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斗基は通常の勤務時間にしてほしいとバイト先に連絡すると、その日から連続でシフトを入れられてしまった。



―ふざけんなよ。ここは人件費を削減しすぎ・・・。



何日も働き詰めで疲れているからだとは裏腹に、客が来ると勝手に反応する笑顔。

斗基は営業向きなため、オーナーもついついシフトに入れてしまうのだろう。



今日何人目の客だろうか。

カランコローン♪

鈴の音がして反射的に営業スマイルに切り替える。


「いらっしゃいませ。何名さまで・・・」


言葉がと笑顔が固まる。

なぜなら、目の前にいたのは弥生と知らない男。

多分、斗基より少し年上であろうか。


「ここでバイトしてたんだ」

「・・・・あぁ。2名様でよろしいですか?

「えぇ」



―男が出来たから、最近サークルに顔出さなかったのか。

 大学で見たことねぇ顔だから・・・違う大学か?それとも社会人?



違う客を接客していてもどうしても、2人に目が行ってしまう。

男は、斗基とは違うタイプだった。

見た目からして真面目そうな好青年。

誠実さが顔からにじみ出ている。

弥生も無理して合わせている様子もなく、自然に笑っていて楽しそうに見える。

誰が見ても2人はお似合いの恋人同士だ。



「お待たせしました。シーザーサラダでございます。」


他の客に接するのと変わらず、ほほ笑む斗基。

シーザーサラダの皿を置くと同時に男が席を立つ。


「ちょっと電話かかってきた。ごめん」


不意打ちに2人きりになって妙な沈黙が訪れる。

お辞儀をして立ち去ろうとすると


「斗基。」

「え?」


弥生が呼び止め、振り返る。


「彼氏じゃないのよ。お友達」

「仲よさそうだったけど?」

「告白されてるの。返事は決まってるけど」

「・・・・そっか。」

「バイト何時に上がるの?」


その問いかけに思わず外に出て行った男を目で探す。


「あの人は?」

「何時なの?」


斗基の問いかけには答えない。


「・・・11時」


諦めたかのように呟く。


「じゃあ待ってる。話がしたいの」

「分かったよ。」


話がしたいのは斗基も同じだ。







*******





11時がすぎて、裏口を開けると弥生が待ち構えていたように座っていた。


「寒かったっしょ~?」

「ううん。もう5月だし」

「悪いね。駅まで送るよ」

「どうも」


2人はゆっくりと歩き出した。

もう桜並木の桜は散っていた。

緑の葉が生い茂り始めている。

その緑が夜の闇に良く映えている。桜は年中人を飽きさせない植物だ。


「あの人は?」

「帰ってもらった」

「よかったの?」

「うん。ここでちゃんと話さないとあの人へちゃんと向かえないと思って」

「好きなんだ?」

「・・・・うん。元々はお姉ちゃんの同級生だから嫌だったんだけどね」


弥生の顔が曇る。

それを斗基は見逃さなかった。


「前から気になっていたんだ・・・どうしてそんなに卯月さんにこだわる?」

「昔から好きなものはぜーんぶお姉ちゃんに取られちゃってたからかな・・・。綺麗で人気者で・・・全部妬んでた。」


ショートカットの髪を弥生が掻きあげる。


「なのに同じ大学来ちゃって・・・余計に劣等感はますばかり。私は私って開き直った所に好きな人がお姉ちゃんの映画で相手役に選ばれて、仲良くなっちゃって」


少し笑って話す弥生につられて斗基も苦笑する。


「あの時はごめんね。もうどうしようもなくて・・・」

「・・・・俺の方こそごめん」

「斗基は悪くないって!優しいね、相変わらず・・・女の子には」

「嫌味か」

「フフ。そういう所が好きだったんだけど」


照れもせず言えるのは、心にはもう決めた人がいるからだろう。


「あの人は、私が好きだって言ってくれる。お姉ちゃんの事知ってるのに私が好きだって。あの人といるとすごく自然体でいられる。私の事なんてなぁーんでもお見通しだし」

「そりゃ幸せじゃないか」

「どうも。だから斗基の事が好きだったってバレちゃった。あの人が引っかかる人なんだろう?きちんと話してからそれから俺の所に来てって。だから、何時に終わるか聞いたのよ。」

「幸せ者だな、弥生は」

「斗基は幸せ?」

「え?」


ほほ笑んでいた表情が嘘のように真剣な顔つきへと変わる。


「時々、すごく悲しそうな顔をするでしょ?心配だったんだ」

「・・・・・そんなことないよ」

「そう言われると思っていたから今まで言わなかった。」


弥生の表情は硬かった。


「その顔を笑顔にしたかったなぁー。私の力で」


初夏の風が頬をなでる。

斗基の心も同時になでるようであった。


「幸せになってね」

「それ、俺が言う言葉じゃねぇの?」

「いいの、いいの。じゃココで」


駅を目前にして2人は立ち止まった。


「普通に話せてよかった」

「私も」

「じゃあ、気をつけて」

「ありがとう」


弥生はほほ笑んで、駅へと足を進めた。

小さくなっていく後ろ姿を眺めていて、突然斗基は叫んだ。


「俺はお前の方がタイプだったよ!!!」


初めは振り返らずに立ち止まったが、やがてゆっくりと振り返り弥生も負け地と叫んだ。


「今頃遅いわよ!!!!!」


2人は笑って手を振った。



手を振りながら斗基は思った。

弥生といると居心地が良かったのは、聡介と似ているところがあったからだ、と。

斗基が言いたくないことは、聞かずに見守ってくれる。

そんな2人に斗基は深く感謝をした。



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