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2ー15 家族


 麻耶はサンドラと一緒に、台所の流しに立って皿を洗っていた。


「水道が使えるのは便利ですよね」


「そうね。私が生まれた村には無かったわ」


「じゃあ、井戸ですか?」


「近くにきれいな川があったの。水はそこに汲みにいったわ」


「サンドラさんがですか?」


「ああ、もう!」


 サンドラが手を止めた。


「いい加減敬語やめなさいよ。私だけが失礼なしゃべり方をしているみたいじゃない」


 実際そうだという気がするが。


「あなたのほうが年上でしょ? 普通にしゃべればいいわよ。名前も呼び捨てでいいわ」


「あ、はい。じゃなくて、うん。サンドラ」


「それでいいのよ」


 皿洗いを再開した。


「その村で暮らしたのは7歳までだったから、重い水汲みはやらなかったわね」


 そうだ。サンドラは幼くしてこの屋敷に引き取られた。

 サンドラの実の両親が流行り病で亡くなってしまったために。

 麻耶は言葉に詰まった。


「もう10年近く前のことよ」


 サンドラは淡々と言った。


「麻耶こそどうなの? 可哀そうだけど、もう家族には会えないわよ」


「いいの。元々一人暮らしだったし」


 サンドラは少し妙に感じたようだったが、追及はしてこなかった。


 台所の片づけが済むと、お風呂に入れてさせてもらった。


 だいぶさっぱりした。


 ネグリジェを貸してもらったが、おそらくナタリーのものだろう。


「執行官の寝ていたベッドは嫌でしょ? ナタリー母様がメイドだった頃に使っていた部屋があるわ」


 二階のその部屋に案内してもらった。


「じゃあ、私もお風呂に入って寝るから。お休みなさい」


「色々ありがとうね。お休みなさい」


 サンドラが出て行くと、麻耶はベッドに入った。


 目を閉じると、この異世界にやってきた今日の色々なことが瞼の裏に浮かんできた。


 そして、家族のことも。


 麻耶は二番目の子供だった。

 唯奈(ゆいな)という三歳上の姉がいた。


 麻耶とは正反対の姉だった。

 勉強もスポーツもできて、容姿も魅力的で社交的。

 みんなに好かれる人気者だった。


 両親も明らかに麻耶に対して以上の愛情を注いでいた。

 そして何かにつけて、優秀な唯奈と比較して麻耶のことをなじった。

 その度に萎縮して自信がなくなり、より気弱になっていった気がする。


 親から褒められた記憶はほとんど無い。

 物をねだったりしたときも、大抵はお姉ちゃんぐらい頑張ったらねと拒否された。

 唯奈のような結果を出すことなど不可能で、努力したところで無駄だと思うようになり、素質以上に劣化していった。


 ただ両親と違って、唯奈は麻耶に優しかった。

 唯奈は多読で、古典文学からSF、ライトノベルに至るまで両親に買い与えられた本を手広く読んでいたが、麻耶が頼めば何でも貸してくれた。


 麻耶は異世界に転生してスローライフを送るライトノベルに夢中になった。

 自分も気楽に過ごせる世界に転生したいと本気で願っていた。

 やがてその本は、形見のようになった。


 唯奈は大学院生だったときに亡くなってしまった。

 趣味の山岳クライミング中の落下事故死だった。


 麻耶もだが、両親はより悲嘆に暮れた。

 そして落ち着いた頃から、事あるたびに生前の唯奈を見習えと言うようになった。

 息が詰まりそうだった。


 当時の麻耶はIT系専門学校の二年生で、就職活動中だった。

 小さな派遣会社の面接で、遠い県の派遣先で働いてくれるなら採用すると言われたのは渡りに船だった。

 専門学校を卒業すると、両親から逃げるように実家を離れた。


 両親は、麻耶が亡くなったことを知って悲しんでくれるだろうか。

 もし悲しんでくれたとしても、唯奈のときほどではないだろう。


 唯奈――。


 麻耶に優しかったただ一人の家族。


 ふと、つい最近顔を見たような気がした。

 そんなはずはないのに――。


 いや。

 もしかして、この世界に界転生しているということは無いだろうか。

 亡くなったのは四年近く前で、受入転生者の一覧のリストよりもさらに早い時期だ。


 名前が無くても転生していないとは言い切れない。

 もしまた会えるなら、こんなに嬉しいことはない。


 唯奈の顔を見たのはどこでだろう。

 ソラナダの街ですれ違ったのだろうか。

 違う気がする。

 どうしても思い出せない。


 麻耶は眠りに落ちていった。


(第2章 異世界 了)

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