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その異世界転生執行官、実は替え玉です。  作者: 黄帯
■第1章 異世界転生執行官の替え玉になった経緯
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1ー3 異世界転生執行官との対面、そして監禁


 机や椅子が設置された小型の裁判所のような場所に到着した。


 奥に法廷の裁判長席を思わせるような大きな机がある。

 その少し手前の左右に、奥のものに比べて小ぶりの机と椅子が向かい合わせに設置されている。


 三つの机に囲まれた場所に麻耶は案内された。

 裁判所なら証言台がありそうな位置だ。

 麻耶の左側の席にシャロンが、右側の席にジェラルドが腰を下ろした。


 奥の裁判長席らしき場所には、最初から座っている者がいた。

 あれがおそらく、異世界転生執行官――。


 麻耶の体を緊張が包んだ。


 これまでに見てきたライトノベルやアニメでは、神様や女神様、天使様などが異世界転生を取り仕切っていた。

 異世界転生執行官とは、とてつもなく神々しい存在ではないだろうか。

 エルフや竜人を従えてもいる。


 少し見上げる形だ。死角に台があり、その上の椅子に座っているようだ。

 見えている上半身には、司祭風のローブをまとっている。

 人型のようだが、ローブのせいで体型や性別は良く分からない。


 帽子とマスクで顔もほとんどが隠れている。

 その隙間から目が見えた。

 麻耶のことを見ていると分かり、一層緊張した。


「私は異世界転生執行官である」


 奥の席の人物は、予想通り異世界転生執行官だった。


「異世界転生を取り仕切り、執行する係を担っている者である」


 言葉に合わせて、口元のマスクが動くのが見えた。

 作り物のような声は中性的で、やはり男女の判別はつかなかった。


「上田麻耶に間違いないな?」


「は、はい。間違いありません」


「よろしい。自宅のベランダで倒れたことは覚えているか?」


「はい」


「君はそこで、命を落とした」


 転生したと聞いた時点でそうだという気はしていたものの、はっきり言われると胸が痛んだ。


「死因は、貧血で倒れたのちの脱水症状だ」


 貧血に脱水症状。

 思い返すと。空手の先生に注意されていたことだった。

 稽古の後、家に招かられてビールと枝豆をごちそうになったときだ。


 お酒は利尿作用があるから水も飲まないと脱水症状になる、ちゃんと食事を取らないと貧血を起こすと、体調について気遣ってもらっていた。


 それなのに、そのあとは氷を少し口に入れた程度だった。

 先生の忠告さえ聞いていれば、こんなことには――。


 だが食事がおろそかになったのは、派遣先の上司が原因だ。

 貧血の引き金となった踵蹴りも、上司をイメージして打ち込んでいた。


 上司のせいで死んでしまったようなものではないだろうか。

 やるせない思いに駆られた。


「生命活動を停止した体から抜け出た思念体(しねんたい)だけが、ここへと辿り着いた」


 異世界転生の言葉で我に返った。


「思念体、ですか?」


「いわゆる心や魂が、体から抜け出して存在している状態を、我らは思念体と呼んでいる。日本の言葉だと、幽霊と言ったほうが分かり易いかもしれないが」


 ジェラルドの言う通りだとすれば――。


「今の私は、幽霊?」


「違うわよ。もう肉体に入っているもの。でも私が異世界転生の間に来たとき、あなたの思念体は高い位置に浮かんでいたわ」


 シャロンの言ったことには覚えがある。


「そういえば思念体の状態で、床に映し出されているホログラムみたいなものが、質感がある体に変わって行くのを見ていたような。その体に入った気もします」


「ええ。私も見ていたわ」


「では、今の私の体って――」


「この異世界転生の間で新たに作られたもの。亡くなる少し前の肉体、それに衣服を再現生成し、そこに思念体を格納した状態」


 ジェラルドの説明を聞いて、自分の体を少し手で探ってみた。


 再現生成というだけあって違和感はない。

 衣服もTシャツと短パン、それに木製のサンダルで、ベランダに出たときのものだ。


「亡くなる少し前の再現だから、貧血を起こしている上に脱水症状の一歩手前ぐらいの状態だったの。だから簡単な回復魔法で血行を良くして、水魔法で出したお水を飲んでもらったのよ」


「そうだったんですね。ありがとうございました」


 シャロンは微笑んだが、すぐに怪訝そうな表情を見せた。


「もっと正常な状態の体を生成すれば良さそうなものだけど」


 そう呟いて異世界転生執行官の方を向いた。

 ジェラルドも、釈然としない様子でそちらを見ている。


 異世界転生執行官が軽く咳払いをした。


「準備は整った。君は異世界で新たな人生を歩むことになる」


 異世界での新たな人生――。


「あの、元の世界に戻してはもらえないのでしょうか?」


「それは叶わない。異世界転生者になったことを受け入れよ」


 無情な言葉に愕然としていると、異世界転生執行官が立ち上がった。

 そして三つの机に囲まれた場所へと入ってきた。


 机で隠れていたローブの下側は長く、靴のすぐ上にまで届いていた。

 ゆったりとした袖の先からは両手が出ている。


 左手首にだけ、細い銀色の腕輪を着けているのが見えた。

 赤い宝石がいくつも散りばめられているようだ。


「執行官殿、どうなされた?」


「何か?」


 ジェラルドとシャロンが、左右の席から問い掛けた。


 そういえば、異世界転生執行はどうして移動したのだろう。


 異世界転生執行官は質問に応えることなく、右手を肩の高さに挙げた。


 上に向けた手の平から、白い粒子が漂い始めた。

 白い粒子の中から赤い光線が立ち昇り、上空五メートルあたりで水平に広がった。


 頭上に五メートル四方ほどの赤い光の正方形が出現している。


 その正方形の四つの辺からも、赤い光の面が、まるでシャッターが閉まるように、下に向かって伸びてきた。


 だんだんと三方向の机が見えなくなっていく。

 そして赤い光が、白い床にまで到達した。


 立方体を被せたような赤い光に囲まれてしまった。


 閉じ込められたのだと、直感した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ありゃ? 閉じ込められましたね。 赤い光の箱に梱包されたというか。 これはどうなってしまうんでしょう??
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