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ヒトカケラ乃章~ヒトカケラ乃ホノオ

短編・【ヒトカケラ乃シズク】別主人公Verです。設定等は短編より煮詰めたりしましたが、こちらは恋愛色が強い話しになる予定です。

主人公は女性。特殊です。

プロローグ的?な話しが完成しましたので、短編集にupです。

(ヒトカケラ乃シズクより7・8年前の世界です)





 世界暦3075年、白石の月十五の日。


 享年51歳。


 ディティア・ティアール・ダルンヴァード・セントゥール・サナディアル。


 豊羽の国に大公であり、国王の片腕としてその手腕をいかんなく発揮し国を繁栄へと導いた一人。






「母さん」


「お義母様」


「お祖母様」


 身内がベットの周りを囲み、更にその周りを皇帝陛下。国の中枢を預かる人物たちが囲み、ディティアを見守る。


「泣かないの。私は幸せだったんだよ。だから笑って。ね?」


 ディティアの右手に縋るように頬を寄せていた孫の頭を撫でる。


 ディティアも、息子も結婚が早かった為、この年で孫の成人した姿も見れた。もう少し生きれたなら孫の嫁も見たかったと思わなくもないが、今のままでも十分満足だった。


「皆の幸せを祈ってるよ・・・・・おやすみ」


 ディティアは親しい者たちに囲まれ眠るように息をひきとった。








 はずだった。














 世界暦3056年。

 白石の月十五の日。


 何故かディティアは嵐加の国のある一画で産声をあげていた。




「(……孫が産まれた翌年……)」



 はて、とディティアは動かない首を懸命に動かしながら考えに没頭してみる。父親らしき男が偶々見ていた新聞の日付で世界暦は間違いないだろう。だが、と疑問の言葉が次々と浮かんでは消えていく中、赤ん坊のままだと情報収集には適さないという事にも気付き始めていた。

 思考がまどろみ、いつの間にか眠りへと誘われる。

 起きたら兄や姉の可愛い攻撃に始まり、従兄弟やらなんやらが顔を見に来て父に怒られ母に慰められ、ディティアに笑いかけられ浮上しながら帰っていく。

 最後に浮上させるのがこの賑やかな日課の原因かとも思うが、その辺りはディティア自身嬉しいので気にしないでおく。

 孫みたいな年齢の子供たちは結局可愛いのだ。


「(んー。眠い……赤ちゃんは眠るのが仕事だよねぇ、やっぱり……今頃あの子も寝てるのかなぁ)」


 可愛い孫の姿を思い浮かべ、ディティアの精神は眠りへと誘われ、数分後には穏やかな寝息をたてていた。








「ディティア。僕の可愛いディティアはお休み中」


 ディティアの5歳上の兄であるラティアルは踏み台持参でディティアの部屋へと足を踏み入れると、いつものようにベットの横へと踏み台を置きそこに立つ。

 可愛い妹。

 紺碧の色彩を持つラティアルの大好きな妹。気にかかる事といえば、瞳の色が風雷の神の色彩である白緑に銀が混ざっている事だろうか。


 この世界において、金や銀は神のみが持つ色彩と言われていた。


 人の身では決して持ち得ない純粋な金と銀は、神の具現者が持つと言われ、壱神に付き具現者はたった一人。神の寵愛を受けた存在として、その力は人の身では決して得る事の出来ない力を行使する。

 嵐加の国が崇める風雷の神の具現者は、前具現者が死んでから100年一度も現れてはいない。

 神が加護を与える、神に好まれた魂。


「んー。具現者って事は、司になるのかぁ」


 魔法師・睦果師・精霊師・召喚師。この世界の導力に眞力(魔力・神力の総称)を干渉させて様々な現象を発現出来る者たち。

 それらを全て使いこなすのは不可能だが、ただ一つ例外がある。


 それが具現者。


 具現者だけに許された“司”という称号。


 全てを司る者という意味がある。





「家が大きくて良かったぁ。僕が護るから安心してね」


 嵐加の国において、皇帝に次ぐ権力を持つ血筋。それが、ディティアの産まれた家。

だから安心してね、とラティアルは眠っているディティアの額にチュッと音をたて口づけた。




 それが、ディティアの予期せぬ第二の人生の始まりでもあった。




*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*





 月日は流れ、ディティアは19歳になった世界暦3075年、白石の月十五の日。


 



 親しい者に見守られ、ディティアが死んだ年でもある。



 真面目な経済新聞に目を通しながら、ディティアの目はある記事に釘付けになっていた。

 豊羽の国に関する事で、要人が亡くなったという内容のものだった。その要人というのはディティアの事で、思わず溜息を落としてしまう。



「どうしてか豊羽に行く機会は悉く潰れたんだよねぇ」

 まるで何かの力によって阻まれているかのように、ただの一度もその機会は訪れなかった。

 ディティアの両親や兄姉や弟妹たちは、豊羽の国に行って皇帝の血筋と交流を深め、今でも文のやりとりをしているのだ。が、ディティアは血に連なる者所か豊羽の国の中枢人物たちとすら会った事はない。それを皆が不思議に思わないのがまた何かの圧力を感じる要因の一つなのだが、その理由が何となく解ってしまい、ディティアもあえて口には出さずに自身の中に留めておく。


 多分というか絶対に、白緑に銀が混ざった右眼が関係しているのだろう。


「(大地の神様は大好きだったけどね…でも具現者はあの子が選ばれたのね)」


 孫と同じ年の殿下。

 常盤色だった目の色は、豊羽のディティアが死んだ事によって金が混ざった左眼を持つ存在になったらしい。つまりは大地の神の具現者である。


 風雷の神は自分の具現者が豊羽の国に行くのが心配なのか。それとも同じ魂を持つ者同士を離しておきたいのか。難しい所だが両方だろうと思いながら新聞を閉じて机の上へと置き、紅茶が注がれたカップに手をかける。


 恐らく、これでディティアは豊羽の国に行けるのだろう。

 自分が死んだという記事は些か複雑なものがあったが、今は嵐加のライナード家のディティアで豊羽のサナディアル家のディティアではないのだ。


 その時、コンコン、と控えめに扉がノックされ、ディティアはカップに注いだ視線を扉へと移す。


「どうぞー」


 部屋の主であるディティアの承諾を得て、ノックをした人物はゆっくりと扉を開けた。


「お邪魔するね……勉強中だった?」


 机の上に所狭しと並べられた新聞や書物の山。


「ううん。ちょうどお茶にしようと思ってた所だよ」


 紺色の色彩を持つ5歳年上のラティアルは実家に暮らし、ディティアとは一番話す人物でもある。兄妹の中では一番仲が良いのかもしれない。


「ラティ兄も食べる? 今日は新作みたいだよ」


 乾燥させた果実が入ったパウンドケーキ。


 甘い物が好きなディティアの為に料理長が日々研究を重ね、今では本として出版される程の流行の最先端を進むデザート。その新作のお披露目は、ディティアの自室であっさりと行われていた。


「(これを食べる為に数百人が並ぶんだよねぇ)」

 世間に出ればの話しだが、料理長にとってディティア以外はただのおまけである。


「僕は食後に頂こうかな。今は紅茶だけ貰ってもいい?」

「うん。私と同じものでいいかな?」

「ディーテに任せるよ」

「了解。私と同じアールグレイの紅茶ね」


 慣れた手つきでカップを温め、砂時計を置き時間を計る。


「ねぇ、ディーテ」


「んー?」


 紅茶を注いだカップを持ち、それをラティアルの前へと置いていると、少し沈んだ声が聞こえた。


「どうしたの?」


 キョトン、と大き目の瞳を丸くしてラティアルを見つめてみると、見つめられた本人は何時になく真面目な表情を浮かべたかと思うと、ギュッとディティアを抱きしめる。


「ラティ兄??」


 この程度のスキンシップは今更で、ディティアとしてはまったく気にならないがそれでも、いつもとは違って抱きしめる腕に力が篭っているような気がして、背に回した手をポンポンと叩いてみる。

 小さな子供をあやすようにゆっくりと。


「僕はディーテに甘えているね。うん。自覚はしてるんだよ」


「………」


「自覚はしてるから、引き離されたくないって思うんだ」


「……」


「でも、外交問題もあるし」




「…結婚?」






 外交問題という言葉に、それしか思いつかなかったディティアつい言葉に出してしまう。


「違うよ。具現者を無理に結婚なんてさせないよ。その点は安心してるんだけどね」


「違うんだ。そろそろ行き遅れになるから見合いなのかと思った」


 それはディティアの本音である。

 豊羽のディティアだった頃は自分が家の主で、望まない結婚なんて片っ端から断り、子供にも自由にさせてきた。その程度で潰れる家なんぞ知らん! をもっとうに、周りからの脅しを全て跳ね除け、実力で確固たる地位を得たディティアに、政略結婚の四文字ははっきり言って存在していない。

 存在はしていないが、今現在のディティアといえば養われる身。贅沢は言えないかなと思っていたのだが、それはないという事がわかり安堵に胸を撫で下ろした。


「うぅん。結婚じゃないけど、豊羽に行ってもらう事になりそうなんだ」


「豊羽に?(私が死んだら早速かぁ…)」


 かなり複雑な感情が入り混じるが表には出さずに、ラティアルの言葉を待つ。


「そう、豊羽。長期になるかも。20歳の殿下が具現者になったのは知ってるでしょ?」


「うん。珍しい例だよね」


 具現者は神に愛された魂を持つ存在。それは産まれる前から決められていて、産まれた後に具現者になるという事は本来ならありえない事。


「憶測だけどね、豊羽には具現者候補が2人いたんじゃないかって言われているよ。そのうち一人が亡くなって、具現者に値する魂が殿下一人になったから現れたんじゃないかってね」


「へぇ」


 そうなんだぁ。なんて呟きながら、心底初耳だった。


「(それって私だよねぇ……豊羽で具現者候補だったんだ)」


 今現在、嵐加の国で具現者のディティアは、この前も具現者であったとしても不思議ではない。結局、神から好まれる魂というのは転生したとしても、好まれたままなのだ。


「本来は生まれながらに備わってる力だからね。制御は自然に覚えてしまうんだけど、つい最近目覚めたばかりだから制御がまったく出来ない状態なんだって」


「あ…そっか。それで私が豊羽に行くんだね」


 納得したとばかりに頷くが、ラティアルの表情は晴れる所か更に影を帯びている。


「そうなんだよね。他の国の具現者は現在地不明だから。生きてはいるんでしょ?」

「生きてるよ。存在は感じるから」


 場所の特定は出来なくても、自分以外の具現者の存在を感じとる事は出来る。

 孫と同じく可愛がってきた殿下。その殿下が具現者というのは新聞で知るより前に感じ取っていた。

 だから、協力できる事があったら惜しむつもりはないディティアだが、今自分が豊羽の身内に関わって大丈夫だろうかという心配もある。

 豊羽の自分が亡くなったばかり。


「(何か色々複雑…)」


 19年間、嵐加のディティアとして生きてきた分、豊羽の自分は何処か遠い存在でもあり、過去の事でもあった。が、大切な子供や孫を目の前に同じ事を思えるか、と自身に投げかけてみると、答えはわからず迷ってしまう。


 かといって、他の国の具現者の所在地がはっきりしていたとしても、恐らく嵐加の具現者が選ばれただろう。元々、嵐加と豊羽は繋がりが強いのだ。名産が被らない、利益があるという本音はあるが、それ以外でも友好国として認定され、王族や貴族が友好的な関係を築こうと幼い頃から行き来している。

 そんな相手に頼らないはずがないとはわかっているが、それでもラティアルの表情は優れないままディティアを抱きしめ続けた。


「じゃ、ちょっと留学してくるね。大学に行く時間ぐらいはあるでしょ?」


 折角だから豊羽の大学を見てこようと、完全に意識を切り替える。


「あるよ。勿論。ディーテは束縛なんかされないよ」



「ラティ兄。ディーテ姉が折角淹れてくれた紅茶が冷めちゃうぜ?」


 腕を離す素振りさえ見せないラティアルに、何時の間にか扉に背を押し付けながら

立っていた人物が遠まわしに腕を外せ、と言葉を紡いだ。


「リーティル…帰ってきてたの??」


 弟のリーティル。太陽の国の大学に留学していたはずで、帰国予定はなかったはずの存在。


「あぁ。俺もディーテ姉と一緒に豊羽に留学するからさ。その手続きで帰ってきたんだ」


「聞いてない」


 その言葉に、反応を返したのはラティアルだった。


「そりゃそうだろ。父さんから昨日言われたばっかだし。流石にさぁ…ディーテ姉だけを豊羽には行かせないと思うぞ?

 となると、動かしやすいのは俺だろ」


 兄妹の中で自由のきく存在は、ディティアからリーティルの2人だけ。

 それはラティアルも解ってはいるが、感情だけで言えば別だった。


「そうかもしれないけど、大学はいいの? 専攻が太陽の国の大学だったんでしょ?」

 ラティアルの腕からあっさりと逃れ、自分にに詰め寄るディティアにリーティルは苦笑を浮かべた。

 この姉は一人で行く気だったのだと、改めて実感する。


「あぁ。学校の科目は一区切りついたし、豊羽に行くのは問題ナシ。それに、ひょっとしたら面白いヤツに逢わせられるかもしれないから、ディーテ姉と行くよ」


 意味ありげな言葉だが、その真相を語る気はないリーティル。長年の付き合いでそれを察する事が出来たディティアは追求する事はせず、ラティアルにその視線を合わせた。


「リーティルが一緒なら安心だね。早ければ早い方がいい、という話しだから、その辺りはディーテに任せるよ」



 それは笑みだった。

 穏やかな笑み。


 ディティアは気付かない笑みの真実に、リーティルは背筋が寒くなるのを感じていた。


「(相変わらず怖~。つーか、拍車がかかったか?? ったく、やれるだけはやるけどさー。色々さー。俺だって思う事はあるんだぜ)」



 内心は思う所が色々とあり過ぎるリーティルの本音だが、それは音に出ることはなく本人の胸の内にだけ留められていた。






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