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翌日、斗基は大学で空いていた教室に座って窓を見ていた。
時間は16時前。
取っている講義は全て終わった。
今日こそはサークルに顔を出さなければならない。
きっと今日を逃してしまったら、もう2度と行けないと斗基は予感していたからだ。
大学にはハナミヅキの花が咲いていた。
ここの教室だけは、桜が見えない位置にある。
斗基は何か落ち着きたい時には、いつもここに来ていた。
しばらくすると、数名の学生が入ってきた。
女子と確認すると斗基はとびきりの笑顔を見せて出て行った。
その後に女子が騒いだのを知ってか知らずか。
意を決してサークルの部屋を開ける。
見慣れた顔もいれば、まだ新入生らしい初々しい顔もある。
「斗基~~!!」
入ってくるなり左腕を掴まれる。
化粧の派手な女の子・・・栗橋 美香が悲しそうに斗基を見上げる。
「最近いないくて寂しかったんだよ?」
「バイトが忙しくてさ。俺だって来たかったよ」
「昨日が新入生と初対面だったんだよぉ~?」
「じゃあ俺のこと知らないんだ。さっそく挨拶してこなくちゃ」
美香の腕をスッとすり抜け、部長・・・白石 奈央子の所へと向かう。
「斗基!やっと来たわね」
「久々っす。俺、自己紹介したいんだけど」
「遅れてきて印象付けようって作戦?」
「そんな作戦までは考えてないよ。本当にバイトが忙しかったんですって」
斗基の弁解に奈央子はほほ笑む。
「じゃーそろそろ今日のメンバーは揃ったかな?お?今日こそフルメンバーかしら。おーいみんな集合!!」
そのやりとりを見ていた聡介が1番にやって来て
「奈央子さんは斗基に甘いよ。ってか女はみんな斗基に甘いよ」
斗基の方を小突く。
小突き返して、そそくさと奈央子の隣へと足を運ぶ。
サークルメンバーは、それぞれパイプ椅子を広げて座って行く。
まだざわつく中、斗基が話し出す。
「昨日は顔出せなかったんですがー・・・八坂斗基です。3年です。脚本とかもちょこっとやります。基本的にはヒーロー役です。」
笑いが起きる。
その笑いが好意的だと捉えて斗基は満足だった。
サークルメンバーを改めて見つめる。
その中でも斗基は、新しい顔をなるべく探さないようにしていた。
ある1人を見つけ出さないために。
「女の子たちは、この顔に騙されないようにね」
奈央子が掛けている眼鏡を直しながら言った。
「そういう余計なことは言わないでください!」
また笑いが起きる。
斗基はいるだけで、雰囲気が明るくなるムードメーカーだった。
加えてルックスが良ければ周りがほっておくわけがない。
このサークル内はもちろん、大学内でも人気がある。
“女好き・軽い”というレッテルを貼られているので、本気にはなられにくいが。
それを斗基自信もよく分かっているし、それで良かった。
斗基は誰かに本気で愛されることが今、1番辛いのだ。
自分でもうまく自分を愛せないのに、誰かを愛せるわけもなければ、愛に応えることも出来ないのだ。
だからこそ、その1人を見つけるのが怖かった。
愛をもう1度知りたくなんてないから。