coclea 兄視点
色々とcocleaの設定は考えているのですが、ひょっとしたら本編を書く際、この話と設定が変わる可能性があります。
それと、兄上は性格がよくないです。
それでも良いという方のみどぞ。
リクエストありがとうございました。
大きくなってからも、少しだけ昔を思い出す。
母上が死ぬまでは、平穏な日々が続いていた。だが、弟が生まれた所為っで母上が死んだ。
弟さえいなければ、母上は死なずに済んだ。弟さえいなかったら、父上が家を出る事もなかった。
魔力の高い私と二歳年下の妹は親戚に保護してもらい、首都で、父上の近くで生活をしていた。
時間が経つにつれ、少しずつだが距離は縮まり、14年経った今では父上の仕事を手伝うまでになった。
父上は東方都市の貴族として、申し分ない容姿と頭脳と魔力を持つ人物。その遺伝を継ぐ私こそ跡取りに相応しい。
そろそろ、手入れだけをさせている屋敷に戻るのもいいかもしれない。あの場所は、母上との思い出に溢れている。
雇った者に聞いたら、弟と妹の亡骸はなかったそうだ。外に出て魔物にでもやられたのだろう。母上を殺した弟も、魔力が全くなかった価値のない妹が死んだ所で何も問題はない。名を汚すだけの妹も、母を殺した弟も邪魔でしかない存在だからだ。
平穏な日々が続く中、南方都市でSランクの冒険者が誕生したという情報が東方都市に流れてきた。
科学を取り入れず、未だに魔力だけに頼っている田舎が南方都市だ。18歳とも聞いたが、それは嘘だろう。
そんな年齢でSランクを獲得出来るはずがない。
私は冒険者登録はしていないものの、登録さえすれば魔力の高い私はAランクを余裕で超える存在になるだろう。
Sランクはほぼないと言われている現在、最高位はAだ。
高位貴族としては当たり前の結果でしかない。
南方都市のSランクは少し興味を覚えるが、冒険者にしかなれなかった下位の存在にそこまで会いたいとは思えない。
貴族が庶民に声をかける必要はない。それが、高位の貴族である私の当たり前の行動だ。
「あれ……機嫌が悪そうですけど、どうしました?」
「イアルか……貴様こそどうした。いつにもましてニタニタと気持ち悪いな」
「ラジさんよりはマシな表情浮かべてますよ。それよりちょっと聞いて下さいよ」
「聞くだけ無…」
無駄と、最後まで言い切れなかった。イアルは基本、人の話を聞かない。普段はイアル・シェーラと名乗っているが、こいつは私よりも高位貴族になる。正直に言えばこちらに取り込みたい相手だが、いつも飄々として掴み所がなく、それは難しい。
最近ではイアルには触れるな、というのが教訓になっている。
情報についてはイアルに分がある。はっきりと言えば、イアルはこの貴族社会の中でも上位のタヌキだ。普段の時のボケた表情や態度に騙され、ペースを掴まれ情報を吸い取られていくだけ。
「そのSランクの女性、強いと思いますよ」
「会った事があるのか?」
女という事に疑問を感じるが、とりあえず話しの続きを促す。
「数ヶ月前に。その時は年齢が引っかかって駄目でしたけどね」
「あぁ、癒しの指輪か」
古からの魔道道具だが、今やそれが手に入るのは南だけだと言われている。イアルはその任務を受け、ありえない速さで入手して戻ってきた。
元々は南方都市で有名な冒険者の実力を見て依頼をだすはずだったが、南方でアクシデントが起こり、二人はギルドの要求をのみ現場へと向かったらしい。
キャンセル料代わりに、ギルドがイアルに渡した古の魔道道具の指輪だったが、その性能は万能だった。
一介のギルド員がポンッと軽く出せる品物ではないと、東方都市の貴族は結論を出した。
東方都市は科学の力も取り入れている所為か、太古の遺産は殆ど残ってはいない。見つかれば奇跡とさえ言われる。北方や中央都市は、魔術ではなく完全に科学へ切り替わっているので、そこも古の魔道道具は存在していない。
ただ、中央都市は科学と魔術合わせた玉を作り出し、魔力はあっても外へと放出が出来ない人間たちを中心に売れている。
私にとってみたら、それは考えられない事だった。魔力に優れている私。それを外に向けて放出出来ない役立たず。そんな役立たずが必要とするもの。その程度の認識だった。
「イアル」
「何?」
右手の人差し指に古の指輪をつけているイアル。その後功績が認められ、入手し、役目を終えた指輪を賜った。
元々回復に優れているイアル。癒しの指輪を手に入れ、その立場は尚更強固なものとなっている。
「怖い面してるなぁ、まぁ…今は、いいけどな」
お互い、腹に一物も二物も抱えている者同士だ。
「イシュリカ・ヴァーナル。ライディリカ・ヴァーナル。この二人が凄腕なのは間違いない。底は見えないし、俺でも敵対する事は遠慮したいね」
「そこまですごいのか?」
「あぁ。少なくとも南方都市でその二人を越える相手がいるとしたら、そいつは間違いなく化け物だよ」
「そうか」
一度確認した方がいいのかもしれない。
そこまでの腕をもっているなら、東方都市に取り込んだ方が利がある。
イアルから情報を得て、中央都市に入った。面識のない私一人ではまともに話せないだろうとイアルも着いて来たが、この程度は問題ない。
「あそこの店が待ち合わせ場所だ」
イアルに言われた通り、古ぼけたその店足を踏み入れる。かび臭いな。本当にこんな店が待ち合わせ場所になるのかが分からない。
だが、埃が積もったケースを見てみれば、そこにあったものは優れえた魔道道具の数々だった。魔道の呪文を封じ込めた玉は、つい先日売り出されたものであり、その隣りには古は着かないものの、物が良い事だけはわかる。
初めてみるものばかりだった。
効果は期待できるが、魔力消費の激しそうな物ばかり。
こんなものに頼らなくとも、私の魔術も魔力もすばらしい。
「これは値札が着いていないが幾らだ?」
「これはですねぇ……300万Gになりますよ」
一般的に売られているものより、破格過ぎる値段だ。
「効果ですけどね。魔術師の精神力にもよりますが、生きてさえいれば術師の全魔力をと引き換えに完全に回復してくれます」
「……」
「こちらは余剰魔力を溜めて置いてくれる玉ですよ。大体、これとそちらをセットで買っていきますねぇ」
「つまり、これに溜めた魔力で回復が出来るのか」
だから、魔力を溜める玉の数が多いのか。
納得はするが、何故この程度の規模の魔道具屋にこれが売っているという事が不思議でならない。
疑問が解決されないまま、店の奥が光った。
転移の光か。
「イアルさんすいません。少し遅くなってしまいました。
若い女の声。
「大丈夫だよ、姉さん。待ち合わせ時間前に着いたから」
「そっか。良かった」
初めに姿を現したのは、幼さが残る男だった。次に出てきたのは女。コイツも若い。黒紫の髪を一つに束ね、眼鏡をかけている。
男のほうは白金に青い目。
何処かで見た事のある配色。
特に青の瞳は母上と同じもの。
まさか……まさかと思いながら、それを否定出来ない私がいる。
のたれ死んだと思ったのに…。
「女性の方がイシュリカ・ヴァーナル殿。男性の方がライディリカ・ヴァーナル殿だ」
名前は初めて聞くものだった。
けれどこの血が騒ぐ感じは、私と目の前の二人は兄弟だという事を告げている。相手もそれを感じとっているとは思うが、表に動揺を表す事なく平然と私を見つめてきた。
「彼は?」
「ラジルルリカ・ライム・ヴァーサスだ」
全て名乗れば、少しは動揺するように表情に出すかと思ったが、女の表情は一切変わらない。
しかも、両耳につけているピアスの石は、Sランクという唯一無二の存在のみがつけれるという希少過ぎる宝石だ。
Sランクに登録された者は、得意なもので宝石の色がかわる。イシュリカと名乗った女の宝石は二つ、黒と紫。召喚師と魔術師の最高位の色だ。
つまり、この女は二つを極めているという事だろう。
大体の人間が思うだろう。見掛け通りではないだろうと。
「二人は見かけ通りの年齢だ」
イアルから必要のない情報が提供される。
「イアルさん。東方都市の貴族を連れてきてどうしたいんですか?」
イシュリカと名乗った女は、つまらなさそうに私を見てきた。
興味も何もない。視界に映す必要もない。そんな眼差しを私へと向けてくる。
ライディリカという男が私へと向ける視線は冷たい。
「基本的に私は貴族が嫌いです。依頼があるといい、ここに呼び付けたのはルール違反です」
「前に約束しましたよね。連れがいたら教える、と」
「それは……」
イアンの表情から色が失われる。
どうやら今回の件は、あの二人にとってはルール違反だったらしい。
「幻の幻惑師。世界の果ての旅行者」
左手の刻印が光り、男と女が現れた、この世のものとは思えない美しい女と男。
『マスター』
二人の声が重なる。こんな召喚獣が存在するのか……?
まるで夢を見ているようだ。
それを最後に、私の意識は何かに刈り取られその場に倒れた。イアンと同様に。
そうだ。
これは夢だ。
あの時捨てた妹と弟が、私では手も届かない至高の存在だ何て、嘘に決まっている。
無力な、何も出来ない出来損ないの二人。
あの二人はもう死んでいる。
出来損ないの二人が、生きているはずもない。
とりあえず、自分より優秀になってしまった妹と弟の存在を認められず、夢扱いしてしまったお兄さん。