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拍手地味な女の子《お祭り部員と地味な女の子》

 ぽてぽてと道を歩いていたら、聞き覚えのある音楽が聞こえてきた。

 ん?

 んん??

 この血肉が踊るというか滾るというか、ねじり鉢巻と撥を持ってこーい!!と叫びたくなる日本人の心を擽る音楽はまさしく、最近馴染みになったチートの一人だろう。

 というか何故ここにいる?

 どうしてこんな縁も所縁もないような場所に出没した?

 目立つでしょ。

 本当に心底場違いな程目立ちすぎるよねー。

 例えテーマソングをその身にまとっていても。

 ハッピを改造したような派手な服を着ていたとしても。

 ねじり鉢巻がプリントされたバンダナを額につけていたとしても。


 その整った顔立ちは全てを覆い隠すというか、気にならなくなるらしい。

 

 美形は得だねー。というレベルの範疇内なのかどうなのか。既に美形だからと言っても許される範囲は超えているだろうと思うんだけど、どうやら世間一般な女の子たちは気にならないらしく、彼が外を歩けば牽制し合いながら群がる女の子たちに遭えたりする。

 会う。逢う、じゃなくて、遭遇の遭うね。

 こういう時は空気に溶け込む悲しい特技を活かし、さぁ、通り過ぎるがいいわ!と壁に背をつけたりしているんだけど、何でか今日は珍しく彼が一人で歩いてた。

 ありゃ珍しい。

 彼──つまりお祭り部員の事なんだけど、お祭り部員一人だと如何せんこの特技は通用しないのだ。

 通用しないという事は…。


「よぉ、はむちゃん!」


 見事に見つかるという事で。


「やぁ、お祭り部員こんにちはー。そしてさよならー!」


 脱兎の如く逃げ出そうとしたんだけど、その時視界の隅に写った輝かしいばかりに存在を主張するふんわかさん!


「食べる?」


 お祭り部員に聞かれて。


「食べるーーー!!!」


 迷わずに答えていましたとも。


 あれ?

 そういえばまたもやはむちゃんと呼ばれたような。

 いいんだけどね。いーんだけどね。今更だし。今更だけど、一応遼って名前があったりなんかするんだけど、人の事言えないからいっかー。

 そういえばお祭り部員の名前ってなんだっけかなぁ。


政継マサツグだよ? はーむちゃん」


 ってお決まりのサトリだよねー。


「へー。まさつぐ君」


 すぐ忘れそうだなぁ、なんて思ってたら、いつのまにかお祭り部員のテーマソングが鳴り止んでた。


「君?」


「君がどしたの??」


「いや…」


「んあ??」


「いやいや、どーぞ。食べるんだよな?」


「食べる食べる」


 ふんわかさんは、何処に入ってたか分からないけどふわふわを維持しているシフォンケーキ!

 これは紅茶風味だね。いいねいいね。こういうシンプルなのも大好き!


「っと、その前にはむちゃん手ぇ出して」


 何処から取り出したのか、お祭り部員の手にはウェットティッシュ。それで手を拭き拭きとされて、はいどうぞとシフォンケーキの入った袋を手渡される。

 つまりは解禁という事だよね。

 食べていいって事だよね。

 いただきますっ。

 はぐはぐと少し大きめのシフォンケーキを頬張りながら、何でか隅っこで蹲るお祭り部員を不思議そうに眺めてみたんだけど……まぁ、いっか。

 放置して遠慮なくシフォンケーキを食べよっと。

 こっちはバナナ。これはチョコ。おー、イチゴもある。


「全部食べていいー?」


「これもどぞ」


 聞いたら増えたから、はぐはぐとそれらも口の中へと放り込んでいく。むぅ、何か喉が渇いたかも。


「はむちゃん」


「んー」


 紅茶をもらったから、コクコクと喉をならしながらそれを一気に飲み干す。ちょっと足りないかも。シフォンケーキって結構水分持ってかれるよね。

 そう思ってたら、お祭り部員がまたペットボトルの紅茶とお茶をくれた。遠慮なくいただきつつ、抹茶あずきのシフォンケーキを頬張ってみる。うん、美味しい。

 学校だと小さなものが多いから、こういうケーキ類っていうのはあんまり貰わないんだよね。副委員長が週に一回ぐらいデコレーションされたケーキを持ってきてくれるけど。

 しかし、豪勢な食事なのになんで皆太らないのかなー。

 チートは体型維持も可能なのか。

 すごいよねー。


「はむちゃんも人の事は言えないんじゃない?」


「ん? 何か言った??」


「んん。何もっていうか、名前」


「んー。お祭り部員でいいんじゃない?」


「俺もはむちゃんって呼ぶから問題ないんだけどなんか問題あるっていうか気になるっていうか君付けがツボに入ったっていうか」


「いっぺんに言われるとよく分からないよ。早口だし」


「……じゃ、俺も時々名前で呼ぶから、はむちゃんも時々呼ぼうか?」


「別に呼ばなくても…」


「呼ぶから、時々、呼び合おうな!」


「おぉう?」


 気合の入ったお祭り部員の勢いに押されて、つい頷いちゃったりしたけど…まぁ、いっか。チートといえども同級生。名前で呼んだ所で何かがあるわけじゃないし。







 


「はるちゃん」


「リョウ」


「ん?」


 これから楽しい楽しいお弁当タイムなのになんだろね。

 って思ったら、妙に真面目な委員長と緑化委員。


「「マサを名前で呼んだってホント(本当か)?」」


 あー。先日の近所での一件ね。


「何でかわかんないけどそうなったー。あ、副委員長ー。ご飯食べよーーー」


 今日は副委員長とデザートの日。

 時間を無駄にするわけにはいかないのだ!

 じゃーねー、なんて二人に手を振って、待っててくれてる副委員長に向かってダッシュ。

 むー。この匂いは何かなー。





「なぁ…ヒコ」


「何だ?」


「はるちゃん、俺たちの名前を覚えてると思う??」


「……覚えてないんじゃないか?」


「だよねー…」


「「………」」



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