6
プシュー
2つ目の駅で、ドアが開く。
いちごが外に出て手を振った。
「じゃあまた明日ね。バイバイ」
「気をつけてね」
聡介がそう言いながら手を振る。
斗基は何も言わずに、手を振りほほ笑んだ。
プシュー
ドアが閉まり、電車は走り出す。
いちごの後ろ姿が小さくなっていく。それを斗基は目で追った。
ちょうど見えなくなった時に聡介がタイミングを見計らったかのように
「俺が前もって話した意味が分かっただろう?」
ガタン ゴトン
ドアに2人は寄りかかるようにして話をしていた。
直に揺れが伝わってくる。
「あぁ。」
斗基は聡介を見ず、窓から夜の景色を眺めていた。
まばらに光る家の電気が、星のように見えた。
「何が似てるってわけじゃねぇー・・・笑い方と・・」
「名前。それだけなんだけどさ。でも何故か思い出すんだよ。だろ?」
「俺とお前の気持ちはシンクロしてるのか?」
「えぇー。斗基と同じなんて嫌なんだけど」
「どういう意味だ、コラ!」
星たちから視線を外して聡介を見る。
聡介は、やっぱり真剣な心配そうな顔をしていた。
「春はついてねぇよ、やっぱ」
斗基は独り言のように呟く。
そしてまた星たちに視線を戻す。
すると、いくつかの星たちが消えていく。
「ああやって家の明かりが消えていくのを見ると怖いな」
「何が?」
言われて聡介も窓に目をやる。
「命が消えるのを見てるみたいで」
聡介は苦笑する。
「桜からは卒業したんだね。」
「は?」
「去年の今頃なら、電車から見える桜を見ているのが怖いって言ってたよ」
「・・・・そうだったな。慣れてきたのかな」
「何に?」
ガタン ゴトン
斗基がゆっくり聡介を見る。
「桜良の死に」
聡介は初めこそ何も答えなかったが、3つ目の駅に止まり揺れがおさまった時に
「じゃあ、桜の木をじっと見つめられる?苺のケーキを食べられる?」
2人の間に降りる人間が通り過ぎる。
聡介はさっきと変って、温厚な話し方ではなくいら立った口調だった。
プシュー
ドアが閉まり、また電車は走り出す。
「聡介・・・」
「出来るか?」
聡介の口調は変わらない。
「最近は桜を見ても苦しくないよ。でも見ていられないよ・・・散るのは見たくない」
斗基の覇気のない声に聡介の口調が戻る。
「・・・いちごちゃんと仲良くなれるといいな」
「嫌味かよ」
斗基は苦笑しながら、聡介の胸にこぶしを置いた。