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時計の針が6時を回り、いちごはバイトだと言って部屋を出た。
玄関へ向かって歩いていると、美香が前から歩いてきた。
気付いたいちごは、すぐに声を掛ける。
「あ、おつか・・・」
それを遮るように、美香は睨む。
「弥生の二の舞になっても知らないよ」
そう呟いて通り過ぎた。
あまり美香とは親しく話したことはなくても、同じサークルの仲間として仲良くなりたったいちごはショックを隠せなかった。
睨まれたこと、そして・・・弥生の二の舞。
何の事だかはすぐに理解した。
普段なら人の気持ちにはどうしても疎いはずなのに。
美香の気持ちはすぐに理解できた。
しかし、自分の気持ちは自分が1番理解しているはずなのに・・・何故こんなにもショックを受けているのか分からなかった。
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「明日からしばらくサークル休みね。ストーリー練ってくるから。来ていない人には伝えておいてちょうだい」
奈央子がそう言って、皆解散した。
帰っている途中に斗基がため息を漏らす。
「しばらくってどれくらいだよ」
「あんなにサークル面倒くさがっていたのに」
聡介は呆れた様子だ。
「そうだった?暇だから明日からバイト普通通りにしてもらおうかな。しばらくの間。」
「暇なら俺が遊びに行くよ!」
「だから、お前は俺の恋人か?」
「まぁ冗談として。・・・・やる気の理由はいちごちゃん?」
斗基が目を開く。
「どうなの?」
「・・・・別にそういうわけじゃ」
「否定するなら俺は別に、何も言わないよ。でも」
「でも?」
「桜良ちゃんと重ねているだけは駄目だよ。斗基自身・・・いやそれよりもいちごちゃんを傷つける事になるよ。」
斗基は苦笑した。
聡介は、穏やかな口調ではあったが目は真剣だった。
「分かってるから・・・大丈夫」
「それならいいけど」
それ以上、聡介は何も言えなくなってしまった。
言いたくても、斗基の切ない遠くを見る目を見たら・・・何も言えなかったのだ。
―斗基はずっと後悔してる。
やっちゃんを受け止められなかったことを。
いいや、それよりも・・・
桜良ちゃんを護れなかったことを。