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番外編1




…なんだろう?あの二人は?

最近、私、春日いろはは大切ないとこ殿と私の部屋に下宿中の少女との関係に、ややもどかしさを覚えている。



まるで熟年夫婦のようなやりとりをさも当たり前のようにやってしまう二人は、それなのにちょっとお互いが触れ合っただけでまるでやけどでもすると言わんばかりの反応を見せる。

真っ赤になった下宿人、七瀬ゆめのなんともいえない幼い色気を漂わせる表情と、27歳にもなって17歳の少女のしぐさひとつにうろたえる、まるっきり恋愛精神年齢が17歳のいとこの柳瀬龍。


お互いに同じ想いを抱えているのに、何をためらっているのか。

最初はゆめの態度に萌え、龍のありえない姿を見てにまにま笑っていたのだが、これがあまりにも長く続くと精神衛生上よろしくない。


結婚生活も3年目を迎えるいろはには、そんな二人がじれったくてたまらないのだった。

お互いに幸せになれるのに、一体何をためらっているのか?

理解不能だと首を振ること一日数回。




「…全く!大体、龍がふがいないのよ!」



心の中から愚痴が溢れたようだ。

和雑貨を扱ったいろはの店にお茶を飲みに来ていた、もう1人のいとこ・柳瀬はるかと

その友達で常連の刈谷志津子はそんないろはを怪訝な顔で見ていた。



「どしたの?いろはねーさん」

「…まぁ、いろいろ、ストレスたまんのよ」


せんべいをかじりかけたはるかは「ふうん」と納得いかなさすな返事をした。

根っからのスポ根少女は、何でもストレートにぶつかっていく性格なのだ。


「つまり、いろはさんは龍さんとゆめの関係をそばで見ていると、

 あれこれいらいらさせられると…」


志津子の目がきらり、と光った。

彼女ははるかに比べて頭の回転が速い。


いろははため息混じりに愚痴った。


「もう、ほんっっっとに!もどかしいったらないわけ!あの二人!!

 わかる!?あの、何ていうか、純愛丸出しの大正ロマンス風清純派カップル!」

「あ~、それはわかる!

 私、なんで二人ともガッとお互いにお互いの想いをぶつけないのか!

 と、いらいらする!」

「そうそう、ゆめなんてもう、完全に龍さんしか目に入ってないのに、全然龍さんの

 想いに気づいてないし。

 なんか、素で花占いとかしてそうで怖い。

 私たち、ジェットコースターラブが好きな、現代っ子なのに…」

「そう!ジェットコースターラブ!!よく言った!志津子!!

 そうなのよ!そういうストレートでスピード感溢れるのがいいのよ!

 わかりやすくて!!」



若い二人の興奮ぶりにやや苦笑しつつも、うんうんと同意した。



「まぁ、突進!っていうのも困るけど、でもあの二人の場合、

 もうちょっと関係を進めたほうがいいような気がするのよねぇ…」

「確かに。突進したら、ゆめがきっと引いちゃうし」

「え?そんなもん?にーちゃんやさしいし、気遣いの鬼だし…」

「でも、龍はあれで結構わがままというか、我を通すところもあるわよ?

 遠慮してるうちはまだしも、それがなくなったらどうなるか…」

「え?にーちゃんて、そんな人?」


そうか。

はるかは龍の父の再婚相手の連れ子だ。

しかも年の離れた妹ということもあって、兄としていろいろ気遣っているのだろう。

家族の前で本当の自分がさらせないと言うのは哀しいが、それも仕方がないのかもしれない。



けれど、龍の母親が死んでからずっと家族の中に当たり前にいたせいか、いろはの前の龍はほかの人に接するときとずいぶん違う。

滅多に見せない本心も見えるし、物静かではあるが感情も豊かで結構向上心も独占欲も強い。


本気で交際している女性を見たことないが、それでも好きなものに対する執着心を見ていると、本気彼女が出てきたらべたべたに甘やかすだろうと予測がついていた。

それこそもう、彼女が余所見をする暇などないほどに。


それでも、実の両親からの愛情に飢えた幼少時を過ごしたせいか、龍は愛情を人一倍重視しているのだ。




「…そーいえばさぁ…実は、今まで隠してたんだけど…」

「なになに!?志津子、勿体つけんな!!」

「そんなんじゃないって!…前ね、ゆめに渡すものがあって店の裏に回ったとき、

 二人がちょうどいい感じで立ち話してて…」

「なんでにーちゃんたち、家の前で…!」

「話の腰を折らない!…で?」

「うん、それで、龍さんがゆめの髪に指を絡ませて、ひっぱって、

 キスなんかしてるから…」

「それでそれでっ!!!?」

「いよいよ二人の初・ちゅー?とか思って見てたら

 …龍さん、たっぷりためらってからでこちゅーしてたの。それって…」

「へたれじゃん。にーちゃん…ゲンメツ」

「うわ~…大の大人がなんちゅー晩熟な…」

「いろはさん、こんなんで、あの二人、進展あるわけ?」

「…なんか、いろんな意味で自信なくなってきた」

「じゃぁさ、この際、お膳立てしようよ!

 にーちゃんがゆめを襲いたくなるように!!」

「それって…ちょっと問題ありじゃない?」

「私、はるかに乗っちゃおうっと!」

「志津子ちゃんも!?」

「うん、だって面白そうだし」

「…まぁ、確かに」

「うまくいったら二人がハッピー、失敗してもにーちゃんが悶絶するだけだし、

 別段問題ねーんじゃね?」

「…妹よ、何気に鬼よね」


「で、どうする?」




三人は頭をつき合わせて考えた。


「これから夏だし…夏と言えば水着、水着と言えばお色気…」

「プール行くからって、龍に保護者として同伴してもらうとか?」

「あ、それいいねぇ!!」

「で、その前に、私たちはゆめのために悩殺水着を選べば…」

「いいじゃん、いいじゃん!」



お茶を飲みながらの作戦会議は順調に進み、夏休み突入後、さっそく作戦を実行しようということになった。

にまにまと嬉しそうに笑う高校生を見て、気分も弾む。

自分が幸せな結婚をしているだけに、余計におせっかいを焼きたくなるのだ。


いつも寂しげにしていた龍が、心から幸せになれるチャンス。

さっさと掴んでくれなくては、こっちもやきもきして仕方がない。



「じゃ、作戦成功を祈って、かんぱーい!!」



元気な掛け声とともにグラスを合わせた。

麦茶が入った少し汗をかいたグラスからは、涼しげな夏の音が響いた。








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