トライアングルレッスン・M
高台にある展望台。冬の夜の冷えた空気に、白い吐息が溶けて消える。
「遅いぞ悠衣子」
ムッくんは腰に手を当てふん、と鼻を鳴らして、わたしは慌てて駆け寄った。
「観測会には寒くない?」
「バーカ。だからよく見えるんだよ」
ムッくんは、傍らの望遠鏡をぽん、と叩いて笑う。
今日は、ムッくんに月の観測会に誘われた。カナちゃんは同行出来ないらしく、ムッくん一人を夜の公園に行かせるのも忍びなくて、こうして寒空の中やって来たのだ。
「ほら、そこ座れよ」
顎をしゃくって指すのはリクライニングチェア。座る、というより寝そべるようにそこにかけると、その上に望遠鏡が移動する。
カチャカチャと望遠鏡を組み上げるムッくんの瞳は、夜なのにキラキラときらめいて、なめらかな頬は赤く紅潮している。
接眼レンズを覗いて調整をすると、
「よし。ほら、見てみろ」
ほぼ真上を向いた望遠鏡。そのレンズを覗き込むと、冬の夜空の頂天で、純白の満月が輝いていた。
「月は綺麗ですか?」
耳元でささやく声に振り向くと、隣にはムッくんの顔があって、
「う、うん。月が綺麗ーー」
『ちょーっと待ったぁーーーーっ!』
響いた声に身を起こすと、草むらから飛び出すタクミとヒロシ。
「タクミ、ヒロシ、どうしてここに?」
「カナちゃんに聞いた」
「あぁ、ちゃあ~んと聞いたぜ」
タクミとヒロシは冷たい瞳でムッくんを見下ろし、ムッくんもチッ、と舌を鳴らす。
「邪魔しやがって」
「なぁ~にが邪魔だ、このマセガキが!」
「カナちゃんに夏目漱石の話を聞いたからといって、これは安直だな」
「違うね。月が綺麗ですね、と言ったのは、悠衣子姉ちゃんの方だっ!」
「言ってねぇっ!」
「言っていないな」
「それはお前らが邪魔したからだろうがっ!」
ぎゃーぎゃーわめく三人に、わたしは首を傾げながら、
「どうしたの? ちゃんと月は、綺麗だよ」
そう言うわたしに、なぜか三人は、それぞれ頬を赤くした。
冬の月を観測するには、月の高さに合わせて望遠鏡をほぼ垂直にしないと観測できないそうです。まぁちゃんと調べたのはそれくらいなので間違いがあるかも。




