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幻月

主人公は初っ端から亡くなっております(⇒後に転生)。

主に主人公がずっと話していて、名前は出ません。

※二十歳を過ぎてそろそろお肌の曲がり角的な年齢。見た目はクールだけど内心は結構小心者な主人公です。


 いつ、なんて事はもう正確には覚えていない。


 覚えてはいないが、これだけは知っている。



 そう。



 私は死んでるって事は、理解してる。



 つまり、これ以上ない程簡単に言ってのけちゃうと、私は幽霊って存在って事でね。別にこの世に未練なんかがあるわけじゃないのに。というのは結構嘘になるけど。

 だって、事故だし。巻き込まれだし。成人式は終わっちゃってから数年は経ってもそれでも、人生を終わらせるにはかなり早いと思うのね。

 まだまだやりたい事あったしっていうのは死んでから思った。

 生きてる間は適当に生きてて、特に何をするのでもなく時間だけが流れてた。


 周りの友達なんかが結婚してさ。式に呼ばれて幸せそうな笑顔を見ると急に自分の立ち位置が不安になったりするっていう小心者。

 でも表情の筋肉は変わりづらくて、冷静だね。かっこいいね。なんて男女問わず友達から言われてた。

 内心はすっごいんだよって、笑えてたら何かが違ったかもしれないけど、それも全部全部今更。


 で、ここからが問題。

 49日の間はお迎えが来ないのかなって思って、色々と漂いまくってたのよ。夢枕に立ったりとか謝ったりとか、何でか知らないけど特殊能力みたいな第六感が冴えまくって、身内の病院を勧めたりしてた。当然夢枕ですよ?

 だって、うちの家系って鈍いし。私の存在に気付くのなんていないしね。

 自分の四十九日を見ながら、私はお迎えを待ったのよ。ひたすらね。そう、ひたすら。一応所かこれ以上ない程考えまくって、次があったら後悔のないように!なんて決意を新たに前向きな気持ちで待ってたのよ。

 そしたらね。

 お迎えのおの字も見当たらず。

 他のお迎え待ちの人を見つけては声をかけて人生相談。当然逃げちゃうような怖い人もいたんだけど、その辺りはご愛嬌。

 で、私より後にきた人が上に上がってくのよ。


 何で?


 本当にどうして??



 寧ろ私、超前向き!

 

 とりあえず連れてって!と天に向かって叫んでみるけどお迎えは来ず。




 あはは。


 私とは違って天寿を全うした親にも会えちゃった。




「あんた何やってるの?」


 親に真顔で聞かれたけど、ホントそれ私が聞きたいよ。

 で、まさか成仏してないなんて、って泣かれてさ。そんなにこの世に未練がっ、なんて横道に逸れそうになったから軌道修正頑張りました。


「まぁまぁ、とりあえずお茶でも飲もうよ」


 と、ティーカップを手で持ってお茶を注ぎ込む。


「……あんた、何で持てるの? 飲めるの? おかしくない?」


 親からの冷静なつっ込み。

 おぉう。そういえばそうだったね。


「何となく。はい、飲めると思うよ」


 と、親に差し出せば持てて飲めたりする摩訶不思議。


「………」


 物言いたげな親の視線に答える術を持たない私は、本当に肩を竦めて首を傾げるだけだった。


「いってらっしゃい」


 やっぱり親を見送って…あれ? 死んだ後見送るってオッケー? ある意味親孝行??


 否。絶対に違う。これはある意味親不幸だ!


 すぐさま自分の思考を否定しましたよ。だって、親としては次の人生をうんたらかんたらって思ってたと思うもん。そしたらまだ漂ってるわ物は持てるわ成仏しないわ。


 いやいや。私もお迎えが欲しいんだけどね。何でかな。こないんだよね。

 で、ここまできたらある程度予想はしてたよ。

 してたけどね。

 現実問題はまた違うよねっ。



 って、今度は友達もお出迎え。


「アンタ馬鹿? 何しちゃってるの?」


 青春時代の姿をした親友に一言。


「年に1回墓参りしてアンタを思った私の真心を返せっ」


「え? 真心返せってそれ?」


「アンタが眠りについたと思ったから墓参りしたんでしょうが。それなのにこんな所でふよふよと浮いて何やっちゃってるのよ!」


「それは私が聞きたいんだって」



 まぁ。予想通り親友もお見送り。ここ数年はこんなんばっかりと思いながら、段々私の知らない人が通り過ぎるようになって、時代も随分と変わっちゃった。

 基本が昭和の人なのに。平成を飛び越えた時代の世の中に対応できてるって──どうなんだろう。このままじゃ駄目だよねぇって思うんだけど、自分じゃどうしようもないんだよねぇ。






「はぁ…お迎えはいつだろう」


 今日は空の散歩じゃなくて、公園での散歩。新芽の緑が目に優しいーなんて笑ってみるけど、言っている内容はテンション下がりまくるし。でも、地上にある緑の数も随分と減って、ここは数少ない自然のある場所。

 昭和の人間には辛いわー。なんて言ってみるけど、所詮独り言よね。


 ははは。既に乾いた笑いしか出ないけど、いいんだ。数百年単位で独り言ばっかだから今更だし。


「お迎えくるのかなぁ」


 はぁ。と溜息を落とす私。


「無理だろ」


 に、答える声。


「──ッ!?」


 驚いて顔を上げた私の前には見え麗しい美男子。年齢は私のちょっと…かなり下?かな。あぁ、駄目。私年上が好き。

 ん? でも今の私は数百歳。年上っていうと鬼籍の人だよねぇ。あれ? 精神年齢ってこの場合何歳ぐらいになるんだろう。


「馬鹿な事考えるなら、せめてそれらしく表情に出せ。何だその微笑」


「え? 微笑??」


 どちらかというと無表情だと思うけどってぇさぁ。思考読めちゃったの!? 親友や親しか知らない私のマル秘情報をっ。


「マル秘って何だ。マル秘って……まぁ、いい。これ以上アンタに付き合ってたら話しが進まない」

 目の前の年下君は呆れたように溜息を落として、面倒そうに髪をかき上げた。ここで気付いたんだけど、髪の色がちょっとね。不思議な色具合。一瞬染めてるのかなぁって思ったけど、自然な色。

「猩々緋の色の髪って始めて見た。世界はそういう感じになったの?」

 やっぱり最近は日本から出てないからかな。まぁ、時代も変わったから遺伝子配合自体が色々と変わってるのかも。

「…違う。俺は、アンタを迎えにきた」

「え? お迎え?? それなら早く言って。何百年待ったと思ってるのかな」

 漸く天に上がって次に備えられるのね。と感激に打ち震える私に、目の前の男は首を横へと振った。はい? お迎えなのにお迎えじゃないの?? どういう事???

 次々と疑問符を浮かべる私に、男は外套を翻した。

 よくよく見れば、変わった格好。


「昔読んだファンタジー小説やゲームっぽい格好に見えるね」


 まるで物語から抜け出してきたみたい。と私が笑えば、男の眉間に皺が寄る。あれ? 癖になっちゃけどいいのかなって思って見てたら、男は皺を寄せる事を止めたのか、今度は懐から透明のカードみたいなものを取り出し、私へと渡してくる。


「綺麗だね」


 うん。綺麗。透明の不思議なカード。見た事がない。


「右上の石に手を当てろ」


 ……。

 言い方的に疑問は残るけど、年下の言う事に一々腹をたてても仕方ないかぁ。まぁ、精神的に年取っちゃったしなぁ。

 三十路の恐怖が、なんて思っていた頃が懐かしー。

 で、触ってみたら光りだした。おぉ。ファンタジー。


「ん?」


 カードに浮かんだ文字を見て私は首を傾げる。日本語じゃないヘンテコな文字のはずなのに、私は何故か意味が理解出来る。

 しかも、私の名前が書いてあるようにも見えるし。

「アンタは…」

 すると、ちょっと無礼な年下の男が嫌そうに口を開き始める。随分と態度の悪いお迎えだよね。

「…俺のパートナーだ」


 本当に心底嫌々って感じで言われたんだけど……は? 意味解らないので詳しい説明お願いしまーす、と私は男を見た。


「だから、俺のパートナーの──…精霊人だ。何で、こんな異世界にいるんだ? さっさと俺の世界に転生してこない? 俺は物心ついた時からアンタを探してたのに、アンタは転生もせずにこんな異世界で呑気に散歩かっ!?」


「いやだから一体何の事!?」


 精霊人って何? 転生って──はぁ? まさしく心境は、はぁ?って感じだよ。意味がわからないし好きで転生しなかったわけじゃないし、呑気に散歩って…。


「散歩ぐらいしかする事ないでしょうが!」


 叫ばせていただきましたとも。久しぶりの会話って事も吹っ飛んで、叫んびましたとも。それで暫く男と言い合いしてたんだけど、その瞬間私が持っていたカードが光りだしたのね。


「…あぁ。漸く準備に入ったか」

「何が?」

 一々意味あり気というかなんと言うか。

「俺はアンタを探すが、恐らく俺が今より若い時に会う事はない。だけど探せ。探して俺が19歳を過ぎた時には必ず声をかけろ。そうすれば、俺はアンタを認識出来るはずだ」

「ひょっとして…19歳になったばっか?」

「そうだ。なった直後にここに飛べた」

 私の考えに、男は素直に頷いた。

「アンタと漸く繋がった。だから、たどり着けた」

 何か感慨深いものがあったのか、男の表情は複雑そうだけど。19歳なら男の子って感じだけどね。

「なんかよく分からないけど、西暦?と名前教えといて。年齢だけ聞いても、暦がわからないとズレがありそうだし」

 何時の時代の何歳かってわからないと、結構きついと思うし。それに多分、この子が来たから私の成仏が始まったんだろうしね。

 手に持ったカードを返しながら、私は尋ねてみる。

「…ゼノフィル・アニア・アスィフィニアだ。暦は1567。ゼノだ! 忘れるな!!」


 長ったらしい名前だね。覚えられるかなぁ、なんて思ったら、消える直前の私に脳裏に刻み込めっていう声が聞こえた。

 最後にゼノっていうの止めてくれないかな。ゼノで覚えてしまいそう。




 そんな事を考えながら、次の瞬間には私はある意味予想通り、羊水の中を漂っていましたとも。

 で、十ヵ月後には見事産声をあげて、両親から名前もいただいたんだけど…なんでか手の中には見覚えのあるカード…。あれ? ゼノに返したよね。 

 あ、よく見たら違うかも、ゼノは石が赤で、私のは青だもの。


「やっぱりこの子は精霊人だったのか…祝福の受け方で気付いてたんだけど、そうであってはほしくなかったね」


 と、父親が意味ありげな言葉。


「でも、ほら。こんなに可愛い。パートナーが見つかるまで精霊人のこの子は私たちの手元にいるわ。護り人ではないもの」


 と、母親も意味ありげ。この辺りは徐々に覚えとけばいいかなぁ、なんて思ったらウトウトしてきた。

 まぁ、後で色々と時間をかけて考えるから、おやすみー。皆々様。おやすみー。ゼノ。


 ちなみに、私の生まれた暦は1547。ゼノの一歳年上だったりする。

 うん。やっぱりゼノは私より年下っていうのからは逃れられないんだねって、何となく笑ってしまったね。





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