番外編3
…水着売り場、すげぇ……。
正直言って、こんなとこ、来たことないよ。
水着っつったら、近所の大型スーパーでてきとーに買うものだったし。
女の子が大人も子供も群れになってきゃいきゃいやってる姿は、結構圧巻だ。
しかもこの水着の数!!!
選べるのか!?
こんなたくさんあって!?
何で二択じゃダメなワケ!?
売り場を見ただけで、既に帰りたくなってきた。
ちらりと志津子とゆめを見ると、やっぱり圧倒されたようにぼーっとしてた。
でもそれは一瞬だけだったみたい。
この店は水着を色別に分けてあるので、好きな色の水着があるエリアに行けばいいからアクションを起こしやすい。
突然水着を選べと言われたら戸惑うけど、好きな色なら選べるもんね。
これも店の工夫だなぁ~。
とりあえずゆめの緊張をほぐそうと、私の水着から選ぶことになった。
濃紺で、まるでバスケのユニフォームのようなデザインのタンキニに決定。
真っ白のラインが映えて、めちゃめちゃかっこいい。
二人も「絶対似合う!」と大絶賛だ。
思わぬご褒美にをもらった気分になり、やっぱりいいことはするべきだとしみじみと思う。
そして次は志津子。
大人びていて落ち着いた性格の割には童顔な彼女は、なんと、ビキニを選んでいた。
白地にオレンジやピンク、黄色のにぎやかな花たちが踊っていて、フリルなんかが胸元やスカートにひらひら付いていて、とにかくかわいかった。
年相応に見えるっていうか。
…言ったら殺されるけど。
志津子の意外な一面を発見し、またもや得した気分を味わった。
「志津子もビキニなんて着ちゃうんだね~」とのんびり聞くと、「私が着たらゆめにごり押ししても説得力あるでしょ?」だって。
すげぇ!
力入ってる!!
にやりと笑った横顔は、完全なるやる気モードだ。
敵に回したくないぐらいにヤバイ。
「結構最近はビキニ多いし、そんなに抵抗ないよね~。
ゆめもそうしなよ!おそろいで!
ね?ゆめ、プロポーションいいし、絶対にいいよ?」
「あ、え…え、と…そ、そうかな?」
…すげぇ。
なんかゆめ、揺らいでる。
水着売り場独特の、夏色の熱気がそうさせるのか?
これは押せば落ちるかも?
面白くなってきたぞ!!
私も俄然やる気モードで、いろはさんに指定されたカラー”白”のエリアに突撃した。
うおっ!
”私色に染めて”系水着がてんこ盛り!!
なんていうの?
清楚でセクシーで、儚げで艶やかで。
これはにーちゃん、絶対に撃沈するぞ!
愉快だ!!
完全にテンパってる私を無視して、志津子は冷静に水着を物色している。
そして数種類ぱぱぱっと選び出し、有無を言わさずにゆめをフィッテングルームに押し込んだ。
「全部着てね?私、一生懸命ゆめのために選んだの…嫌じゃ、なかったよね?」
この一言で、戸惑い、拒否ろうかと考えていたゆめが、のろのろとカーテンを閉めた。
志津子は私に親指を立てて見せた。
3着まで持ち込み可ということで、きっかり3着押し付けたらしいけど、全部ビキニなのだそうな。
志津子、めちゃくちゃ押しが強いな。
最初の2着は、もうそれは、すげぇ!としか言えなかった。
だって、こんなん絶対にゆめでなくても着ないよ。
ってか、にーちゃんこんなん見せたら、ゆめ連れてそっこー帰っちゃうよ。
2着目を着たゆめに勘弁してと言われてから、私は志津子に文句を言った。
「あれはないだろう」と。
そしたら涼しい顔して、
「あんなの、ゆめが着るはずないでしょ?
でも、最初に過激なのを見てたら、その次のは少々がんばってる系でも
大丈夫に見えるもんじゃない?」
なに?
つまり、次のが本命か?
さすが志津子、無駄に悪の思考が全開してないね。
私はカーテンが早く開かないかと、わくわくして待っていた。
5分ほど過ぎたところで、ゆめがおずおずとカーテンを開けた。
「うわっ!すんごくかわいいっ!!」
「ゆめ、似合ってるっ!これ絶対にいいよっ!」
「そ、そうかな?」
恥じらいで体中ほんのりピンクに染まったゆめは、かなりの色香を発していた。
それがまた水着を強調させてて…絶対にこれにすべきだ!と私は声を大にして言いたかった。
ゆめが着ているのはホルターネックのビキニで、白地で左胸にだけハワイアンな亀の柄がどん!と紺色でプリントされている。
ふちどりからそのまま紐までつながっていて、色はさわやかなマリンブルー。
紐についている赤と紺色のビーズがアクセントになってる。
パンツは同じく白地にマリンブルーの縁取り。
両脇に同じ色の紐がリボン結びされていて、その先にはトップと同じビーズがゆれてる。
お尻のところに英文字が紺色でプリントされていて、めちゃかわいい。
それにしても…一見さわやかな水着も、なぜかゆめが着ると…おいしそう。
さわやかで清楚で…おいしそう。
だって横乳のあたりがほよほよしてて、めちゃ触りたい。
めちゃくちゃ形もいいし、ボリュームもあるし。
自分が筋肉質ゆえに、いいなぁ~と純粋に思う。
にーちゃんじゃなくても、私が食っちゃいたいって感じだな。
…これってゆめ、貞操の危機じゃね?
って、にーちゃんの辛抱切れるのも大概想像できないけど。
それからは必死になって褒めて褒めて褒めまくった。
褒め言葉に苦労はいらなかったけど、ゆめを決心させるまでが長かった。
それでも苦労は実り、ゆめが首を縦に振った瞬間、私たちは拉致る様にゆめを両側から拘束し、気が変わらないうちにレジに連れて行った。
おつりとレシートが返ってきたときの達成感は、何ものにもかえがたかった。
上々の戦果に気を良くした私たちはおいしい晩御飯を食べた後、帰宅した。
手には水着の入った紙バック。
「楽しみだなぁ~!」
早く当日が来ないかなぁ、と遠足待ちの小学生のように指折り数えた。
…って、そうだ、最後のミッションをこなさねば!!
明日、明日がんばるぞー!!