よくあるかもしれない異世界召喚――初代勇者編6
ゲーム中、印象的な場面があった。
いつもはわんこのアルティーラが、人との関わりを避ける場面。
少し緊迫はしていたけど、アルティーラだったらその中に入っていっても違和感はない。寧ろ仲裁役にだってなれた。
けれどアルティーラは悲しげな表情を浮かべて。
「…俺には無理だよなぁ」
と、誰にも悟られずにその場から去っていった。
その時の表情が悲しげで悲しげで。
勿論直前セーブはちゃんと永久保存版に指定したけどね。
人懐っこいけど、何処か人との関わりを避けたがるアルティーラ。
滅びの種族だからなのか。それとも滅ぼされた種族だからなのか。深く関わる事を怖がっているようにも思えた。
そう。思えたんだよね。
自分が気に食わない事には絶対力は貸さないけど、協力してもいいと思えばそのラインまでは力を貸す。
けれど深い位置には立ち入らない。
その情報さえも耳に入れない。
袈裟懸け神官を瞳に映しながら、私は人差し指を立てて自分の口元へとあてた。
つまり、この神妙な顔をし過ぎた袈裟懸け神官の話は聞かない方がいいよね!とか思ったりね。
アルティーラだったら聞かないだろうなって思ったのもあるんだけど。
多分、というか絶対に、偉い立場であろう袈裟懸け神官がこの国のお涙頂戴話をするとは思うんだけど、元々、勇者として呼ばれた私は、魔王をなんとかするまで帰れない。
ある意味脅迫されてるのに、召喚した側の国に同情は抱きたくないかな、と。まぁ、実際その内容が同情出来るか。力を貸したくなるか、なんてわからないんだけど。
「別にいいよ。話さなくて。とりあえず魔王をなんとかすれば俺は帰れるんだろ?」
一応の確認。
話さなくていい。寧ろ聞きたくないという私の態度に、袈裟懸け神官は驚いた表情を浮かべたけどね。
でもそれも一瞬で、瞬く程の間に崩れた表情は奥へと影を潜めてた。
流石上の人間。
狸を何匹飼ってるのかな。
「勿論です。
魔王の脅威がなくなれば、その時点で勇者様は帰還出来ます。そう条件をつけて召喚させていただきました」
「へぇ。条件をつけて、ね」
「えぇ。無制限で、他の次元から力のある存在をつれてくる事は出来ません」
「……」
力ある存在って……私が呼び出されてる時点でもうおかしいよね。
アルティーラのコスしてるだけで、一般人が呼び出されたんだけど。
「まぁ、いいや」
何がいいのか自分でもよくわかってないけど。
魔王をなんとかするって、正直意味がわからない。
スプラッタ苦手だし。剣なんか持ちたくないし。生き物殺すなんてやりたくもない。けれど情報を得て魔王を何とかしないと帰れないっていうこの状況。
頭痛いなぁ…。
しかもここの人たちから情報を得ても偏ってそうだけど、何もわからないから放り出されても困るし。
うーん。ジレンマ。
勿論表には出してなかったけど、内心ウンウン唸ってた私の耳に何かが囁く。
……ん?
いつもだったらそんな声が聞こえたら顔面蒼白なんだけど、嫌な感じは全くしない。
「俺は俺で勝手にやらせてもらうから、アンタたちは今後について考えた方がいいんじゃないかな。
アンタは、知ってるだろ?
石が砕けたらアンタたちにとっては始まりだ。それまでに準備を整えておいた方がいいよ」
私の言葉に、今度こそ袈裟懸け神官は表情を驚愕のものへと変えた。
頭の中に流れてきた情報。
どうしてか、ソレが真実だってわかる。
私は、袈裟懸け神官に意味ありげに笑ってみせると、街の外れまで戦線離脱を試みる。つまりは言い逃げ。
アルティーラも風で運んでもらってた。
そして今はものすごい力を持ってる勇者らしいから、瞬間移動ぐらいいける!
これで移動できてなかったらかなり間抜けだけど、目の前の視界が一瞬で変わったからどうやら無事発動出来たらしい。
魔法ってすごいよね。
「助けてくれただろ。ありがと。この世界の事は何も知らないから助かったよ」
で、場所も変わって落ち着いた所で、私は目の前に浮かんでいる小さな女性に笑みを浮かべてお礼を言う。
見るからに精霊。
ゲームや漫画じゃお馴染みの姿だけど、いざ目の前で見ると神秘感が半端じゃない。
まぁ、アルティーラにとっては馴染みのあるものだから驚かないけどね。