見た目は死角ナシな美少女な私の結婚式前
主人公は転生者。
見た目は美少女だけど、中身はサバサバとした男前。
最強設定だけど、今の所侍女長が一番最強に見えます。
生前。
特にやりたい事もなかった自分は適当に趣味に時間を費やしたり、仕事をしてお金をもらって休日はぐーたら過ごしたり。
深くはなく、浅く浅くと日々の時間が流れていった。
が、特に不満があったわけではない。
人生を一からやり直したいと思ったことはないし、自分の見た目にだって死ぬまで付き合うつもりでいた。
なのに。
それなのに。
声を大にして叫びたい。
こんなファンタジーな展開を望んだ事なんてただの一度もない、と。
「リディアディア様」
舌を噛みそうな名前だけど、その名前が自分のものになってから16年。いい加減抵抗――なんてものは始めっからしなかったけど、それでもその名前に自然と返事が返せるようになるのには数年かかった。
中身がいい年した大人だったから、表にだしてたまるか!なんてしょんぼりとした自尊心はあったけど。
「何?」
威厳のありそうな侍女長に後ろから声をかけられ、私は最後の抵抗をしようかどうかを迷いながらも結局、いつもの笑みを浮かべて振り返った。
油断していた自分が悪かったのだ。今回は。
「観念なさったみたいですね」
「今回、はね」
即座に言葉を返せば、ほんの一瞬だが嫌そうに眉間に皺を寄せられた。
気持ちはわからなくもない。
見た目だけでいうならば深窓の令嬢。触らなくても柔らかいとわかる天使のわっかが輝く金色の髪。瞳は淡い水色。鼻筋はスッと通っていて、唇はふっくら。
肌は白く、日焼けやシミなどには縁遠く。若いって素晴らしいわ、という本音はとりあえず自重中。
多少胸の膨らみは乏しいものの、16歳という年齢を考慮すればさほど悲観するものでもないだろう。
見た目は天使。声は一度聞いたら忘れられないような透き通るようでいて、可愛らしい響きをもつ。
それで家柄も完璧。死角ナシ状態のお嬢様。
お花畑で白い傘でも差してそうだと、わけのわからない事を考えながら、私はこれ見よがしに笑みを深くする。
「流石に、陛下と父上の間で取り決められた結婚当日に逃げ出したりはしないよ」
そう。
今日が逃げ遅れた結婚当日だったりする。
おそらく大半の女性が夢見るであろう、素晴らしく外見が良い王子様との結婚。異世界から転生しちゃってついでに若返って。手に入れたものは文句の付け所のない生活と見た目。
その先に待っていたのは夢見るような王子様との甘い結婚生活。
「……」
自分で考えてて微妙になった。
多分10人中10人は振り返るであろう王子とリディアディアの外見。白いテーブルに白いティーカップ。飲み物は勿論紅茶で三時のティータイムを楽しみましょう的な二人だけど、如何せん中身は既に50歳近く…。
紅茶も嫌いじゃないが、縁側で緑茶を飲みながら和菓子を頬張るのが好きだったりする。
勿論、今の生活には遠すぎる程の高い望み。
望むのはあんなに平々凡々な……宝くじをあてて一軒家を購入するぞ!という密かな野望はあったものの、その頃と比べたらある意味雲泥の差。
なのに、今自分が望むのはかつての生活。
「はぁ…」
当たり前になっている幸せって気付ききにくいんだなと溜息が漏れるが、ぐだぐだと考えても仕方ないと理性は訴えかけるが本能はそうはいかない。
「はぁ……」
王子様。どっかの誰かに一目惚れして破棄してくれないかな。
万歳三唱で身を引くのに。
「わざとらしいな」
「あぁ、居たんですか」
私の溜息に反応したのは、いつのまにか部屋に来ていた王子様。
王子様という言葉に相応しいキラキラ。
「無駄にキラキラ」
「表に出てるぞ」
「事実です」
「…相変わらずお前は……」
眉間に皺をグワッと寄せる王子様。
こうして表情を崩しても見た目はかっこいいんだから、美形は心底得だと思う。
「性格の有無は目を瞑ってくれるわけか」
「だから表に出てると言っているだろうが」
今にも剣を抜きそうな王子に、私は純白のドレスを手に取ると。
「着替えるんで出て行って下さい。覗き魔っていう噂を広めまくりますよ」
「………」
チャキ、と物騒な音が聞こえたのは空耳という事にしておこう。
生前の私ぐらいの年齢であろう侍女長に首根っこを捕まれ、部屋の外へと放り出される王子様。
いいんだろうか。仮にも王子様に。
「良いんですよ」
にっこりと裏も表もない綺麗な笑みを浮かべた侍女長だったけど、逆にそれがおそろい意と思うのはきっと私だけじゃないはずだ。
しかし王子様も私も外見は兎も角実力はあるのに、その二人にすら口を噤ませる侍女長。実は最強は侍女長じゃないかという疑惑もあるが、自分から純白のウエディングドレスを手に取った手前、着替えなければこの後が恐ろしい。
「ホントキラキラだね。宝石なんてちりばめちゃって。デザインは流行だけど、この見た目に会うようにふわんふわん……」
趣味じゃないなぁ。この身体にはこれ以上ない程似合ってるんだけど。
「アスティラ様もはしゃいで……楽しみで仕方なかったんですね」
「……」
ドレスを見ながら溜息をついている私の後ろで、頬に手をあてた侍女長が何か言っているけどとりあえずスルーで。
「幼い頃から見守ってきた私としては、お二人の結婚は楽しみで仕方ないですよ」
「………」
私から見たら単に眉間に皺を寄せての敵情視察にしか見えなかったけど。
そう思うのは幼い頃からの喧嘩の延長線上か。
それとも、「何で女のお前が俺よりもてるんだっーーー」という情けない台詞にドン引きしたからか。
まぁいいか。とりあえず逆らうのは立場的にまずいし。
可愛い側室でもいれて、王子様と仲良くなって子供を生んでもらおう。そしたらその子を寵妃にしてもらって私は旅にでも出ようかな。
よし、目指すは清い関係クリーンな後宮。
「じゃ、観念して着替えるから手伝って」
「勿論です」
しかし…相変わらず侍女長が素敵な笑顔で怖いなぁ…。