【第4章】この国はまだ戦国だ
【前書き】「名前」という呪い、あるいは祝福
この物語は、“名前”に翻弄された三人の男の話です。
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。
歴史の教科書で知らぬ者はいない戦国の三英傑――
……ではなく、現代にそのままの名前で生まれてしまった三人の、ちょっと情けなくて、だけどやたらと燃える話です。
大人になると、名前というものはアイデンティティになり、呪いにもなります。
誰かと同じ名前だった、というだけで笑われたり、期待されたり、勝手にドラマを背負わされたり。
そしてそれに抗うように、あるいは開き直るように、人は“物語”を始めるのかもしれません。
この物語は、SNSから始まり、牛丼屋を経て、空港で捕まり、内閣総理大臣になり、アプリを開発し、そして世界を“ちょっとだけ”変える話です。
アホみたいにバカバカしいけれど、本人たちはいたって本気です。
あなたがもし、今の世界にちょっとだけ“退屈”を感じているなら。
あるいは、“名ばかりの肩書き”にうんざりしているなら。
少しだけ、彼らと一緒に戦国の風を感じてみてください。
だって――
“信長”って名前、燃やさずにはいられないでしょ?
【第4章】この国はまだ戦国だ
「信じられない……これはドッキリだろ?」
秀吉が封筒を何度も裏返しては確認している。
「“内閣府・特別歴史諮問機関”って、存在するのか……?」
家康がスマホで調べたが、検索結果はゼロだった。
代わりに出てきたのは、信じがたいキーワード。
『国家公認YouTuber・次世代政治訓練プログラム』
信長は眉をひそめた。
「国家公認……YouTuber……?」
⸻
翌日、3人は指定された住所へと向かった。
六本木の高層ビル――その最上階、エレベーターの扉が開くと、そこは一面の和室だった。
畳、掛け軸、金屏風。そして、正座するスーツの集団。
「よくぞ参られた。我らが選びし、“新・三英傑”よ」
迎えたのは、官房長官を名乗る中年の男だった。
「この国は、いま混迷の極みにある。
政治は信を失い、若者は選挙に行かず、SNSに真実を求める始末。
そこで政府は考えた。“もはや、ガチで歴史の英雄を立て直すしかない”と」
「そんなアホな……!」
「だが君たちのチャンネル、“戦国チャンネル”は登録者数100万を超え、
“令和の天下布武”というタグがトレンドに上がった。
もはや君たちは、戦国時代より影響力を持っている」
信長は、わずかに息を呑んだ。
「……で、俺たちに何をさせたい?」
男は笑った。
「次の内閣総理大臣候補に、立ってもらいたいのです」
⸻
選挙ポスターには、3人の写真とキャッチフレーズが踊った。
【織田信長】「燃やすぞ、政治。」
【豊臣秀吉】「金と愛とノリで天下を取る」
【徳川家康】「わたしに任せて、寝ていてください。」
テレビではコメンテーターが首をひねり、
ネットでは「戦国政党爆誕か?」と騒ぎが拡がった。
⸻
選挙戦が始まった。
信長は演説でブチ上げた。
「減税? 社会保障? 違うだろう!
俺がやりたいのは“戦国だよ”!
日本よ、もう一度、火をつけようぜ!」
拍手喝采。
秀吉はTikTokに“米一粒で好感度爆上がりチャレンジ”を投稿し、バズった。
家康はというと、
「皆さん、寝ててください。私が全部、根回しします」
と一言だけ言って、老若男女の支持を集めていた。
⸻
投票日当日。
三人は静かに集まった。
「なぁ信長。これってさ、最初の動機ってなんだったっけ」
「……母さんを殺した世界に、復讐したかった」
「今は?」
「今は……この国、なんか面白くできそうな気がしてる」
家康が頷いた。
「それでいい。乱世ってのは、つくるもんだ」
⸻
結果発表。
開票率99%時点――
【新総理大臣:織田信長(無所属・戦国会)】
信長は空を見上げて言った。
「母さん、見てるか。俺、令和の天下、取っちまったよ」
(つづく)
もう一つ小説有るんで、面白かったら読んでみてください。中高生には少し難しいかも知れませんが。笑い路線も増えたので読みやすくなると思います。
1作目も、改編しました。恋愛あり、アクション有りの壮大なSF神話です。目指せファイブスター!目指せナウシカ!
此方の戦国武将同姓同名は最初からお笑い路線です。
読んでくれてありがとうございました。