界渡りの章~刻の賢者は夢を見る
界渡りの自由人の主人公が普通?の人間だった頃の話しです。
【碧い星の物語り】で盾と矛の事を書いたので、矛と盾と賢者の始まりの物語りを書いてみました。
※シリアス(ダーク系?)のお話しです。
矛と盾サイドの話しも近いうちに載せる予定です。
世界平和になんて興味はない。
時なんて操れた例もないのに、いつの間にか刻の賢者なんて大それた名前で呼ばれ始めて数年。
世界の平和の為にという決まり文句で、脅迫紛いの勧誘を受ける事ここ一年。
理由は、解ってる。
何処かの、とはいってもこの星で類を見ない程の発展を遂げた二国が始めた戦争が発端。
大それた名を持つ魔法使いを我が物にしたいという、ただそれだけの勧誘。
理由を知る私としては、幾千、幾万の命が失われようともその戦列に加わる事はないだろう。はっきり言っても、効果はないけれど。
「レーイ」
「んー。こっちにいるよ」
私はというと、いつもの定位置よりも少し上にある祠で腰を下ろして魔力を注いでいた。これは、賢者の称号を与えられた私の役目。
いつのまにか刻がついちゃってるけど、その辺りは本来の役目とは関係ないと思っているから、私はこれを続けてる。
こうやって仕事をしてると必ずといっていい程顔を出してくれる友達二人。危ないからここには来ないでとは言っても、やっぱり効果はない。
「また食ってないんだろ? ほら、俺特製弁当!」
大きすぎるお弁当を掲げるのはラス。
「また痩せたんじゃない? それ以上細くなっちゃ駄目よ~。抱き心地が悪いったらありゃしないわよねぇ」
手の平を頬に当て、優雅な笑みを浮かべる割りに言う事は残念なのはミラ。
「昨日の今日で痩せないから」
昨日もそう言われて、ラス特製のお弁当食べたよね。
そして相変わらずの疑問だけどね。何で女であるミラがそれを言うのかな?
別にラスに言われたらいいというものではないけれど。
「あら~。血の匂い。また来たのね~。どっち?」
目の奥が怪しく光っているのは気付いているけど、あえて突っ込まずに私は質問の内容だけに答える事にする。隠しててもばれるし、それに隠した分だけセクハラ紛いな事をされるしね。ミラに。
「一ノ宮の方だよ。二ノ宮は昨日」
「一ねぇ」
「兄の方が回数が多いな。義弟には負けてられないって所か?」
「そうなんじゃない? 私にはよく解らないけど」
それに、そんなモノは理解したくないしね。と私が言えば、確かにと二人して頷く。
私程ではないにしても、二人とも腕利きの魔法使い。頻繁に勧誘は受ける立場にある。
まぁ、今回の戦で魔法使いが関わっているかというと、全体数の半分程かなという気はするけどね。
「状況はどう?」
ラス特製のサンドイッチを頬張りながら、人の世の情勢を聞いてみる。ここはある意味俗世から離れた場所だから、状況把握には向かないのよね。一ノ宮も二ノ宮も勧誘に来るから、両方とも生存してるんだろうなって認識。
「互角、になってるね。死者数は同じぐらい?」
「魔法使いが参戦した。そっちでも派閥争いが起こってる」
「まった性質の悪い」
そうなると、参戦した魔法使いの数が跳ね上がるかなと考えると同時に、魔法使い一人に対して一般人がどれ程命を落とすかと考えて私は思考を放棄した。
はっきり言って、それを数え始めればきりがない。
思いっきり眉間に皺を寄せた私の頭を、ラスはゆっくりと撫でていく。それに頬を膨らませたミラが、ラスを肘で押し退けてからラスが撫でた部分を上から撫でていくんだけどね。何でそこで張り合うのかな。
「ミラとラスは大丈夫?」
私と違って篭っていないミラとラスは、ある意味、勧誘数は私より少なくても危険の度合いは違う。本当は篭って欲しいけど、本来なら篭る場所に最適であったここはある意味、人間の世以上に危険な場所だからここにいて、とも言えない。
だから、本当は来て欲しくない。
一緒に居たい、なんて当たり前の本音は覆い隠して。
隠せた事もないんだけど…ね。
「俺たちは大丈夫。ミラは常に返り討ちだし」
「私たちよりも、レイよねぇ?」
「……」
私の賢者としての役目を知っている。知ってしまっている二人の眼は険しい光を帯びている。
一体どうして私が賢者になったのか。
それは素質があったからに他ならない。
「代われたらいいのに」
「代わりたいわよね」
二人が苦しげに言葉を紡ぐから、私は咄嗟に両腕を広げて二人を抱きしめてた。
「これは、私の役目。魂に刻まれちゃった事だから、当たり前なの。二人には代わってあげない」
こんな命を削る事、二人には絶対にやらせない。
私の大好きなミラとラス。
二人が生きる星だからこそ、私は魔力という名の命を捧げながら夢を見る。
二人が笑う星である現実という名の夢を見続ける。
決して口に出しては言わない私の本音。多分ばれてそうな気もするけど、これだけはそっぽを向いてでもしらばっくれる。そう、決めたから。
星に命を捧げる――ここだけ聞くと自己犠牲。
でも、本質は違う。
私は、二人だけには生き残ってほしいから。
だから星の安定を保つ役目を果たす。人が戦で星を壊していくから、ここ最近の負担は半端ではないけど。それでも、二人がいる星だけは壊させない。
星がなくなったら、人はここでは生きていけなくなっちゃうし。
生命を育む星のシステムが壊れたら最後だし。
「ミラもラスも、怪我しちゃイヤだよ」
だからこそ、私は念を押す。
「わかってるよ。レイは優しいし」
「優しすぎるのが心配よねぇ」
「二人の方が優しいけど」
私の本音には気付かないミラとラス。私を買いかぶってるけど、今それを言う必要はないから言わないでおく。
「二人が、優しいんだよ」
ミラとラスがいなかったらきっと、私は星の終焉を選んでる。
だって、二人がいない世界に興味はないもの。
「じゃ、食べよっか。食べないとまた痩せた、とか言ってぎゅーとするんでしょ?」
「食べてもするわよねぇ」
「俺は幼馴染として、お前の行く末が心配だよ」
ミラのさも当然とばかりの言葉に、ラスが呆れながらに呟いた。
ミラもホントに、口を開かなければ深窓の令嬢なのにね。
まぁ…そんな一般的には変わり者という評価を受けるミラも、自分からミラに突進していくラスも大好きだけど。