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「だ~れが笑い方変ですって?」
斗基が廊下を出て歩いていると、階段で弥生が座っていた。
弥生を見上げながら斗基は苦笑した。
「聞いていたの?」
「いちごに襲いかかったらすぐに行こうと思って」
「ハハ。やめてくれよ。あんな純粋無防備な少女を襲うほど飢えていません」
「好きな人でも出来たの?」
反射的に首を横に振る。
「じゃあ何で飢えてないのよ」
「弥生は直球勝負だなぁー・・・。聡介そっくり」
「私は聡介ほど優しくないけどね」
「十分優しいよ。」
「そうやっていくつの女を落としてきたことか」
「嫌味な所も似てるな。お前実は・・・聡介の生き別れた双子?いや、んなわけねぇな。そしたら聡介は卯月さんの弟・・・いい男になってるはずだ」
「聡介が聞いてたら喧嘩になるわよ。」
「大丈夫~!あいつ俺には特に優しいから」
自信たっぷりのピースに弥生は、あっけにとられた。
「聡介が好きな人か・・」
ため息混じりに弥生が言う。
「やめてよ。ゲイ説が出て困ってるんだから」
「じゃあ女の子が好きなの?」
「まぁ、女好きで通ってますから」
「嘘ばっかり。」
弥生はそう言いながら階段を下る。
斗基の隣へと足を運ぶ。
「本気で好きになられたら、引く癖に」
「核心をついてくるのも聡介みてぇだ」
「いちごは?」
「え?」
いきなり名前を出されてどもる斗基。
「何でいちご?」
「近づきたいくせに近づこうとしないのね。そんな斗基初めて見た。」
「よく見てるね。」
「だから、言ったでしょう?」
「?」
「心配なんだって。」
斗基は、口を動かそうとしたが苦笑して階段を上って行った。
弥生はそれをただ見つめ、いちごのいる教室へと向かう。
―近づきすぎて、引き戻せなくなったときが怖いんだよ
いちごの笑顔を思い出しながら、1段1段上って行った。




