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本当は最強の姉と最凶なシスコン双子弟妹

鈍い/かっこいい/本当は最強/至高の美貌/でも自分の容姿に興味なし。な姉と、最凶シスコン双子の物語のさわり?的な話しです。




 公爵家アルヴァトラ。

 由緒正しき血筋で、遡れば王族と同じ古代種の血筋を保つ存在であり、王家の懐刀でもある。

 王家デリヴァトスが光であるならば、公爵家アルヴァトラは闇であり、常に対の存在として国を維持する為に尽力を尽くし続ける。

 対、と呼ぶに相応しいのは、その力だけではなく、全てにおいてだった。


 王家で男子が誕生すれば、公爵家では女子が誕生する。

 

 奇妙とも、因縁とも、運命共同体ともいえる間柄の両家には、長男、長女。そして、その下に男女の双子が同じ年で生まれ順調に育っていた。


 公爵令嬢であり、次期当主であるラティアス・L・S・アルヴァトラ。彼女はその才から天才と名高いが、それは裏での活躍であり、表には出さない為に実際の功績とは程遠い呼ばれ方をしていた。

 彼女は、興味のあるものには情熱を傾けるが、それ以外はかなり無関心だった事もその一因かもしれない。

 彼女、ラティアスの興味の惹かれるものは魔法の研究。科学、と呼ばれる異世界の技術についての応用。そして身内の事。この身内には、アルヴァトラ家とデリヴァトス家の事であり、それ以外は彼女の中に留まる事無く流れていくだけ。

 そして、ラティアスの双子の弟妹の華やかさとは対照的に、ラティアスは着飾る事にも華やかな舞踏会にも一切の興味は示さず、そんなラティアスは煩わす事を良しとしない弟妹が、外交面を買って出ている事もソレに拍車をかけたのかもしれない。


 公爵家アルヴァトラの次期当主は、古代種の恩恵を受けているとは到底思えない当主の器すらない地味で目立たない出来損ない。


 そんな噂。

 ただの噂だったそれは、貴族の間では当たり前の事実として浸透し、長女であるラティアスではなく、舞踏会に頻繁に顔を出すアルヴァトラの顔となっている双子に、少しでも恩恵を預かろうと擦り寄る結果となった。それは、今なお続く事実である。



 華やかな双子。

 兄であり長男であるディファーラ。

 妹であり次女であるディフィーナ。

 古代種の恩恵を余す事無く見せつけ、才覚に溢れ、至宝と名高い容姿を誇る二人。


 ただ、彼らは知らなかった。


 擦り寄る貴族たちはこぞって、貴方様こそ次期当主に相応しい。

 あのような出来そこないが長女とは、貴方様の苦労は並々ならぬものでしょう。

 古代種としてあるまじき出来損ない、断罪すべき相手でありましょう。


 そう言って貴族らしい泥沼が相応しい笑みを浮かべ、双子に擦り寄る。


 王家に手を出すには些か分が悪いが、懐刀であるアルヴァトラを篭絡すれば、王家の血筋に取り入る事も不可能ではない。

 そんな思惑を隠す事もせず、今日も双子に群がる貴族たち。


 そう、知らなかったのだ。


 長女であるラティアスを貶める言葉こそ、双子にとっては最大の禁忌だという事に。

 ラティアス至上主義であり、一歩間違えなくても、ラティアスが好き過ぎて平気で一線を踏み越えてしまいそうな双子だという事に。


 彼らは気付いていなかった。


 主な、というより、全ての要因としては、双子が態とソレを見せていなかった所によるだろう。貴族がラティアスの事を貶める言葉を口にしようと、儚い表情を浮かべ困ったように首を傾げる。

 ただそれだけで、彼らは勝手に話しを作り上げるのだ。

 アルヴァトラ家の将来の事で麗しの双子が憂いている、と。


 きっと、心を読むというサトリの力があったのならば、彼らは卒倒していただろう。

 双子の真実の心を耳にした瞬間、全てを手放しているかもしれない。


 それほどに傾倒し、麗しの双子の見目に騙され、彼らは心酔し、そして取り込もうとしていた。


 取り込まれたのは自身か、それとも双子か。


 単純な真実もわからず、貴族たちは声高々に叫ぶ。


 これは、その麗しの双子の為になるのだと正当性を持たせ、彼らは自身の行動が正しいのだと思い込んでいた。



 ラティアスの暗殺。


 古代種の血筋とはいえ、その古代種に泥を塗るような出来損ないのラティアスは生きているべきではない。

 そうだ。これはこの国の将来を、そして双子を憂いての事なのだ。


 道を間違えた事にも、それによって結果が何を齎されるかも気が付かず、秘密裏にラティアスの暗殺計画は練られていく。






 双子のお願いである妙なルール。

 とは言っても、特殊な魔法が掛けられた眼鏡を身につける事に、ラティアス自身抵抗はなかった。これをかけていると便利なのだ。

 そんな姉の性格を良く分かった上で、双子は外に出る時は眼鏡の着用をお願いした。そしてもう一つ、双子のお願いを律儀に、というより、ラティアス自身興味がなかった為守られる事となったルール。

 眼鏡の着用と、大人しい服。

 一歩間違えなくても地味、といえてしまう衣服。

 淡い色ではなく、原色。しかも黒や茶色を主とした、公爵家が身につけるにはパッとしない地味な服。

 生地だけ見れば一流の品。縫製も凝っており、見るものが見ればやんごとなき身分の方が身につけていると一目で分かるのだが、やはり華やかな貴族社会において、ラティアスのこの服は見た目の色合いだけでみすぼらしいと決め付けた。

 ちなみに、この服はラティアス自身が購入したものではない。

 弟妹である双子からの考え抜かれたプレゼントであり、実際の所縫製だけではなく、半端ではない技術が詰め込まれた一品である。

 その筋の人間が見れば、国宝級。そして博物館展示レベルにまで達している衣なのだが、残念な事に目が曇っている貴族たちにそれを見抜ける者は存在していなかった。



 コトリ、と微かな音をたてながら小さじ程の大きさの、色とりどりの宝石が埋め込まれた

銀の棒を布を上へと置く。

 妹のディフィーナの為に杖を作ろうと、魔法石と銀の相性を確認しているのだが、いまいち良いものが見つからず、つい溜息を零してしまう。

 この銀はディフィーナの力を高めてくれるもの。この銀を基盤に、魔法石を決めたいと思うがやはり、定番のものでは全てにおいて台無しだ、と、どうしたものかと頭を悩ませながら、世界の魔法石が載っている書物へと手を伸ばした。

 しかし、この眼鏡は本当に重宝してしまう。この眼鏡のおかげで、目が疲れる事もなく本を読み続け、細かい作業をこれでもかという程する事が出来るのだ。

 流石は自慢の弟妹だ。

 今度はお礼を兼ねてギュッとしようと、変わらぬ表情の奥でそんな事を考える。


「ふむ。やはり、これが気になるな」


 他の国が産地であり、希少価値な魔法石。

 採れる場所が特殊で、難易度が高い為滅多に出回らず、そして価格は天井知らずという一品。

 公爵家であるラティアスといえども、その財を全て投げ出さなくては入手出来ないだろう。買い求めるならば。

 自分で採りにいけば別である。

 産地である隣国は、冒険者や採掘屋や、他の石を求める存在の立ち入りを禁止してはいない。ただ、もし入手できた場合は、その一割を国に収める義務が発生するが、概ね自由なのである。

 例えそれがドラゴンの溜まり場だとしても、入手出来たら一生左団扇の生活が約束されている為、無謀にも挑む者は後を絶たないのだ。


「よし。採りに行こう」


 決まったとばかりにラティアスは立ち上がり、恥じらいも何もなく着ていたスカートを脱いでソファーの上へと放り投げる。

 スカートを着ている時は分からない、綺麗な女性らしい曲線美を惜しむ事無く披露しながら、冒険者の服を慣れた手つきで身につけていく。

 キラリと光るのは、冒険者である証の銀の輪。腰帯に付けられたそれは、大小合わせて7つ。七つ星の冒険者の証で、それは最高ランクであるという事を示す。

 行動力のあり過ぎるラティアスが置手紙一つで、タンスに設置した転移陣に足を踏み入れようとした瞬間、第六感を発揮したのかディファーラが部屋へと飛び込んできた。

「姉上ッッ」

 扉に悲鳴をあげさせながら、ディファーラは間一髪で転送陣を無効する。それより一瞬遅れて転送陣に足をつけたラティアスは不満そうな顔をディファーラに向けるが、あまりに切羽詰った表情をしている為、それを心配そうなものへと変えた。

 ゴーグルの奥に煌く漆黒の瞳。

 見つめられ、息を詰まらせそうになりながらも、ディファーラはわざとらしい咳払いを一つ落とす事により、呼吸を整え真正面からラティアスを見つめ、そして極上の笑みを浮かべ両腕を伸ばす。

「姉上。暫くは、ここに留まってもらえますか? 俺からのお願いです」

 ここ、とはアルヴァトラ家の別邸であり、最近ではラティアスの研究所になりつつある場所である。

「ふむ?」

「フィラの魔法石を採りに行きたいのは分かりますが、暫く、俺の近くにいて下さい。ね、姉上」

 伸ばした両腕でラティアスの右腕を絡めとり、ほぼ同じ目線のラティアスにこれでもかという程甘えた笑みを向ける。

「ふむ。暫く、とはどれぐらいだ?」

 この言葉がラティアスの口から出た瞬間、心の中でガッツポーズを決めた。あくまで、心の中だけである。

「そうですね。風待月カゼマチヅキの10の日まで。これから、20日間の間です」

「風待月の10か。悪くないな。竜たちの祝月になる。ならば今よりは交渉もしやすいだろう」

「ありがとう、姉上」


 にこっと笑う一つ下の弟であるディファーラに、ラティアスも凛々しい笑みを向けながら着ていた冒険者用の服を容赦なく目の前で脱ぎだした。


「――ッ!?!?」


 毎度の事とはいえ、咄嗟に目を逸らす事も出来ずに息を飲み込むディファーラの頭に、黒い布が容赦なく振り下ろされる。


「――ッフィーナッッ」


 もご、と布が口の中に入った気がしないでもないが、容赦なく振り下ろされた鉄槌にディファーラも腕を振り上げ向かい撃つ。だが、それは宙をきり、逆の手を振り上げようとしたがその前に布が取っ払われ、視界が切り替わった事に目を細めた。


「姉様。ファーラもこう見えて一応男児なのですよ。教育上よろしくありませんわ」

 既に着替え終わっているという早業を披露するラティアスに、ディフィーナが真新しい肩掛けを持ちながら声を掛ける。

「……そりゃ、俺は男ですけどね」

 この場合は、何度言っても自覚が足りないラティアスに問題があるんじゃ、と小声で言えば、容赦も何もなくディフィーナに睨まれた。双子の実力は拮抗している為怖くはないが、大切な姉の前で争うような真似はしたくない。

 仕方なくディファーラがひくと、既にそうなる事が分かっていたのかディフィーナは後ろを見ずに、ラティアスの肩に持っていた肩掛けをふわりと置いて合わせていた。

「ふふ。姉様には純白も似合いますわね」

 漆黒も捨てがたいが、今回は純白の糸を使ってレース網で肩掛けを作らせたのだ。繊細なデザイン。流行ではなく、これから流行るもの。

 満足気に微笑むディフィーナに、ラティアスは困ったように笑いながら。

「私より、フィーナの方が似合うだろうに」

 と、自分の肩にかけられていた繊細なレース網を、ディフィーナの肩へとかけてみる。

「ほら、可愛い」

 室内という事もあり、地味に見せる眼鏡をかけていないラティアスがにこり、と惜しむ事無く笑みを披露する。


「――ッ!?!?」


 先ほどディファーラがやったのと同じ息の詰まらせ方をしながら、ディフィーナは右手で宙をきる。

 それは、ディファーラへのバトンタッチ。


「姉上。これは姉上へのおみやげ、です。姉上が身につけて下さい。ね、お願いだから」

 

 ディフィーナから引き継いだディファーラはラティアスにお願いをすると、そうか、と納得してくれたラティアスの手にレース網の肩掛けを渡した。


 

 至宝と名高い美貌を誇る金と銀の色を持つ双子だが、漆黒の色を持つ姉の美貌と凛々しさと強さには足元も及ばないと、ラティアスの真実を隠しながらも甘美な日々にのめり込んでしまう。

 ラティアスの真実の姿を知っているのはある一部の人間だけ。

 優越感であり、そして、ラティアスの真実も見抜けず悪戯に貶め、そして敵になる人間をあぶり出す為に、今日も至高と呼ばれる笑みで貴族たちに微笑みかけた。








  風待月、5の日。


 偶々きれてしまった道具を買い足す為に、ラティアスはマントを羽織り外へと出た。勿論弟妹に頼まれた眼鏡と、地味な色彩の服を着用してである。

 その後ろから、闇に紛れるように数人の足音が響くが、周りの喧騒からか不自然な音に気付く人間は一人もいなかった。


 機会は一度。

 人通りのなくなった裏路地。

 ラティアスが通う魔法道具屋に続く道。

 ラティアスの姿がそこに入った瞬間、影に潜んでいた者たちの姿が光の下へと躍り出た。銀色の輝く刃を抜き放ち、容赦なくラティアスの命を摘み取ろうと地面を蹴りあげる。

 この路地裏は、他の逃げれる通路はない。そこを挟み込むようにし、魔法が施された銀の刃で心臓を一突きにすればいい。

 暗殺者たちは、そう依頼を受けていた。


 だが、目の前には煌く太陽。


「なっっ!?」


「ハッ。ばぁーーーか」


 男の見間違いでなければ、この美貌の主は至高の美貌を持つという双子の片割れ。

 

「俺の姉上に刃を向けようなんて――テメェ等死ねよ」


「――ッッ!?」


 にこやかに淡く微笑むという双子しか知らなかった男は、たったこれだけの事で暗殺者にあるまじき動揺を表に出してしまう。

 それと同時に、男の後ろにドサドサ、と何かが落ちる音が聞こえた。


「姉様の視界を遮ろうとした愚か者ですわ。うふふ。どうしてくれようかしら?」


 そこに現れたのは、銀月の輝きを持つ至高の双子の片割れ。

 

「なっ…何故、貴方様方があんな出来損ないをっ!」


 暗殺者のうちの一人が叫ぶと同時に、その男は頭を貫かれた。


「私のお姉様を出来損ないだなんて――どんな節穴をしているのかしら?」


「俺の姉上を出来損ないだなんて――可哀想な奴等だな」


 にこり、ではなくニヤリと、凶悪な笑みを浮かべた双子が思い思いの武器を構えた瞬間、辺り一帯の気温が氷点下まで下がった気がした。


「けど、姉上が最強である必要はない。何故なら、俺が盾となり姉上を守るからな」


「けれど、姉様が最強である必要はないのですよ。何故? ふふ。私が姉様の矛となりますもの」


 麗しい双子が、この時ばかりは死の神に見えたのだが、それはきっと見間違いではないのだろう。



 実際は地味に装うように双子に細工されているラティアスが最強だとか。


 儚い古代種の血を存分にひいていると思えていた双子が、実は最凶シスコンだとか。


 骨の髄まで身に染みて理解するより先に、記憶を失った暗殺者と追われた貴族たち。


 真実を知らないのは幸か不幸か。


 それは、記憶を失った暗殺者と、秘密裏に追われた貴族たちにはきっと、分からない事。





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