5
「斗基!」
長年聞きなれた声が斗基を呼びとめた。
「1人で帰れないの?寂しがり屋だな」
「はぁー・・・・。言いたいことがたくさんあるんだよ・・・っていちごちゃん!」
聡介がため息混じりで話をしようとした時に、大学の正門で立ち止まっていたため後からやって来たいちごが追いついてしまっていた。
「2人は今帰り?」
「うん。今日はバイトがないから、もう帰るよ」
聡介が焦りながら会話を取り持つ。
「帰りは電車?」
「そうだよ。聡介君も?」
「“聡介”でいいよ。俺たちは電車だよ。ほかのメンバーは?」
「まだ飲んでるみたい。」
「そっか~・・・」
親睦会という理由にサークル自体は、飲み会が始まっていた。
斗基と聡介は早々と出てきてしまい、いちごも出てきたというわけ。
「じゃあ一緒に帰ろうか!!女の子の夜道は危険だし」
聡介が斗基の様子を伺いながら話を進める。
当の本人は知っては知らずか
「んじゃ行きますか」
いちごにほほ笑みかけて、歩き出した。
聡介は胸をなでおろして、さりげなく真ん中に入り、2人の距離をあけた。
「いちごちゃんは上り?下り?」
「下りだよ!2人は?」
「一緒。何個目の駅で降りるの?」
「2つめ」
「近いな!俺らは4つめだっけかなぁ~斗基?」
「何年通ってんだよ。」
斗基は聡介の頭をぽかんと叩く。
「フフ。もしかして2人は一緒に住んでるの?」
いちごは2人のやり取りを見て笑いを抑えられなかった。
兄思いの優しい弟・聡介。自由気ままな兄・斗基。まるで兄弟のように彼女の眼には映っていた。
「まさか。俺の方が近いもん、アパート。聡介は駅から原付。駅から遠いと不便だねぇ~」
「うっるせぇよ。一緒に住めば良かったんだよ」
「誰が男と暮らすかよ!やんなっちゃうね、この人。俺がいないと駄目なんだって」
「アハハハ、仲良しさんだね」
いちごはますます面白くなって大声で笑い始めた。
無邪気に笑ういちごを見て、斗基は目を細めた。
―笑い方が似ているんだ。
駅に咲いていた桜の花びらが舞う。
淡いピンクはいちごの笑顔と良く似合っていた。
そこだけくり抜いて絵にしてもおかしくないほどに。