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僕が叶える、願いのカタチ

作者: Na2
掲載日:2026/04/09

これは

善意から始まったセカイの話

正しさも、間違いも、

誰かの願いも、

引き受けられて、

押し付けられて、

それでも

今日もセカイは廻ってる

第一部 『かくして、セカイはツクラレタ』


□□□□□


 歌が聞こえる。

 まだ幼い、澄んだ鈴の音のような美しい声。

 なのに音域はちぐはぐで、メロディは歪んで、

ふにゃふにゃだ。


 ――果たしてこれを歌と称していいのか、

正直なところ悩む。

 それくらい、ひどい鼻歌だった。


 しかし彼女は、ご機嫌な様子である。


 白い床に腰をおろし、

 真っ白なキャンバスに、

 色とりどりのクレヨンで絵を描いていく。


 抜けるような白い肌。

 丸く、ふっくらとした薔薇色の頬。

 流れるような金の髪は、

 糸のように細く、長い。


 キャンバスいっぱいに描いた、

 ゆるくて、まぁるい、たまごの中に、

 女神は迷わず描き込んでいく。


 可愛いお家がいっぱいの村。

 お菓子であふれる大きな街。

 山は、キラキラ輝く。

 森は緑で塗りつぶして、


 まんなかにお花畑を描けば――


 思いつくまま、夢中になって、

 描いて、描いて、

 とにかく描いて――


 やがて。


 「でーきた」


 キャンバスを持ち上げ、

 光にかざす。


 その瞬間、


 描ききった達成感が、胸いっぱいに広がった。

 にんまりと微笑み、

 瞳を輝かせる。


 僅かに、目を細めて。


 幼い女神はそっと、

 セカイを抱きしめた。


□□■■■


 なんで? どうして?

 だいすきなモノ、

 うれしいモノ、

 ステキなモノをつめ込んだのに。


 どうしてみんな、

 こわいカオをしているの?


 最初は、小さな音だった。


 聞いたこともない、

 金属の擦れる――いやな音。


 それがだんだんと大きくなり、

 波紋のように拡がって――


 今では、

 セカイ中から鳴り響いている。


 やだ。

 この音、きらい。


 咄嗟に女神は耳を塞ぐ。

 それでも音は、頭の奥に響いた。


 幼い女神は、どうしたらいいか分からない。


 ふと、

 一点の黒いシミに目が留まる。


 「え?」

 

 慌ててキャンパスに駆け寄った。


 「……なに?

 なんなの、これ」


 黒いシミは、

 じわじわと滲み、増えていく。


 「ワタシ、知らない!?

 こんなの描いてない!?」


□□■■■


第二部 『けれども嘆きは、トドカナイ』


 大事に飾られた落書きを、引きはがす。

 白いクレヨンを手に掴み、

 床に手をついて、


 今なお増え続ける黒いシミの上から、

塗りつぶしていく。


 消えろ

 消えろ

 こんなの知らない

 おぼえもない


 だから、在ってはならない


 消えろ

 消えて、なくなれ――


 ビリィ――


 「……あ」


 強く擦り過ぎて、

 僅かに、裂けてしまった。


 幼い女神は、途方にくれる。

 愛らしい青い瞳から、

 涙があふれた。


 どうしよう。

 どうしよう。


 ぐるぐると混乱する中、

 思わず、指先に触れたのは、

 ふわふわの、ぬいぐるみの手。


 そこにあった、白いうさぎのぬいぐるみ。


 掴んで、

 引き寄せ、

 ぎゅっと顔を埋めた。


 イヤな音は、

 まだ、

 なってる。


 シミは、

 いつのまにか、

 ふえて、

 うごいて、

 セカイが、

 くろく、

 なっていく。


 おまけに、

 ちょっと上の方がやぶけてしまった。


 どうしよう、どうしたら――――。


 ふと、


 女神は、思いついた。


 ああ。

 だったら。


 「つくっちゃえば、いいんだ」


 あは。


 大嫌いな、黒いモノ。

 吸い込んで、

 集めて、

 ポイっと出来る――


 べんりな、オモチャ。


 キレイに、

 おそうじしてくれる


 そんな――オモチャ!?


 とってもステキな思いつきに、

 彼女の笑顔が、花開く。


 「そうと決まったら、材料を集めなきゃ」


 勢いよく立ち上がり、

 ぬいぐるみを、抱え上げた。


 そっと、額を寄せて、

 目を閉じる。


 「ねぇ、

 ワタシのおねがい、

 かなえてくれる?」


 白くて、淡い、

 優しい光が、

 ぬいぐるみの身体を、包み込む。


 ピクリ――


 ぬいぐるみのふわふわの手が、僅かに動き。

 長い耳が、ぴょこんと、揺れ動いた。


□□■■■


 「でーきた」

 彼女は満足そうに言った。

 「……エー」


 紺色の小さなベストに、銀のボタンが二つ。

 首には、彼女が上機嫌で結んだ、

太めの水色のリボン。


 半ば強引に着させられたお仕着せに、

 白いウサギのぬいぐるみ――

 ここでは便宜上、彼と呼ぶ――は、

 項垂れた。


 「……なんだか、へんな感じがするよぉ……」    

 「そう? とってもステキなのに」


 目の前でキャッキャとはしゃぐ彼女に、

彼は軽くため息をついた。


 「……それで、

 キミのおねがいって、なぁに?」

 まだ違和感の残る手足を、動かしながら、

彼は尋ねる。


 すると彼女は、

 彼の青いビー玉のような瞳を覗き込み、

迷いなく言った。


 「あのね。

 これ、消したいの!?」


 ビッと、勢いよく指した先は、

 すでに半分以上真っ黒に染まった、

 一枚のキャンバス。


 彼は、

 ゆっくりと彼女の指先を辿り、それから、

彼女自身へ、ゆっくり視線を戻す。


 「……これって……このキャンバスのこと?」


 「ううん」

 すぐに、首を横に振る。


 「この、

 黒くて、

 ザワザワしたモノ、だけ!?

 消したいの!?」


 だから。


 「ワタシのおねがい、きいてくれるよね?」


 目をキラキラさせて、彼女は、笑った。


 「……どうして、消したいの?」

 「キライだから」

 「どうして、キライなの?」

 「汚いから」


 「······そっか··」


 「ありがとう!?」

 

 彼の呟きに、

 彼女は大喜びで、飛びついた。


 「なんだか、

 ぜーんぶ上手くいく気がするわ!?」


 無邪気にはしゃぐ彼女の笑顔が、

 彼には、妙にまぶしく感じた。


□■■■■


第三部『新たな契約、キザマレテ』


 一緒にいるうちに、彼は、

 気がついてしまった。


 彼女の鼻歌が、

 お世辞にも上手、

 とは言えないということに。


 しかも、

 上機嫌になればなるほど、ひどくなるなんて。


 「……はぁ……」


 そんなこと、

 絶対に言えるわけがないけど――。


 彼女の鼻歌は、今まさに最高潮。

 ご機嫌な様子で、

 オモチャを、組み立てていた。


 やがて――


 「でーきた」


 背中越しに、覗き込む。

 「…………ナニコレ」

 振り向いた彼女が、

 ぷりぷりと、怒り出した。


 「見てわからないの?

 お城だよ。

 お・し・ろー」


 「·····エー···」


 彼女の目の前にあったのは――

 ―――なんというか、

 やたら派手に飾られた、細くて長い、

棒状のモノ。


 ギラギラと輝く、

 太い鉛筆のような、オブジェが一つ。

 その姿を誇らしげに晒している。


 「……お……しろ?」

 

 どう見ても、お城ではない。

 塔のように、見えなくもないが――


 満足気な彼女を見て、

 彼は、素直な感想を口にした。


 「……趣味、悪くない?」

 「なによぉー」


 己のセンスをまったく理解してくれない彼の態度に、

 女神の頬が、ぷくっと膨らんだ。


 それから、

 ちょっと考えて、

 提案する。


 「……ちょっと、いじってみてもいい?」


 ぶすくれた女神は、

 しぶしぶ、といった様子で、

 そのオブジェを、彼に差し出した。


□■■■■


「わぁぁぁ」

「……どう、かな?」


 手を加えられたソレを見て、

 彼女は、意外にも感嘆の声をあげた。


 土台を、しっかりとした重厚なものに変え、

左右対称の、広がりを持たせる。

 細く、上へ伸びるように調整し、

 装飾も、最小限に抑えた。


 「キミの作った塔は、

この中に組み込んだんだけど」


 「……え?」


 「……一番、なくしちゃいけない、

 大切なモノだから……」


――一番大切なモノ――


 言われて、女神は、一瞬きょとんとした。


 そして、

 一番高い塔を、

 まじまじと見つめ、

 目を見開く。


「……あ、ある」


 彼女が作った、中枢。

 装置の、心臓部。


「すごーい。ちゃんとワタシの、残ってるー」


 輝く瞳に、満面の笑み。


 その様子に、

 彼は、

 ほっと、胸をなで下ろした。


 「……で、でも、ギラギラから、キラキラくらいに、抑えたんだけど……」


 キレイに整えられた、

 塔の先端。


 その周りに、ちょこんと付けられた、

 バルコニーに視線を向ける。

 横目でチラリと、彼女の様子を覗き見た。


 しかし、

 彼女は――


 「すごいすごい!?ワタシが作ったところ、

 かわいくなってるー」


 ――と、大興奮。


 しまいには、

 はしゃぎすぎて、

 彼に、抱きつき、

 バランスを崩して、

 二人一緒に、倒れ込む。


 「ありがとう」


 ふんわりと、彼女の言葉が降ってきた。

 彼の心が、ふっと、軽くなった。


「なんだかとっても、

 ぜーんぶ、

 うまくいく気がするわ!?」


 彼の上で、

 彼女が、

 いたずらっぽく、笑った。


 「うん。きっと――うまくいくさ」


 眩しさに目を細めて、彼も優しく微笑んだ。


□■■■■

 

第四部『やっと掴んだ、キボウノヒカリ』


 それから二人はせっせと動いた。


 きっと良くなる。

 

 そう信じて。


 ある日彼は言った。


 「名前をつけて」と。


 

 みんながボクに言う。

 「名前で呼んで」と。

 

 ボクは応える。

 するとみんなの顔が明るくなる。


 ぱっと開いた、花のように。

 

 次に、

 みんながボクに聞く。


 「アナタのお名前は?」


 ―――だけど、

 ボクは困ったように首をかしげる。


 すると、

 なぜかみんなの顔が萎むんだ―――。

 

「名前がないと、呼ぶ時に困るから」

 

 みんなが遠慮がちに前置きして――


 それから。


 たくさんの「名前」をもらった。

 

「ウサギサン」「ウサギクン」「ピョンキチ」「ピョンタ」「シロー」「シロチャン」···


 くれたみんなはバラバラなのに、

 いくつか重複していたのが、

 なんだかおかしかった。


 そうして、彼は気がついた。


 例え仮の「名前」であっても。

 もらった時は、少しでも嬉しいと感じている事に――。


 なら。


 大好きな、あの子につけてもらえたら―――


 彼はすぐさま駆け出した。

 ワクワクする気持ちが溢れて止まらない。


 早くあの子に会いたくて、

 彼は夢中で駆けていった。


□□□■■


 あの子なら、どんな名前をくれるだろう。


 今までもらった中にあるかな?

 それとも全くの予想外?


 知らぬ間に頬が緩み、

くふくふと小さく笑みをこぼす。


 あ。


 先に見えた、小さな背中。

 彼が今一番会いたいあの子。


 勢いそのままに、彼は彼女に言った。


 「ねぇ、ボクに名前をつけて!?」


 突然現れた彼に、彼女はきょとんとする。


 「·····な···まえ?」

 「うん。今までいっぱいもらったけど、

 でもボクは···キミから――」


 「名前なんて、ただの記号でしょ?」


 「--------------え?」


 ピタリ。


 一瞬で、固まった。


 しかし彼女は、その変化には一切気が付かず、無邪気に彼の元へ駆け寄ってきた。


 「それより見て見て。

ワタシタチのおねがいを叶えてくれるお部屋、

作ったんだよ」


 はしゃぎながら、

 嬉しそうに彼女は言う。


 彼女が最初に作った塔――

今はお城の柱になってる――の部分に、

両開きの扉が取り付けられている。


 内部は小さな四角い空間。

 控えめながらも、

 キラキラな飾りつけがされていた。


 「····あのね、ちょっとギラギラ、少なくしてみたんだよ?」

 もじもじと照れくさそうに、彼女は続けた。


 反応をうかがうように、

チラチラと彼を見てくる。


「····っ」

 

 彼は小さな口を何度かパクパクさせて――

ぐっと引き結ぶ。


 「···そう」


 ポツリと呟く。


 「···うん。よくできてる、と、おもうよ」


 道端の小さな花が咲くような、笑顔。


 しかし、

 なんだか泣いているようにも見えた。

 

□■■■■


第五部『それでもセカイはツヅイテク』


 けれど女神の想いとは、裏腹に。


 セカイは真っ黒、止まらない。


 汚れが、消える。

 汚れが、戻る。

 汚れが、消える。

 汚れが、増える。


 その繰り返し。

 ちっともキレイになりやしない。


 もう見たくなくて、

 絵は、分厚い布を被せてしまった。


 くぐもった音が漏れ出てくるが、

 それには聞こえないふりをした。


 もう何度、繰り返したんだろう。

 途方にくれていたある日、

 彼女がポツリと呟いた。


 「·····もっと、

 いっぱい、

 吸い込めるように、

 しなくちゃ――」


 そうして彼女は考える。


 どうしたらもっと、

 たくさん吸い込めるだろう。


 どうしたらもっと、

 たくさん集められるかな?


 どうしたら、

 どうすれば――


 ――――。

 ――。

 ―。

 

□□□■■■


 あれからどのくらいの時が経ったんだろう。


 あの日以来、

 彼の中で何かが、

 しんしんと振り続いている。


 最初は気にも止めていなかった。


 けれど、


 彼が、知る度、きく度、話す度に。


 それが、

 消えない雪となって彼の心の中に、

 静かに確実に―――降り積もっていく。


 -----とっても、不快な気分だ。


□□□■■■


 「え?名前?」


 心の奥に、

 少しずつ、

 振り積もっていく不快なモノの正体に思い当たって。


 彼は、

 抱えきれなくなった思いを、

 彼女にこぼした。


 けれど。


 「名前なんて、ただの記号でしょ?」


 ―――返されたコトバは、前とおんなじ。


「·····そう、なんだけど··」


 両手を胸の前でもじもじと動かす。


 彼女は一つ、ため息をつくと、

 いつもとどこか違う様子の、

 彼の隣に座り込んだ。


「どうしたの?どこか痛いの?」


 心配そうに覗きこむ。


 しかし、

 彼は上手く彼女に言えなくて、口ごもる。

 しまいには黙り込んでしまった。


 「·····名前、か」


 ふむ、と考え女神が呟く。


 彼は顔をパっと上げた。


 彼女は腕を組んで、さらに深く考えこむ。


 「···確か··、

 人間がいっちばん最初にもらうプレゼント、     なのよね?」

 「え?あ、うん!」


 僅かな期待が、うまれる。

 

 拙い知識を掘り起こすように、

 彼女が眉間にしわをよせて、

 一つ一つ並べていく。


「えっと、どんな人になってほしいか〜とか、

どういう人であってほしいか〜とか?

とにかくいろいろな意味を詰め込んだプレゼント···みたいな?」


「そ、そう!?すっごく大事なもので···だから···」


「ああ、ならアナタがワタシに名前をつけてよ」


 彼の顔が、

 ほころびかけた蕾のように、

 そこで止まる。


 パチンと軽快に両手を叩いて、

 彼女は立ち上がった。


「アナタがワタシをどう思っているのか、

 どんな願いを込めるのか、

 すっごくすっごく知りたいわ」


 突然、くるくると目の前で踊りだした。

 上機嫌に、鼻歌も飛び出す。


 困惑する彼に、

 にこやかに彼女は手を差し出した。


「ねぇ、

 アナタはワタシにどんな名前をくださるの?」


 まるでおとぎ話のお姫様のようなその仕草。


 眩くて、

 キラキラしていて、

 我が儘で自分勝手な女神様(オヒメサマ)


 それでも嫌いになれない――大好きな子。


 ボクがキミにどんな願いを託すかだって?


 それをキミがボクに聞くの?


 叶えるどころか、

 

 ちっとも聞く気もないくせに――。


 ―――彼は、そっと目を閉じる。

 ふーっと息を吐く。

 目を開いて彼女を見つめ、考える。


 たぶん、

 おそらく、

 きっと彼女に彼の声は届かない。


 言葉も願いも、祈りすら

 彼女を通り越して、

 スルリと通り過ぎていく。


 だったら――。


 「······ヴィー」

 「····ヴィー?」

 小首をかしげて彼女が呟く。


 「うん」


 まっすぐに、彼女の目を見て言った。


 「ヴィー。

 ボクはキミを、そう呼びたい。

 ·····ダメ、かな?」


 溶けない願いを――キミにあげる。


 ヴィー、ヴィー、ヴィー?

 彼女はくるくると表情を変えながら呟く。


 ややあと手を打って。


 「うん、気にいったわ」


 満面の笑顔で受け取る彼女に、

 彼は静かに微笑んだ。


 それは、彼の積み重ねた経験で得た知識。


 どこか知らないセカイの

 どこか知らないクニの言葉。


 その意味は―――

       ずっと笑顔で···


fin

 



ここまでお読みいただきありがとうございます。



※なおこのセカイからの転職は、出来ないもよう。


※「トワイライト・ベアラー」は予定通り更新していきます。

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