拍手地味な女の子《重要なポジション》
「はーるちゃん」
「……」
「はるちゃんどうしたの?」
「………」
「ほらほら。はるちゃんの大好きなチョコだよー」
「…………委員長の馬鹿ーーーッッ」
「え? ええっ?? はるちゃんなのにチョコなのに馬鹿って……え??」
いつもだったら飛びつくはずなのに。
なのにもらった言葉はありがとうじゃなくて、馬鹿。
まったく予想していなかった言葉に、俺はらしくもなくその場に固まってただはるちゃんが走り去った方向を唖然と、かなり間抜けな表情を浮かべてただ見る事しか出来なかった。
「ふふ」
「……何を知ってるのかなー?」
マナが意味ありげな笑いをもらす。
ささやかな。鈴の音を転がすような可愛い声――らしいマナの声なんだけど、付き合いが長い所為かまったく可愛く聞こえない――が後ろから聞こえた。
「遼さん。歯の詰め物が今朝、取れてしまったらしいですよ」
「………はるちゃん虫歯あったんだ」
「虫歯ではなくて、中学の時に転んだ際歯が欠けたみたいですわ」
「……へぇ。派手に転んだんだっていうか今朝かー」
つまり、痛いんだろうなぁ。
あのはるちゃんがチョコを食べれないぐらいだから、下手をすると朝食も食べてないかもしれない。
はるちゃんはお腹が空くと機嫌も悪くなるし…。
うん。まったく良い事がないよねー。
俺と遊んでくれないし。
「学校は…」
「終わり次第行くそうですねぇ。ふふ。いっその事医者を呼びましょうか?」
「あー。それでいいんじゃないかなー? ヒコー」
「あぁ」
携帯で電話。
しかし、はるちゃんは几帳面だなぁ。
この学校は授業があるようでまったくないのに。
「じゃ、俺ははるちゃんを捕まえてくるかな。食べ物で出てきてくれないはるちゃんって何処に隠れてるんだろ」
いつもいつもはるちゃんから出てきてくれるから、本当の意味ではるちゃんを見つけた事ってないんだよねー。
うーん。まぁ、いっか。勘で。
「ヒコー。つれてくるからよろしくねー」
「……」
不満そうだけど、見なかったふりをして教室を出る。
だってさ。やっぱりはるちゃんを探すっていう重要なポジションはヒコにだって譲れないよねー。