王宮を抜け出した王子様は舞踏会へ向かう馬車を横目に、ひっそりと姿をくらませた────
元日に年賀状を取りにマンションの階段を下っていたまでは覚えている。
── 気がついたら煌びやかな部屋の中。
ずたぼろのギフトボックスを抱えていた。
中に入っていたオルゴールの音色を聴いた瞬間、記憶がフラッシュバックして前世を思い出した。
メッセージカードをつまみ、宛名を読む。俺はヒュッと息を飲んだ。
鏡の前へ移動してから自身の姿を確認する。
「……どう見ても……顔がいいですやん」
思わずエセ関西弁が飛び出すくらい、今の俺と前世の俺の情報が混ざり合って、瞬時に適応していた。
流石ラスボスやるくらいのハイスペック持ち。脳の処理速度が違う。
『魔王ゼノ・モルガン』。
人間に嫌気がさして人間自体を辞めちゃう作中きっての不憫枠。
全てを理解し、このゲームのオープニング曲を奏で続けるオルゴールを叩き割り、王宮を飛び出した。
◇◇
木枯らし吹きすさぶ寒々しい夜道。舞踏会へ向かう馬車を横目に、目的地へと歩みを進める。
自転車のタイヤみたいな看板をかかげているだとか、ドアベルの軽やかな高音が風鈴みたいだとか、前世の記憶が色濃く思考に影響している事に、内心苦笑いを浮かべる。
先程まで自身の赤い瞳が悪魔みたいで嫌いだったけれど、前世を思い出した事で客観的にモノを見られるようになった。ただのイケメン王子やん。
お目当ての店に入ってすぐ、俺はバーカウンターの席に腰掛け、グラマラスなマダムに微笑んだ。
「お兄さん、ご注文は?」
「雨宿りしに来たんだ。これでいくらかお願いしたい。ああ、あと── そうだな。ハチミツたっぷりのパンケーキに、それに合いそうな酒も」
「ふふふっ。気前がいいのね。準備するから少し待ってて」
合い言葉まじりに大粒の宝石をカウンターへ置く。
出されたモノを食べ終わる頃に奥の部屋へ通された。
名だたる武器に、防具に、マジックアイテムたち。
それらと肩を並べ、ひときわ異彩を放つ一角に俺は足を向けた。
現代的なサバイバルナイフなんて可愛いもんで、── ぶっ壊れ性能のロケットランチャーなどを片っ端から手に取る。
こんな美男子に生んでくれた両親に感謝している。
ただ、その俺を裏で虐め抜いていた事に関しては、容赦しないと決めた。
◇◇
のちに「敵に回したら魔王より厄介な男」として、ゼノ王子の名が知れ渡ることとなる。
後世には「賢王ゼノ・モルガン」として語り継がれ、絶大な国民人気を誇り、味方につけたら勇者よりも頼もしいとは、彼のためにある言葉だった。
年賀状/オルゴール/合い言葉/自転車/雨宿り/ギフト/ホットケーキ/風鈴/サバイバル/木枯らし/舞踏会
計11単語を使用。




