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界渡りの章~矛は望んで血に染まる

刻の賢者は夢を見るの続き。矛視点というよりは独白っぽいです。

そして更に暗い物語りです。


 今日も街では世界の平和と安寧を叫ぶ声が上がる。


 乱れているのは、星が壊れかけているのは二ノ宮の所為だと、国の王が声を張り上げそれに続く国民たち。

 疑問を口にすればその時点で命はなく、ならばこれに乗っかれとばかりに人を殺す為の武器を手に取る。


 人を、なんて言葉を使ったけど、この国の人たちにとって二ノ宮に住む住人たちは人じゃない。ただの、害虫。

 自分たちが生きるべき星を壊す、生きる価値もないもの。


 よっく言うわ。なんて笑いそうになるのを抑えながら、私は路地裏へと場所を移す。

まったく…あの子に会いに行こうと思っているのに来客なんて。


 あの子に会う時間を減らすだなんて。



 ホント、死にたいのねぇ。



 外套の奥で笑う私には気付かず、一ノ宮の王に仕える兵士たちは遠慮なく私を囲んだ。細腕の女一人など、御するなんて容易いとばかりの態度。


「魔法使い殿。王よりの伝言を預かっております」


 言葉使いは丁寧だけど、態度はその真逆。断れば殺すぞ、なんて脅しを含めた布陣を展開させておいて、伝言を預かっているだけのはずはないでしょう。そんな事もわからない馬鹿を勧誘しているのかしらね。なんてやっぱり笑いがこみ上げてきて、つい声に出して笑ってしまう。


「貴様…何を笑っている?」


「気でも触れたか…」


 口々に何かを言いながら私との距離を詰める。一ノ宮の王からの伝言を聞き終えた私の態度に、どうやら脅して言う事を聞かせるらしいという事はわかるんだけど、如何せん甘いのよね。

 魔法使いを戦争の道具にしようとしている割に、認識が甘いというのかしら。

 普段は異端扱いする人間も多いけど、まさかその実力まで正しく伝わってないなんて思いもよらなかったわ。


 あの子が苦労するわけよね。



「ねぇ……魔法使いが参戦すれば、激戦は必須。余計な血が流れて命が失われるのは確実なのよねぇ。それは、わかってるわよね?」


 

 一応ね、どう思ってるか確認。引き出してからでも色々遅くはないし、あの子に伝える情報は少しでも多いほうがいい。



「聖なる力を持つ魔法使い殿たちが、悪しき二ノ宮に手を貸すはずはなかろう! 命が失われるのではない。害悪がいなくなるのだ!」


「あ…っそう」


 既に洗脳は完了されているのね。それとも、自分たちには害がないと思っているのかどうなのか。


 しかも聖なるって――お腹が捩れてしまいそうな程笑いを堪えたのは何時振りかしらねぇ。そんな事を呑気に考えていると、男たちの堪忍袋の緒が切れたみたい。元々そんなモノがあったのかどうなのかは定かではないけれど。


「この件に関して、魔法使いの勧誘は命がけよ? 知らないでしょう。無知でお馬鹿な男たちねぇ……この戦の発端も知らないくせに」


 くすり、と笑いを漏らす私の声は、男たちに届く事はなかった。


 私の魔法は、壊す事に特化したもの。特化、というよりはそれしか出来ない力。



「誰か掃除してくれるかしら。してくれるわよね」



 先日のアレも、元から無かったかのように綺麗だったし。




「嫉妬だなんて、知らなくていい事実よね」


 かつては人であったものの名残に視線を落としながら、私は戦争の事実を口にする。手向けなんて意味は無く、私の中でこれは伝えなくていい事実だと再確認。

 知っている私から見ればその都度笑えてしまうけれど、知らなければ自分たちの王様が悪いなんて…思わないわよね。



「血の匂い──…とれるかしら」


 

 返り血は浴びてないけど、あの子は鋭いしね。

 湯を浴びて衣服を着替えてから待ち合わせの場所に向かいましょう。


 あの子には笑っていてほしいし。



 あぁ…その為にお片づけしないとね。






 そう思えば、何て今更な事を考える。


 あの子は今、命を削って星の生命維持に心血を注いでる。あの子が賢者の称号を与えられたのは、あの子が星と繋がれる魂の持ち主だったから。

 ただ、それだけの理由でこの星で唯一人の賢者の称号を得てしまった。


 あの子は日々壊されていく星を少しでも直そうと、命を削り続けてる。



「壊す人がいなければ、あの子は生きられる。私は、私たちはあの子と長く生きられる」



 あぁ、本当に今更。





「お前らしい笑い方」


 くすり、と笑みを漏らす私の前に立つのは、幼馴染の男。


「ラスこそ、ラスらしい笑い方しちゃってるわよ。しかも血の匂い」


 この男は、私とは違って二ノ宮の国に居住を置いている。理由は単純で、私が一ノ宮。ラスが二ノ宮担当って決めただけの話し。


「あっれ? ついてる?? 夢を見させただけなんだけどさぁ」


 あはは、と笑う男の手には何も持たれてはいない。


「弁当は、転移でミラの家に送っといた。風呂と着替えな」


「…また、ね。仕方ないわ。あの子に会うものね」


 あの子は、私たち2人が大好きだから。私がそう言えば、ラスは頷きながら笑みを浮かべる。


「俺たちが大好きなんだよ。だからさぁ、ミラ──俺さ、思ったんだよ」


「…言わなくてもわかるわよ? 私も、そう思った所だもの」


 幼馴染って思考が似るのかしら。

 嫌ねぇ…本当。気があっちゃって。








「二人が、優しいんだよ」


 星に命を注いでいる為に日々窶れる私たちのレイ。昨日会った時よりも、細くなっているのは今更。

 それなのに、二人が優しいんだよ、と微笑む綺麗なレイ。


 レイは、自分が優しくないって思っているけれど、優しいのよ。


 貴方は、未来の自分の姿を想像していないもの。私とラスが生きる未来だけを夢見て、微笑むだけ。




 待っていてね。


 すぐに、片付けるから。




 私は、貴方とラスと、未来を掴むから。



 

 それが、私の望み。






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