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猫又と王子様・3

第三王子と第四王子の出会い編。




 王族は、魔力のある人間以外のモノと契約を結ぶ。それは昔からの取り決めで、破られた事はないしこれからも破る事は有り得ない。

 というよりも、あってはいけない事。

 この国を守護する姿無き守護者との取り決め。

 20歳という年齢までに、パートナーを決めて契約を結ぶ。姿無き守護者が、初代国王のパートナーであった存在であった為と言われているが、真偽の程は定かではない。

 だからこそ、幼い頃からそういった存在たちと触れ合う機会は多かった。両親からは、この相手とならと思う存在がいたのならば逃がさず交渉しろと言われ、二人居る兄たちもその言葉通りこれだと思えた存在たちと契約を結んだ。

 長兄は鳥の形をした存在。大きさは肩に乗るぐらいのもの。

 次兄は蛇。両腕を伸ばした程の大きさのもの。一瞬蛇かと皆で頬を引き攣らせたが、色が白。目が翡翠色という配色が思いの他綺麗だったからなのか、家族たちからは特に問題なく受け入れられた。

 そして俺。18歳という年に達してもパートナーを選べていない俺は、父親からプレッシャーを受けるように人外の誕生の場へと送られる。今生きている存在たちが気に入らないのならば、これから生まれてくる子たちで選べという事らしい。

 そんな無茶な。

 成人の儀までは一年程。つまりギリギリだろうと思うが、俺が選べていないのだから仕方ない。


 今日は、王国の隣の森に居を構える猫又族の出産があるらしく、父が許可を取り俺がそれを見に行く事となった。

 猫又族は、黒の毛並みと金の眼、そして二股の尻尾を持つ猫だ。

 成人の儀を迎えると、黒だった毛並みは漆黒へと変わる。とはいっても、人間が見れるのは漆黒の毛並みになった猫又だけ。

 一歳未満の猫又たちは一族の保護の下、立ち入り許可となっている森で過ごしているからだ。

 だからこそ、今回の出産への立会いは例外中の例外。それも、母親が猫又族と契約を結んでいたからだろう。出なければ、出産に立ち会えるはずがない。

 いつもだったら出産後、安定してからそっと様子を伺う程度なのだが、許可を取ってくれたのなら見ておこう。

 でなければ、母親もパートナーの猫又もこ……。


「兄上」


 その時、俺の思考を遮るように弟の声が響く。

 俺よりも一つ下の弟であるエイラ。俺が言うのもなんだが、柔らかそうな金の髪と碧色の瞳を持ち、穏やかな笑みの下では相当な黒さを隠し持っている兄弟たちの中では色彩だけではなく中身も一番母親に似ている存在だ。

 長兄から俺までは父親似。

「俺も行けって、母様から言われちゃった」

 にこり、と太陽の日差しが似合う満面の笑みで言われるが、俺はへぇ、と素っ気無く言葉を返すだけに留めておく。

 太陽の王子と月の王子。エイラと俺はよくこう称されるらしいが、柔らかな笑みを持つエイラと違い、俺の目つきが悪いからかと問い詰めたくなった事がなかったわけじゃない。まぁ、俺の髪が銀色だからだろうが。

「リーエル兄上でも、俺でも、どっちでもいいから猫又族と契約を結んで欲しいって母様は考えているみたいだね」

「そうみたいだな」

 母上の肩の上で黒い猫が寛いでいるのを見て育ったが、あれは色々な意味で力が抜ける。女性はいいが、男が肩に猫を乗せている光景というのは威厳からは程遠いのではと思う。

「……」

「何?」

 俺は隣を歩いているエイラをジッと見つめた。

 勿論、エイラからは首を傾げられたがそれでも見続けた。

 この弟なら、猫又でいいかもしれないな。

 違和感なんて何もない。それ所か、色々と騙せていいんじゃないだろうか。

「ふふ。兄上って結構考えてる事が表に出るよね。皆出ないっていうけど、俺より遥かに素直だと思うよ」

「…お前と一緒にするな」

「わかってるよ」

 にっこりと、輝かんばかりの笑みを浮かべながら素直に頷くエイラ。表面上だけで受け取るなら邪気のない笑みにしか見えないんだがな。

 それが逆に怖いと俺は溜息を口の中で零すと、猫又族の森の中へと足を踏み入れた。

その時、淡い光を放つ母から受け取った小さな宝石。

 猫又族から借りた許可証。一回だけしか使えないらしく、その光は段々と輝きを失っている。

「この光が消えるまでに森を出ろって事だね」

「あぁ。早く行くぞ」

 出産前に消えるとは思わないが、それでも急ぐに越した事はない。






 そこで、俺は運命の出会いを果たす。




 白い光に包まれ、生まれてきた小さな黒い塊。

 生まれた直後なのに、二股に分かれた尻尾を動かしながら、四本の足でしっかりと立ち上がる。が、身体が斜めになり倒れそうになるが、その猫又よりも一回りも大きな猫又に助けられ、何とか立っている。

 小さな小さな身体。

 だが、その身体から立ち上る魔力は純粋な透明。魔力が揺らぐ時、陽炎のように空気が揺れ辺りの視界がぼやける。

 相当の魔力の使い手。

 周りで見守っていた猫又たちも騒然としている所を見ると、俺たちはかなり貴重な赤子の誕生に立ち会えたのだろう。


 

「…リーエル兄上」


「……」


「俺の見間違いかな?」


「……いや」



 貴重な純魔力の使い手の誕生。

 なんて事は霞む程、俺が驚いた光景が目の前に広がった。たった一瞬。子猫を包んでいた白い光が人の形に見えた。

 黒い髪と眼を持つ、人間の女に。

 通った鼻筋。薄い唇。そして、印象的な黒い瞳は状況を把握しようとしっかりと辺りを見回し、俺と一瞬だが眼が合ったような気がした。

 長い長い睫毛。その睫毛すら黒という、高貴な色に包まれた人間。


「綺麗だ…」


 エイラが、俺の隣で声を漏らした。

 感嘆の、歓喜の混ざったような声音を…。


 女の姿は消えていたが、一回り程小さい猫又の子猫は金色の眼を開き、辺りを見回している。

 成人の儀を迎えていない子猫のはずなのに、既に他を圧倒する空気を平然と纏いながら、自身の身体を支えてくれた猫又に頬をする寄せた。


『なぁ…』


 甘えるような声で鳴きながら、母猫を見つめコテっと音をたてながら寝転ぶ。


「あの猫又は長兄だよね。あの子がいなかったら、多分猫又を代表するような魔力の持ち主だね」


「あぁ」


 透明ではないが、純粋な黒の魔力を放つ子猫。

 尻尾は一つ。


「睨まれた気がするな」


「睨まれたね。兄弟想いの長兄、だね」


 だけど、エイラの眼差しは一番小さな猫に注がれたまま。


「俺は末っ子だから、甘えるだけ、だけどね」


 俺の視線の先に気づいているのか、エイラが微笑みながら言い切る。きっと、考えている事は同じだろう。エイラも俺も、生まれながらに二股の尻尾を持つ猫を狙っている。契約を結ぶ相手として。

 けれど、俺はわかってる。

 一年とはいえ俺の方が時間がない。俺とエイラが言えば、俺が優先される事を俺は知ってる。だから、俺はエイラ笑みを返しておいた。

 譲る気はまったくないという意味をしっかりと込めて。







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