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大福を食べ終えると休憩もせずに


「じゃあ、この刷り終わった脚本を閉じてちょーだい」


奈央子が言い、げんなりしたような顔で他の6人は作業を始めた。


「あ、俺ちょっと便所~」


聡介がむくっと立ち上がり、部屋を出て行った。


「こんなん終わるの?」

「文句言わないでやりなさい。」

「はぁあ~い」


同じ作業の繰り返しで斗基は投げ出す寸前だった。

その光景を横目に見ながら、いちごは立ち上がる。


「いちご?」


斗基が不思議そうにいちごの顔を見上げる。


「私もトイレ」


ボソッと言い残して、部屋を後にした。




*******




「あらあら?追いかけなくてよろしいの?彦星様?」

「・・・・誰が彦星っすか」

「誰ってあなたがよ」


奈央子が斗基を見ず、ホチキスで紙の束を止めながら聞いた。


「だってアレはどう見たって、聡介の後を追ったようにしか見えなくってよ?」

「・・・・トイレに行きたいっつーんだからそうなんじゃないんすか」

「織姫様が取られても遅いわよ?」


眼鏡の奥の目が斗基を伺う。

斗基は顔色を変えず、相変わらず面倒くさそうにホチキスを動かした。






********





「うわぁああ!!」


聡介が用を足し出ると、いちごが待ち構えていたようにしゃがんでいた。


「どうしたの?」

「待ち伏せ」


いたずらっこのように笑ういちご。

聡介は、その笑顔とは逆に固い表情をしていた。


「何か聞きたいことでも?」

「察しがいいなぁ・・・」

「聞きたい事がなければ、俺の所なんて来ないでしょ?」

「聡介って意外と嫌味な人ねぇ」

「よく言われる」


少し笑ってからいちごは真面目な顔をして尋ねた。


「ねぇ、斗基は中学時代どんな子だったの?」




しばしの沈黙。

聡介は笑みを浮かべながら答えた。


「ものすごくクールで、ものすごく人見知りが激しくて、ものすごく寂しがり屋だったよ」


いちごは瞬きも忘れ聡介を見つめる。


「寂しがり屋は直ってないかな?だけど、他はもうないよね。斗基は演技部に入って変わったんだ」

「どうして?」

「人が変わるなんて、人からの影響以外ないよ」

「聡介の影響?」


聡介は首を横に振る。


「俺には・・・斗基を支えることは出来ても、変えることは出来ないから」



―どうして?


その言葉をいちごは言えなかった。

きっと言葉に出来るような理由ではないと直感で思ったからだ。


「今の斗基は、ものすごく寂しがり屋で、ものすごく未練たらしくて、ものすごく・・・・」


その目は、いちごが見た聡介の中で1番悲しい目だった。


「ものすごく自分が嫌いなんだ」

「・・・・自分が嫌い?斗基が?」

「いちごちゃんなら分かるはずだよ」


そう言い残し、聡介はみんながいる部室へと足を運んだ。






1人になって聡介の言葉を思い返す。




『人が変わるなんて人の影響以外ないよ』




―聡介じゃないなら誰の影響で?

 たとえ聞いたとしても、聡介は笑って答えてくれないだろう。




『斗基を支える事はできても、変える事は出来ないから』




―聡介が変える事が出来ないなら、誰も出来ないよ。

 あんなに斗基が信用しているのは聡介だけ。




『ものすごく寂しがり屋で、ものすごく未練たらしくて、』




―寂しがり屋ならまだ分かる気がする。

 未練たらしいって?何をそんなに後悔してるの?



いろんな言葉を聞いていろんな事を考えたいちご。

その中でも1番印象強いのは・・・・




『ものすごく、ものすごく自分の事が嫌いなんだ』




―斗基が自分を嫌い?

 何で?

 どうして自分を嫌いになるの?

 自分を嫌ったままじゃ・・・誰も・・・誰も好きになんかなれないのに。

 誰も・・・・






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