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番外編4



「ねー、にーちゃぁん、いいでしょぉ~??」



私を無視して作業を続けるにーちゃんのシャツの裾を掴んで、思いっきり上下に振った。

にーちゃんはため息をつき、ようやく私のほうを振り返った。



「何で一緒にプール行ってくれないのぉ~!?」

「女の子同士で行くんだろ?俺が行ったら邪魔だろ?普通に考えて」


完全に呆れきった顔をして、いろはねーさんを誘えって正統派なことを言う。

それじゃこっちのミッションがクリアにならないの!と心で叫び、再び駄々をこねる。



「だぁってぇ~!鷹にーさんがうるさいんだもん!

 いろはねーさんの水着を、俺が見てないときに他の男に見せないとかなんとか…。

 でも鷹にーさん、その日仕事だし」

「じゃあ、平日やめて土曜日か日曜に行けばいいだろ?」

「混んでるし、ヤダ」



あ、ちなみに、鷹にーさんというのは、いろはねーさんの旦那さん、春日一鷹さんのこと。

めちゃくちゃ物静かで何考えてるかわからないところがあるけどとってもやさしくて、ねーさんへの愛が駄々漏れ男だ。



ぷっと膨れてみるものの、にーちゃんの反応はいまいち。

どこから攻めたらいいのかわからん。

”下手な鉄砲数打ちゃ当たる”作戦を強行に進めていく。



「にーちゃぁん、にーちゃんってばぁ~!!」

「流石にこの年で女の子の中に1人ってちょっと気まずいし。

 心配だったらなにも大磯まで行くことはないじゃないか。

 都内の遊園地のプールか都営プールで十分だろ?」

「だってもうチケットあるんだよ?せっかく志津子が買ってくれたのにっ!

 昨日水着だって買いに行ったのにぃ。

 志津子もゆめもちょーかわいいビキニにしたのにさぁ~!

 太陽の光の下で見たいじゃんっ!二人の水着姿」

「…なんでゆめまでビキニなんて……」

「志津子が絶対似合うからって押したの。

 めちゃくちゃよく似合っててさ~、爽やか色っぽいの!

 絶対に夏の日差しに映えるよ! 

 私が男だったら絶対にナンパする!

 喰う!!」

「……」



がーっと熱くなった自分に気づき、はっ!と本来のミッションを思い出した。

いかんいかん!

このまま我を忘れてしまったら、志津子に首絞められる!!



キッとにーちゃんの方を睨むように見ると、さっきまで全然乗り気じゃなかったにーちゃんが

なにやら考え込んでいる。

心なしか、目が真剣だ。


「…ね、にーちゃん?どしたの?」

「……何日だ?来週か?」

「え?」

「だから、月曜日に行くんだろ?いつの月曜日だ?」

「…行ってくれるの?」

「そのつもりだから聞いてるんだろ?」

「えっ!?ま、まじ…?」



驚いて目を見開くと、にーちゃんが少しイライラしてきた。

頬が若干赤いところを見ると、どうやら照れているのか恥らっているのか。



……うわー。

マジだよ。

私、ミッションクリアしちゃったよ…。


うっかり頬をつねるところだったが、それはそれでやばいだろう。

私は慌てて「ら、来週!!4日後!!」と言った。


「じゃ、その日までに実家から車持って来る」



何がにーちゃんの琴線に触れたのかわかんないけど、とにかくうまくいった。

さっそく志津子といろはねーさんに報告だ!



……まさか、ゆめの水着姿が目当てだったとか?

あのにーちゃんが?

昔いたずらで友達に押し付けられたエロ本、リビングのテーブルに置き去りにしたときも、顔色一つ変えずに速攻ゴミ箱送りにしたにーちゃんが?



………まぁ、いいか。


とにかく報告だ!!






いろはねーさんの店に行ったら、既に志津子もスタンバってた。

ゆめはスーパーに買い物に行ったらしいので、きっとあと1時間は帰ってこないだろう。

にーちゃんのご飯も三食作ってるみたいだし、まるっきり若夫婦だよな~、あの二人。



「はるか、守備は?」

「上々よ!にーちゃん、車出してくれるって~!」

「やった!」



志津子と勢いよくハイタッチ。

幸先いい音がした。



「龍、かなり渋ってたんじゃない?

 よく喰らいついたわね~、何て言ったの?」

「そうそう、最初は全然乗り気じゃなくて、近くのプールにしとけとかねーさん誘えとか

 つれなかくてさ。

 もう何言っていいのかわかんなくなったから、昨日水着買いに行った話したの。

 そしたら、なんでかオッケーしてくれて…」

「水着の話?」

「うん、昨日みんなで新しい水着買ったんだって。

 で、志津子とゆめはビキニ買って、めちゃくちゃ似合ってたから

 私が男だったら絶対にナンパするって…」



「ナイスっ!!」

「いい、いいわよっ!はるちゃん、いい仕事したっ!!」



二人とも目をきらきら輝かせての大絶賛だ。

どうやらかなりいい感じで作戦を実行したらしい。



「でもさ~、なんでにーちゃんこれだけでオッケーしたのかわかんないんだよね~」

「え!?マジ!?あんた、マジで!?…よくそれでそのせりふが出たわね~」

「普通に見たいでしょ?ゆめちゃんのビキニ姿」

「や、そりゃ私は見たいよ?

 だって、試着のときのゆめの下乳がめちゃくちゃきれいなラインでさ~。

 ほんっと、撫でて触って愛でたい感じだったしさ」

「…あんた、どこの親父よ?」

「だって、ゆめってめちゃくちゃプロポーションいいし、程よい巨乳で美乳だし」

「ちょっと!それ、龍に言った?」

「ううん」



二人ともさっき褒めたことなんか忘れたみたいに、馬鹿にしたような呆れたような目で私を見た。



「ばっかだな~!!何で言わないの?」

「そうよぉ。それ大事よ?絶対に龍、ポーカーフェイスの奥で悶えるから。

 おもしろかったのになぁ~」

「え?でもにーちゃんって、女の人の裸に対して興味なさげだよ?」



いろはさんがはっ!と吐き捨てた。

私も人のことはいえないけど、一緒に女吐き捨てたような捨てっぷりだ。



「あの龍が!あの隠れむっつりスケベが!

 何も感じないわけないじゃない…だまされてるわね。

 ”素敵な兄”幻影よ、それ。幻」



がーん。

私の中のにーちゃん像がどんどん崩壊していく。



「でもいいわ。龍の嫉妬心をそれだけ煽ってれば十分。

 それに、知らなければ衝撃はその分大きいし…

 来週の月曜日、楽しみよね?」



う~ふ~ふぅ~、と不気味な笑い声を響かせる、ねーさん。

はっきり言って、怖い。

どうやらいろはねーさん、このために強引に鷹にーさんに休み取らせたみたい。

こんな面白いイベント見逃してたまるか!…だってさ。

それに鷹にーさんも、あの龍がメロメロになっている姿が見たいってめちゃ乗り気らしい。

どこまでも下世話な夫婦だ。




どっちにしろ、にーちゃんにはねーさんたちが来るってことは当日まで秘密。

さぁて、この作戦の行き着く先は…?














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