よくあるかもしれない異世界召喚――初代勇者編4
女神様女神様と拝みだした割合若い神官を視界の外へと追い出し、とりあえずこの状況でも冷静に話しを出来そうな人を探してみる。
勿論、詳しく状況説明をしてもらう為に。
アルティーラの無様な姿は晒せないけど、やっぱり色々と知りたい事がある。外は兎も角、中の私はてんやわんやしてるんだけど、勿論外面は完璧。だよね…?
ちょっと不安になりつつも、私の視界に収まったのは一人だけ違う色を放つ神官。お坊さんの袈裟懸けに似た何かを肩にかけているからすごく目立つ。
「すいませーん。そこの人に色々と尋ねたいんだけどさ……いいかな?」
にこっと人懐っこい笑みを浮かべ、言い切る。
勿論、否定的な言葉は聞く気ないよ的な態度でね。
わんこなのに。人懐っこいのに。何故か隙がないアルティーラ。実は食わせ者で腹黒説が流れていてそれも捨てがたいけど、やっぱりわんこなアルティーラは天然だった――を押したいね。私としては。
じゃなくて…。
ずれた思考を袈裟懸け神官に戻しつつ、私は相手の反応を待つ。その間も余裕の笑みは崩さない。
年の頃は三十にも満たないと思うんだけど、一人だけ別の空気を纏った袈裟懸け神官。うーん。貫禄。
「流石は選ばれたお方。私の姿を捉えるとは思いませんでした」
見た目は、日本のテレビでよく見かける爽やかな芸能人。茶色のさらっさらな髪は見るからに柔らかく、陽の光の下だと金色にも見えるかもしれない。
色素の薄い瞳の奥に宿るのは強い意志を感じさせる光。
流石は異世界と言わんばかりの意味ありげな事を言ってくれたんだけど、既に女神様の使い扱いをされた後だと動じない。
なんたって、勇者なアルティーラだからね。
「そう? アンタ目立つけどなー」
すっごくね。
言葉を付け足しながら左肩の方に首を傾げ、低い場所に立っている神官だけを視界へと映す。
「目立つ……ですか」
「あぁ。目立つよ」
困ったように笑う神官に、迷わず言い切る。
だって袈裟懸け神官って目立つよね。
白を基調とした神官服に、何故か金糸で刺繍を施したであろう袈裟懸け。これが目立たなくて何が目立つと。
「女神の使い――と言われても納得しか出来ない魔力。自覚はないでしょうが…」
「自覚? 別に普段とかわった事なんて何もないけどな。魔力も損なわれてないし。アンタたちが言ってた、勇者に備わった魔力とかいうヤツ?」
魔力なんて知らないけどねー。
でも、アルティーラにとっては馴染み深すぎるもの。それは押し通すけど勇者の特権ってホントに何だろ。
「この世界においては最強を誇る力のはずなのですが……勇者様には元々我らにはない力が備わっているみたいですね」
ふむふむ。この世界においては最強を誇るのか。
という事は…アルティーラの無様な姿を晒すという事はないよね。
「……アンタたちさ、古代種って知ってるか?」
内心ホッと息をつきながら、とりあえず古代種の事を尋ねてみる。この世界にも居て、それがアルティーラと同じだったら話は早いんだけど。
「古代種…?」
思いっきり首を傾げられた。
…そうだよね。居たら、アルティーラを女神の使いなんて呼ばないか。
「俺の世界じゃ、古代種は星が生み出した最初の種なんだけどな。この世界じゃ馴染みがない、か。まぁ、仲間の気配も感じないから当然だろうけどさ」
残念そうに、瞼を閉じる。
閉じる寸前に見た神官は、私の言葉に戸惑ったような表情を浮かべてた。
そして…。
「この世界において…最初の種は神の使いです」
神官の静かな声が、耳に届く。
んん。やっぱ、話はそれに戻るのね。まぁ、古代種の話をふった私の自業自得なんだけど。