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よくあるかもしれない異世界召喚――初代勇者編8(完)





 あっさりと魔王城にたどり着いてしまった。勇者としてはありがちなスライムなんかを倒してレベルをあげ、最強の武具を手に入れて魔王城に乗り込む、という王道を簡単にスルーして、ここまで来てしまった。

 というか、魔界の住人がやけにフレンドリーなんだよね。私の設定って一応勇者なんだけどね。



「あのさー。俺魔王様と話しをしてみたいんだけど、どうやったら話せるかなー?」


 そんなわけで、街中で言ってみた。

 何かの時の為に、フウカとエンラは離れた場所で隠れてもらってる。アルティーラだけだったら、逃げるのに苦労はない。

 ものすごい数の視線が集まっているけど、アルティーラはにっこにこと笑うだけ。


「何で魔王様と話したいんだ?」


 近くにいた兄ちゃんが聞きに来てくれた。良かった。反応してくれて。


「俺さー。今日異世界から無理やり召喚されてこの世界の魔王を斃せって言われたんだけどさ、妙に胡散臭いんだよね。だから魔王の話を聞きたいなって思ってさ」


 さっき頼んだ焼き鳥っぽい何かと、ウーロン茶っぽい飲み物を口の中に放り込む。初めはゲテモノ料理かと思ってたんだけど、かなり美味しいんだよね。

 私があまりに軽くあっさりと言うから、周りにいる人たちが迷っているのがよく分かる。


「だってさ、魔界に来てみたら人界よりもよっぽど良い暮らしをしているしさ。

 魔王にも魔界でも戦争してのメリットがない。となると、過去から今に引き継いだ王が勘違いをしているんじゃないかと思ったんだよな。

 あ、これおかわり下さい。すげー美味いの」


 はぐはぐと肉を食べる私を、初めに声をかけてきた男が隣りに腰をおろしてくる。


「で、ここで食事か?」


「うん。外貨稼いで食べてる。ホント美味いんだよなぁ」


 止まらない美味しさだけど、そろそろ身になるかもしれない。この辺りでやめておこっか。


「ハハハ。変わったヤツだな。俺が魔王だ。さぁ、何を聞きたい?」


 隣りで適当に聞いていたんだけど、なんと魔王様でしたよ。魔力から考えて偽者ではない。つまり本物。

 なんて運がいいんだろう。アルティーラって。


「聞きたいのは、こうなった理由」


 それしかないよね。別に人間の味方でもないし。

 私の思っていることを感じ取っているのか、今にでも笑い転げそうだ。


「アンタが魔王なら答えてくれると嬉しいんだけど」


 ウーロン茶っぽいものを飲み干し、魔王の方を見る。どれだけの話が出てくるのかと思ったら、ぶっちゃけどうでもいい話に呆れてしまう。


「ちょっと喧嘩したんだよな。メイドのヒラヒラはいるかどうかで」


「…………」


 どうしよう。本当に何この理由。これで戦争に持ってくとかありえないでしょう。アルティーラに嘘は通じないから、本当の事なんだよね。


「あのさー、戦争する気はありません的な書類つくってもらってもいい?

 約束を破った方は領土を相手に渡すとかの条件つけて。あ、魔王の印も押しておいてくれると嬉しい。これで人間側は納得させるから」


 呆れ果てて疲れた。なんだこのオチ。

 結局魔王に書類をつくってもらって、それを人間の王様に真相を話して脅して印を押してもらった後、両方に複製した書類を渡した。ちなみに原本は私が大切に保管してます。


 しかしなんだろう。最後に呆れがきてどっと疲れた。

 もういい。元の世界に戻ってゆっくり休もう。

 そう思ったら視界が滲み出す。どうやら元の世界に帰れるらしい。

 もう呼ばれる事はないけど、まぁ…初めての異世界体験は今となってはちょっと楽しかったと思えるからいいか。

 

 何て考えたのが悪かったのか。これから何度となく呼ばれる異世界旅行に、頭を抱える羽目になるとは思わなかった、

 勘弁してください。本当の本当に……。






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