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      13

奈央子の声で各々に立ち上がりパイプ椅子を教室の隅に寄せ、帰宅の準備を始めた。

いちごは準備などせず、奈央子の所へと寄っていく。


「私、手伝います!」


奈央子が眼鏡を直しながら笑った。


「いいの?バイトは?」

「今日は休みです」

「あら、そう。じゃあそうしてもらおう♪勇ちゃん、先生に許可よろしくー」


奈央子の隣にいた野木が片手を挙げて廊下へ出ていく。

一方奈央子は、椅子に座って脚本を読みなおしていた。

いちごはどうしていいかわからず、椅子を広げて座る。

すると、斗基と聡介がいちごの隣に椅子を並べた。

斗基が隣に座ったのでいちごの心臓が飛び跳ねる。


「帰ったんじゃないの?」


さも驚いた振りをして尋ねる。


「便所行ってた~」

「俺はここにいたよ?気付かないのね、いちごちゃん・・・」


聡介が涙を拭うように目をこする。


「違うって!えっと、えっとねーー」

「はっきり言ってやれよ。存在薄くてわかんねぇーって」

「おいコラ、隅っこにいたから分からなくたって仕方ねぇだろ」

「ハハハ。2人は最高だねえ」


いちごが大笑いをしていると奈央子が


「3人が最高なのよ。いちごが加わって更に面白さが倍増」


そう言ったかと思うと次の瞬間にはもう脚本に目を落としていた。


「私・・・面白い?」


斗基と聡介は同時に


「「うん」」


即答していちごはまた笑った。

それと同時に、♪♪♪~

電子音が鳴り響く。


「ハイ。OK!ちょっと待ってて。まだ読んでるから」


奈央子がジーンズのポケットから携帯電話を取り出してすばやく出て、すばやく切った。


「野木さんから?」

「うん、コピー機OKだってさ」

「わざわざ聞きに行ってくれたんだから、お礼の一言でもすればいいのに」


斗基は、印刷室の前で1人で待ちぼうけしている野木を想像する。

奈央子は相変わらず脚本に目を通していた。


「今はこっちが大変なのよ。それに放置されるの好きなのよ、あの人」

「野木さん哀れ・・・」

「そのうち振られても知らないですよー」

「んぁ?!聡介?何か言った?」


聡介の言葉にだけ反応して、目を離して睨む。


「えっ、いや。何も。どうぞ続けてください」


フンッと鼻であしらって、また脚本に目をやる。

いちごはその会話のやり取りにパァッと目を輝かせた。

そして斗基と聡介に小声で


「奈央子さんと野木さんって・・・」

「うん、付き合ってるよ。あんな順応な彼氏・・・奈央子さんにいいように使われるっていうのになぁ」

「まぁ野木さんも奈央子さんだけには冷たくないからな。俺たちには・・・まぁどっちもどっちだよ」


斗基と聡介が代わる代わる応える。

あくまでも小声で。

使えるものは使う。自分に逆らう者はいらない主義の奈央子とクールで常に現実的な正論を言う野木。

最初は敵対していた2人だが、いつの間にか恋心が芽生えて今ではうまい具合におさまっている。


「サークル内で恋愛なんて青春だね!!」


いちごがまだ目を輝かせて言った・・・より叫んだ。


「じゃあ手っ取り早く2人のどっちかにしちゃいなさいよ」


いちごの大声に驚く様子もなくサラっと奈央子が言ってのけた。

それには3人とも一時停止した。



いちごの場合。


―え?嘘?何で奈央子さんまで・・・そんな事・・。これ以上私を混乱させないでよ!!



聡介の場合。

―うわー洒落になんねぇ。ってたか明らかに俺はラブが発生する役じゃねぇし。2人とも黙ってるよ。誰か笑えよ・・・。




「俺の加えたところ読みました?」


―斗基ナイス!!


いちごと聡介は心の中でガッツポーズをした。


「今、読み終わった。」

「どうっすか?」

「珍しく自分の台詞は直さなかったんだ?」

「まぁ今回は女の子メインって事だし」

「ふーん?」


目を細めて斗基を見る奈央子。

斗基はそれに気付かない振りをして笑顔を作った。


「ココ、泣かせるわねぇー・・・いいと思うわ。」


言いながら奈央子は立ち上がった。


「まだ思い出にする勇気には私にはない。でもそんな勇気私はいらない。思い出っていうのは夢と同じくらい空想で出来ているものだから」


斗基は自分で書いた台詞でも関わらず初めて聞いたように感じた。

そして納得する。


―思い出なんて忘れるための前段階だ。


斗基の表情を読み取るように聡介がその場を切り上げる。


「じゃあ行きましょうか!野木さん待ってますよ」

「まぁーそうねぇー。ね、いい台詞でしょう?」


いちごに確認するように尋ねる奈央子。


「はい!さすが斗基。切ないね。でも私には理解できないんだよねぇ・・・。何でだろう」

「え?」


斗基がすぐに反応する。


「まだ思い出にする勇気がないっていうのは過去にしたくないって事でしょ。過去にしなくちゃ前に進めないのに。・・・あ!ごめん。これから話が進んでいくんだもんね」


いちごが申し訳なさそうに斗基を見る。

初めて会った、椅子をどける事に気付かなかった時と同じように。


「いや、いちごちゃんの言う通りだと思うよ。まぁこの主人公は過去にとらわれ過ぎって設定でもあるわけだしな。な、斗基?」


聡介が真剣な顔で斗基を見る。

それに加えて奈央子が伺うように斗基を見る。


「うん。これから話も進んでいくから・・・。いいと思うよそのいちごの考え。脚本家も向いてるんじゃない?」


黙っていた斗基は、突然ヘラっと笑って奈央子から脚本を奪う。


「野木さん待ってるから行こう?」


その表情に場は明るさを取り戻した。

斗基の心情とは裏腹に。




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