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箱庭の住人 arco iris

 VRMMORPGからの転生ものプロローグ。

 案の定主人公は最強キャラ+かっこいい女性。

 短編の箱庭の中の異世界の設定を少し使いつつですが、まったく違う話です。




 VRMMORPG。

 最近ではやっていない人の方が珍しいオンラインゲーム。

 そんな数多の中の一つ。

 【アルコ・イリス】。

 コンセプトは仲間達と旅に出よう、の一言に尽きる。ギルドカードを交換し、一緒に冒険に行くと友好ポイントが溜まっていく。

 顔見知り。知り合い。友達。親友。無二の友の五段階。無二の友にまで行くには、どれだけ冒険に出かければいいのか。攻略した人の情報によれば、クエストクリアー回数が1000回とか。だけど回数が決まっている割に、落とし穴もある。初めは初期クエストで上っていく友好ポイントだけど、段々と初期クエストじゃ上らなくなってくるのだ。

 つまり、無二の友を得たプレイヤーは上位プレイヤーという事になる。そしてその無二の友システムだけど、これになる利点は自分がイン出来ない間も一緒に冒険に連れて行って貰えるという事だろうか。

 自分がインしてクリアーする程ではないにしろ、経験値、金貨、アイテムを貰えるのだ。運がよければレアアイテムを入手出来たりもする。まぁ、これは幸運値が最高値じゃないと無理だという話だけど。

 そういう理由から、アルコ・イリスではカードの交換の頻度も高い。

 高い、が、中にはやっぱり変り種もいたりする。

 

 つまりは上位ソロプレイヤー。


 アルコ・イリスは複数を想定しているクエストを多数用意しているゲームなだけに、単独行動は相当キツイものがある。なのに、それを乗り越えて上位に食い込むプレイヤーの根性は斜め上に突き抜けているのかもしれない。

 周りからは疑問しかあがっていなかったソロプレイヤーだが、発売から3年。運営側が密かに上位の変り種ソロプレイヤーに向けて発信された事がある。

 ソロでなくとも上位プレイヤーには色々な特典があるのだが、ソロプレイヤーだけが得られる種族や称号やスキルが存在するという事。

 その情報は瞬く間にプレイヤーの間を駆け巡ったが、今更ソロに鞍替えしてまでその種族を得たいかと言われると難しい所だろう。

 幾度と無く繰り返されたアップデート。

 それによって上位プレイヤーのレベルは3000。最高レベルに達したソロプレイヤーだけが得られる特典。

 だが、今更それを目指そうとするプレイヤーの数は限りなく0に近い。




 ギルドカードを確認しながら、変り種と称される私はにんまりと笑ってしまう。

 カード交換をしたプレイヤーとの冒険回数は0回。ただの顔見知り。ロビーで幾ら情報交換をしようとも、冒険に出なければ友好ポイントは貯まらない。

 最高レベルの特典の居城の椅子に深々と腰掛けながら、私は運営から届いたメールを読み返す。これから特典種族を決めようと思うが、勿論無差別に変えられるわけじゃないのだ。自分が選んだ種族のみ。

 亜人が突然精霊になったりする方が驚きだから、それは別に構わないけれど、幾つかあるから少し迷うんだよなぁ、頬杖をつきながら息を吐き出す。

 私の今の種族は竜族。

 ソロじゃない最高レベルの竜族だと、竜王(火・炎・水・土・風等が付く)だけだったんだけど、ソロの場合は古代竜王や光や闇の竜王になれるらしい。 他には神竜王や魔竜王。

 ソロプレイヤーの竜族は10人程。その中で最高レベルに達しているのは私を入れて二人。残りの八人はそろそろソロ脱出をすると言っていたから、私ともう一人だけの唯一の種族になることは確定。

 

「よし。メール書こ」


 どうせなら被りたくないし。

 そう思っていたら、相手から先にメールが届いた。考える事は同じ、か。居城なのを良い事に、画面を前面に出してじっくりとメールを読み進める。共有スペースでこんな事をすれば、変な人かもしくはプレイヤーキラーに背後からやられかねない。

 

「……魔竜か。うん。そのまんま」


 魔属性を極めてたから、ある意味予想通りと言うべきか。

 そうなると神竜か光か闇か古代か。

 魔竜の対のような神竜は却下。光や闇の属性よりも、オールマイティっぽい古代竜王かな。私自身何かに特化しているわけではないし。

 ささっと返事を書いて、私は運営からのメールに視線を戻した。メールの最後には招待状がある。そこに触れ、私は特殊な空間へと降り立つ。

 真っ白の空間に、金と銀で描かれた魔法陣。




【貴方は竜族ですね】


 何処からともなく聞こえる声。


「はい」


 それに迷わず答える。


【貴方は何、ですか?】


「古代竜王」


【かしこまりました】




 瞬間、魔法陣から放たれた光が私を包み込む。

 アバターが変化していくのも分かるけど、それ以上に数値が塗り替えられていくように変化していく事に驚く。

 限界値とされていた1000。それをあっさりと陵駕していく様を見ながら、王は半端じゃないなぁ、なんて他人事のように呟いた。

 この分でいくと、最高レベルのプレイヤーたちの数値も見てみたいと思うけど、きっと詳細は明かさないだろう。私も明かすつもりはないし。


 中性的な容姿や色彩はそのまま。見た目で特に変わった所はない。竜化すればその変化は恐らく分かりやすいんだろうけど、竜人のまま変化はしないでおく。やっぱり人の姿の方が動きやすい。


 さて、と。

 気分的には腕まくりをするつもりで気合を入れる。

 これから、ギリギリだったクエストをクリアーしに行くのだ。レアをゲット出来るといいな、何て暢気に呟いた私の脳裏に、突然サイレンが響き渡った。


「――ッ!?」


 まさか…。

 噂には聞いた事があっても、まさか自分が体験するとは思わない緊急事態がある。ベットに横たわっている本体。つまり身体に異常があった場合に鳴り響くサイレン。

 とりあえず落ち着かない気分にしかならないサイレンの原因を探ろうと、私はその場でログアウトを試みた。

 居城の場合は何処でログアウトしても問題なし。次回も居城から始まるだけだし。


 それだけの話、だったはずなんだけどね。

 


 私の住んでいる場所は、20階建ての18階。

 ログアウトした私が見たものは既に炎に包まれた自分の部屋だった。


 どうやら、少しサイレンを感じるのが遅かったらしい。


「熱い」


 本当に熱い。喉が焼け付くよう。


「……四面楚歌」


 私はアルコ・イリスをパソコンに繋げ、キーボード操作に切り替える。まだネットが繋がっている事に驚きだけど、最期に目に映るものはこれでいいかな、程度の気持ちで私はただ一人の友人にアイテムを送った。

 プレゼント。

 魔竜王になった彼なら、きっと役にたててくれるだろう。


 自分の最期がこれなんて。

 上で見ている家族はどう思うんだろう。


 次があったら、もう少し対人関係のスキルをあげよう。

 だから、今回はこれで勘弁してね。

 

 そう思っていたら、友人からメールが届いた。


 レアアイテムの贈り物。


「……ばっか。ただ受け取っておけば、良かったのに」


 請求したわけじゃなかったのにね。

 やっぱ、わからなかったか。


 でもいいよ。

 最期に、これをもらっていくから。


 ぷすぷすと嫌な音をたてているパソコンの画面が、最後にキラリと光る。レアアイテム入手のエフェクト。


 あー。派手だね。

 初ゲットだからエフェクトも派手なんだっけ。


 まぁ、いいか。


 またね。


 


 ユラユラと、揺らめいた私の意識。


 陽炎のように揺れているのは炎なのか、私の意識なのか。


 それとも両方なのか。



 ユラユラと揺らめく炎に包まれて。


 ユラユラと揺らめく意識に身体を支配されて。


 私の全てが落ちていく。







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