猫又と王子様・6
猫又族成人の儀。
主人公最強設定になります。
その設定は生かされないと思いますが…(兄が最強で)。
猫又の成人の儀。
両親と、猫又族の代表――じゃんけんだったりくじびきだったりと、特にたいした意味は持たない――に見守られ、内に閉じ込められた魔力を解放する。
その時に額に現れる印は、属性を示す。
猫又といっても、得意な分野はかわるのだ。
初めての経験でドキドキと自分の鼓動が煩い程響く中、ユゥの額に浮かんだのは炎と雷と風。三つの属性が複雑に絡み合った紋章。それを持つ猫又は、歴代の中でも数えるほどしか存在していない。
他の兄弟たちは二つ。それでも多い。流石両親からして猫又のサラブレット。
『ティ』
『はい』
呼ばれて、一歩前へと足を踏み出す。
猫又族特有の魔法陣の中心に座り、私はお母さんの祈りの声に耳を傾けた。初めて聞くけど、昔から慣れ親しんでいたかのように耳に心地よく響く。
ウットリとしながらお母さんの声に聞き入っていたら、額に熱を感じたかと思うとそれが弾ける。痛いとかそういうんじゃなく、ただそこに何かが現れた。
これが印かと思っていたら、何故かお母さんの祈りの声が小さく聞こえる。どうしたんだろ?
まさか印がなかった、とか?
それは確かにこんな唖然とした表情になるかもと、不安げに周りを見回せば私を落ち着かせるようにユゥが笑みを浮かべてくれた。
大丈夫だよ、という事らしい。
続いて驚きを露にする両親に向かって一鳴き。
『……ふふ。可愛い娘の予想外の印に、ちょっと驚いちゃったな』
『そうねぇ。まぁ、ティの魔力を考えれば妥当な所だけどねぇ』
『……??』
すごく納得されてるけど、当の本人がまったくわかっていないんだけどどうしよう。そう思ってたら、父さんの視線が私へと移動する。
『この世界に愛された娘よ。成人の儀は無事終了した。これからは思うがままに生きるがよい』
お父さんが、穏やかな表情を浮かべて言い切った。
んー…思う所はあるけど、一応問題なく終わったのかな。
それにお父さんのその言葉って、この後のあの変態王子との邂逅を示唆しているような気もしなくもないんだけど気のせいかな。
まぁ、いっか。契約は契約でも、いざという時に力を貸す必要があったとしても、普段一緒に居なきゃいけないわけじゃないし。
『ティ。行くよ』
成人の儀が終わったという事で、これからユゥが王城へと出向くらしい。
『りょーかーい』
ユゥの契約に付き合い、私も王城へとお邪魔する。10ヶ月ぶりの顔合わせだね。
『そうそう。あの第三王子が近付いてきたら僕が警告するから、ティは何もしなくていいからね』
『……了解ー』
なんだろう。ユゥの笑顔に悪寒を感じた。
けれど末っ子で甘えん坊になった私はというと、ユゥに身体を摺り寄せて、ふみゃ、と一回鳴いた。
『背中に乗っておこうか。何があってもいいようにね』
『わかったー』
成人の儀を迎えても、やっぱり私の身体は小さいまま。楽々ユゥの背に乗れるサイズにしか成長しなかったから、遠出する時は未だにユゥの背に乗せてもらってる。
ユゥ曰く。すっごく軽いんだって。
『じゃあ……走るからね』
『うん』
ユゥの言葉に、私は顔を伏せてユゥの背にしがみ付いた。猫又族の走りはすごく早い。ユゥの場合は風の属性もあるから、もっと早くなる。
目まぐるしい程変わる景色の中、私は息苦しくなる事もなく変わる景色を堪能しまくってた。てっきり息苦しいかと思ってたんだけどね。
『ティも風の属性があるから大丈夫だよ』
『へぇ……って、結局私ってなんだったの??』
『世界に愛された猫又だよ』
『……?』
『これから分かるよ』
『ふぅん』
とりあえず、ユゥの言葉に頷いておく。
盲目的かもしれないけど、ユゥが私の不利になるような事を放置するわけがないからね。これから分かるって事は、本当にこれからわかっていくんだろうし。
『見えたよ』
『…ホント早いね』
王城の結界をすり抜けて、あっという間に儀式の間に到着。こういう儀式の間があるって事は、私の時って本当に簡略でやられたんだなぁ…。
厳かな黒で統一された室内を見て、私の感想はそれだけ。
『……』
部屋の外に感じる気配に、改めて気合をいれる。
『大丈夫だよ』
『うん』
生後二ヶ月の子猫を誘惑するような色っぽい流し目をしてくれた王子様の顔を思い出し、ゲンナリとしていた所に癒しの声。
あー……ユゥの声は安心するなぁ。