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いちごが来るとすぐにパイプ椅子を並べるメンバー達。
「じゃあ、さっそく始めます!」
奈央子の掛け声であっという間に上映会が始まる。
今日の斗基の隣は聡介だった。
いちごは、斗基達の右斜め前の方で、誠と蓮田に囲まれていた。
―あいつらさっそく・・。
「面白くなさそうな顔してる」
聡介が、斗基の心を読み取るように呟く。
「は?!もう始まるんだから静かにしてろよ!!」
図星をつかれたように取り乱す斗基。
その姿を温かい目で聡介は見ていた。
画面は、ステージを映し出す。
まだ幕は下がったままで、隅の方に“ロミオとジュリエット”と紙に書いてある。
しばらくすると幕が上がった。
真っ暗なステージにスポットライトが当たる。
そこには、ジュリエット風な格好をしたいちごが立っていた。
そして駆け寄るロミオ。一見男性だが、線の細さを見ると女性だろう。
【あぁ、ロミオ・・・どうしてあなたはロミオなの?】
―なんだ、これ?
ジュリエットの有名なセリフ。
誰もが1度は聞いたことがあるフレーズでもある。
斗基も、もちろん聞いた事があるし、本を読んだ事があるのでストーリーもセリフも知っていた。
いちごは次々とセリフを口にしていく。
どれも斗基にとっては、何度も読み返してセリフもほとんど頭に入っていうるはずなのに・・・
次の場面やセリフが出てこない。
先を考える余裕がないのだ。
―こんな切ないジュリエット見たことがない。
いちごが演じるジュリエットは、本当にロミオが愛しいと伝わってくる。
どこが感じられる切なさが胸を打つ。
―ステージに立った時の存在感・・・これは・・・
「桜良を見てるみたいだ。」
意識もなく漏らしていた。
聡介がその言葉を聞いて驚いて斗基を見たが、気付く様子はない。
ただひたすら、画面に見入っていた。
『斗基・・・どうしてあなたは斗基なの?』
『何の真似だよ』
『サクラリエット」
『はぁ??』
『ジュリエットの気持ちが今なら分かる気がする』
『え?』
―お前はいつも勝手だ。
俺の心をかき乱す。
『人を愛するって事を知ったからよ・・・ねぇ斗基?』
ぼぉっと見入っているとあっという間に画面は消える。
すぐに奈央子が拍手をした。
それにつられて、一斉に拍手が起こる。
いちごは照れくさそうに立って、お辞儀をした。
「いやぁ、すごいわ!いちご!感動した!」
奈央子は半分泣きながらいちごの手を掴んだ。
「ヒロインは決まったも同然だわ」
誠がにこにこといちごを見上げる。
「ちょっと!気が早いよぉ」
赤い顔をしながら誠をたたく振りをした。
「どんな映画にしようかわくわくしてきた!11月まであと約半年!頑張りましょう!!!」
オー!!!
奈央子の掲げた拳にみんなも拳を挙げる。
斗基だけが、出遅れて拳を掲げたのだった。