濃紺のブランドロゴが入っていて、めちゃさわやかスポーツマン系。

なんだかちょっとゆめの水着とおそろいみたいで、どきっとした。

以心伝心?


でもなぜか1人で待っているわけじゃなくて、なにやら知らないお姉さん二人とお話中。

1人はにーちゃんの腕に手をかけ、かなり親密そうにしてる。

知り合いかな?


志津子が興味深深で私に聞いてきた。


「ねぇ、あの派手な女の人って、龍さんの元カノ?」

「…いやぁ…わっかんないんだけど…全然知らない人だし」


ゆめの方を見ると、哀しそうに視線をそらしている。

うわわわわわっ!泣いちゃうんじゃないかな??ってぐらい、辛そうな瞳。


守ってやりたい~!

たまんなぁ~い!!

保護欲が、保護欲がぁ~!!



ようやくにーちゃんが気づいて、私たちに声をかけてきた。

なぜかお姉さんたちが付いてくる。


「おせぇよ、お前たちは!」

「にーちゃん、知り合い?」

「…いや、待ってる間に声かけられた」


にーちゃんは彼女たちに聞こえないように、うんざりしてます感丸出しに言った。

「ねぇ~」と声をかけてきたお姉さん二人に、「こいつらの面倒を見ることになっているから」

と告げるも、お姉さんたちも引き下がる気はなさそうだ。

しきりに私たちはほっといて自分たちと遊ぼうと誘っている。

時折「妹とその友達の高校生なんて面白くないでしょ?」とか「ガキのお守りは止めよ?」とか「やっぱり大人は大人同士が一番よね?」とか、なんだか馬鹿にされているようにしか聞こえないせりふがちらほら…。


しかし志津子はそんなお姉さんの様子を興味深く観察しているようで、「すごいわ~、あれが噂に聞く逆ナンなのね~」とはしゃいでいた。

それとは真逆の位置にいるのが、ゆめ。

すっかり落ち込んで、身を引こう、逃げようと決意しているのがありありと伺える。


ふたりとも、つかえねー。



こういう場合、どうすればいいっすか!?

これに対処できるほどのスキルはございませんっ!


心の中で叫んでいると、後ろから肩を叩かれた。

驚いて振り向くと…。


「あれ!?い、いろはねーさんっ!?」

「みんないた~!

 今日突然鷹が仕事休みになったから、みんな追いかけてきちゃった!」



すげぇ。

真っ黒のビキニ!

色白いから、めちゃめちゃ大人っぽくてセクシーなんですけどっ!


てへ、とかわいらしく笑っているが、あれは完全にわくわくした内心を隠すためだと確信している。

口元は笑ってるけど、目は何かを狙ってるもん。


「いっ!いろはっ!何でこんなところにっ!?」

「ダーリンとデートよ、で・え・と!」

「そうそう、たまには仕事の疲れを癒しにこないと、ね?いろは?」

「鷹~!わかってるぅ!!」


いろはねーさんが好き好き言いながら、鷹にーさんの腕にぎゅむっと抱きついた。

相変わらずバカップルだなぁ。


それにしても鷹にーさんはかっこいい。

背はにーちゃんと一緒ぐらいだけど、めちゃくちゃワイルドでクールだ。

めっちゃハワイアンサンセットな赤から黒へのグラデーションがかっこいい水着に、黒のフレームに夕日みたいなオレンジ色のレンズのサングラス…一見チャラそうな組み合わせも鷹にーさんが着ると男前だ。



この二人の登場で、強引せっつきハデハデ二人組のお姉さんたちは完璧に場に飲まれた。

そして視線を追ってみると、鷹にーさんとにーちゃんにもの欲しそうな視線を向けつつも、いろはねーさんにあからさまな嫉妬光線。

いいね、いいねぇ。



良い具合に彼女たちを煽ってから、いろはねーさんは若干オーバーアクション気味にゆめに近づいた。


「あれ?ゆめちゃん、何でパーカーなんて着てるの?」

「あ…え、は、恥ずかしいから…っ」

「えぇ~!私、ゆめちゃんの新しい水着、楽しみにしてたのにっ!」

「あ、い、今は、まだ…泳がないからいいかな、って」

「でも、プールは泳ぐとろこでしょ?いつまでもこんなもの着てられないし」

「あ…でも」


真っ赤になって俯くゆめに萌え。

なになになになにぃ~?

何でこんなに清純派チックで穢れてませんって感じなワケ!?

絶対私には出来ない芸当だよ。


もじもじするゆめにいろはねーさんは「せっかくじゃなぁ~い、水着見せてよっ!」と言った瞬間、ゆめのパーカーのジッパーを勢いよくおろした。

そしてお目見えする、ナイスバディ。


唖然としているうちにパーカーまで奪われ、立ちすくむゆめに鷹にーさんは行儀悪く口笛なぞ吹いた。



「ほんとだ~!はるかちゃんが言ってた通り超・美乳!」


ねーさんは大はしゃぎしながらふにふにとゆめの片手には絶対に収まりきれない乳を揉み、にーちゃんの方を見てにんまりと笑った。

信じられないことに、一瞬にして逆上したにーちゃんが二人組の手を振り切り、ゆめの腕を引っ張って自分の腕に収めた。


「いろは!いい加減にしろ!」

「なにがなにがぁ?ゆめちゃんのおっぱい触ったのが悪かったってワケ?

 いいじゃない、女同士だし、妹みたいなもんだし!」

「ゆめはお前と違うんだよ!

 見ろ、固まってるじゃないか」



多分それは、にーちゃんが思いっきり抱きしめているせいだと思うよ。

誰かが気づかせてあげた方が良いと思いはするものの、面白いので誰も言い出さない。



なんだかんだでぎゃーぎゃーやってて、気づけば二人組のお姉さんは消えていた。

これで消えなければ、よっぽど自分に自信のある人たちってことだろうよ。

もしくは生粋のKYか?

やっぱりまさかのときのいろはねーさんだよ。



「さてと。邪魔者は消えたし!

 泳ぐわよっ!夏をエンジョイよっ!!」


普段以上に疲れきった表情のにーちゃんの隣で、いつもよりテンション数十倍のいろはねーさんがうれしそうに叫んだ。









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