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♪~~
うるさい・・
静寂とした部屋に電子音が鳴り響く。
斗基は枕元にあった携帯を取る。
「ハイ・・・」
『おはよ~!どうせ寝坊すると思って』
「・・・うん・・・」
『言ってるそばから寝てるんじゃねぇよ。起きろよ。じゃあ、大学近くの河原来いよ?』
「・・・うん・・・」
消え入る声と共に電源ボタンを押す。
聡介のテンション高い声にやられて仕方なく起きる。
「もう行くの?」
起き上ったと同時に声を掛けられて驚いて辺りを見回すと、隣には汰基が寝転がっていた。
綺麗に布団にもぐりこんだまま。
「何で隣に寝てるんだよー・・・・」
「だってソファー痛いんだもん」
「なら帰れよー・・・うわぁー・・・最悪の目覚め」
「おはよ。とっきー★」
―弟にそんなウインクされても全然嬉しくない。
はぁっと深いため息をついて斗基はベッドから降りた。
するとまた携帯電話の電子音が鳴り響く。
どうせまた聡介からだろうと思い、無視して寝室を出ようとすると汰基が
「いちご?女?」
「え?」
振り返ると斗基の携帯電話を手に取り出ようとしている汰基。
斗基は先ほどの寝起きとは思えないほどのスピードで携帯電話を奪った。
「ハイ!!」
『もしもし?おはよう♪』
いちごの高い声が何だかこそばゆい。
「あぁ・・・おはよう」
『聡介がね、休みの日は起きないからって言ってたからモーニングコール。起きてた?』
「起こされたよ。聡介からもかかってきて・・・。今度から二重に起こされるのか」
『アハハハ。いい目覚ましじゃない♪よかったね』
「・・・まぁいいって思おうか。ありがとう、わざわざ」
『ううん。じゃあまたね。』
「あーい。」
電話を切って、思わず画面を見てしまう。
―まさかいちごから電話がかかってくるとは思わなかったなぁー・・・。
何とも言えない温かい気持ちがふつふつと湧きあがる。
そんな気持ちに浸っていた斗基に雰囲気をぶち壊すような間抜けな声が遮る。
「ストロベリーってだぁれ?」
「・・・・」
汰基が布団から半分だけ顔を出しているが、目でニヤニヤしているのが判断出来る。
「会ったこともない人にあだ名をつけるなって言ってるだろ」
「いいじゃない。いちごって本名?」
「うん。」
「苗字じゃなくて?」
「名前だよ。」
「ふーん・・・好きなの?」
「違うよ」
そう言って携帯電話をベッドに放り投げる。
「ねぇとっきー・・・」
今度こそ寝室を出ようとしたのに・・・仕方なく振り返る。
「どうして忘れたいことを忘れさせてくれないんだろうね、人生って。そう思わない?」
斗基は無表情のまま話し出す。
「俺は忘れるのが嫌だよ。」
「典型的なA型だね。根に持つんだから・・・。忘れた方がいいって事だってあるんだよ?でも神様は、とっきーを楽にしてくれないみたいだけど」
そして今までにないほど低い冷たい声で言い放つ。
「神様なんていねぇーよ」
汰基は何も言い返さず寝室から出る斗基を見ていた。
―いつだって神様ってやつは俺を見放してる。
そんなの分かってる。