プロローグ
ぽつ…ぽつ……ぱらららら………さぁぁぁぁぁぁ………
今にも泣き出しそうに曇っていた空が、ついに大粒の涙をこぼし始めた。
ぽたぽたと落ちてきたと思ったら、あっという間に激しく地面を叩きつけるような雨へと変わった。
先ほどまで灰色に乾いていたアスファルトは、黒くて丸い斑点から一面の黒に染まり、今では小さな流れが出来つつある。
ふわり、と雨の匂いが辺りを包む。
ずるい。
泣きたいのは私だったのに。
空虚な心から、ため息がこぼれる。
曇り空が泣くのを我慢してるようで、私の心は幾分慰められていたのに。
泣かれてしまっては私の立場がない。
空を睨みつけたくて空を見上げてみたけれど、とても目を開けてなんていられない。
顔にも叩きつけてくる雨に我慢できなくて、仕方なく目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは目を閉じる一瞬前に見た、灰色のビル、緑の葉を茂らせた木々、その隙間に見える
空と、空を区切る電線、それに周りの色と同化して灰がかった白色に見えた雨の斜線。
前髪からはひっきりなしに雫が顔に流れてくる。
きっと全身水浸しで、服からも水が滴っているに違いない。
もうすぐ腰に届きそうな髪が、頬や首に絡みつく。
うっと惜しくて後ろに払うと、染み出た水が私の手の甲に流れた。
雨は私の全身にその涙を染み込ませている。
そうしてるとまるで、いつまでも流れようとしない私の涙の代わりに体中から流れ出してくれたかのようだ。
そう考えると、少しだけ気が楽だった。
人間、本当に辛い時は、泣きたくてもなけないらしい。
私はそんな性質に、生れ落ちてから17年目で初めて気付いた。
それが自分にとっていいことなのか悪いことなのか、これからの人生にとって大切なことなのか、今は考えたくない。
そんな事は無意味だと、知っている。
もっと別の、現実的にどうにかしなければならないことを考えなければ。
例えば、これからどうやって暮らしていこうか、とか。
大切な自分の城すら失ってしまった私には、この世に安心して暮らせるスペースはない。
ついさっき私のためだけの場所さえ、薄汚いアイツに征服されてしまったのだから。
まるで、ヒツジの皮を被った狼のような男に…
このまま雨と一緒に溶けて流れてしまえばいいのに。
この世で不必要になった人間も生きていかなければならないなんて、そんなの不条理だ。
ゴミのように無駄になったとたんに処分されれば、切り離した人間も切り離された人間も、きっと
納まるべき形に納まっていくはずなのだ。
そういう幸せがあってもいいと思う。
だから。
神様、どうか私をこの世から消し去ってください。