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2ー10 日本人専用窓口


 ミッシェルの叔父の体に転生者の思念体が乗り移っていた。

 そして異世界転生執行官を務めるようになった。


 麻耶も、それは間違いないと思い始めていた。

 だが、分からないことがある。


「異世界転生執行官を交代するにしても、どうして後任を転生者に。この世界の誰かに任せれば、暮らしに慣れるのを待つ必要もなかったのでは――」


「前任者がどういう人物かまるで分からない以上、推測するしかないが、日本人の転生者は適任かと。麻耶殿自身が良い例」


 ジェラルドの言ったことに、首を傾げた。


「そうでしょうか?」


「まず、その空中ディスプレイの操作は、この世界の住人にはなかなか困難」


「空中ディスプレイで料理動画を見るとか、最初は訳が分からなかったわ」


「私も。このイヤリングにも空中ディスプレイを表示していくつか設定を行う機能があるのだけど、全然使いこなせなかったわ」


 サンドラとシャロンがうなずいている。


「異世界転生執行官には、日常的にコンピューターに触れている文明の世界からの転生者のほうが向いている」


「かもしれないですね」


 中世ヨーロッパくらいの文明の人が相手の場合、コンピューターの使い方を教えることさえ一苦労だろう。


「頭脳派のジェラルド君は最初から使いこなせていたわよね? 教えてもらえて助かったわ」


「いやいや」


 ジェラルドは例外なのだろう。

 頭脳派というのは伊達ではないようだ。


「それに日本では、異世界転生にまつわる物語が流行しているとか?」


「はい」


 アニメ、コミック、ライトノベル。

 異世界転生ものは、何年も前からずっとブームが続いている。


「それゆえに、異世界転生が何なのかの理解も早い」


「言われてみれば。もし異世界転生執行官を交代するなら、日本人は適任転生者を後任に選ぶのは合理的と言えるのかも」


「もう一つ理由が。受入転生者一覧を、ざっと見て頂きたい」


 麻耶は言われた通り一覧をスライドさせながら、最新のNo.055、楠千景までを見ているうちに、あることに気付いた。


「名前が非表示の人も4、5人いましたが、それ以外はみんな日本人の名前?」


「その通り」


「一体、どうして」


「まず、先ほど話したように日本では異世界転生の物語が流行している。それに伴い、異世界転生したいと思って亡くなり、あちらの世界の呼び寄せの灯火に招かれて転生する日本人が増加していると思われる」


「あ、はい」


 麻耶自身もそうだった。

 異世界転生したいと思ったのはライトノベルの影響だ。


「それにしても、ほぼ全員が日本人というのは――。他の国や別の世界の人が転生してきてもおかしくないのに」


「そういった人々は、他の異世界転生の間で受け入れているのかもしれない」


「異世界転生の間が他にも? 同じ世界に?」


「異世界転生の間は港に該当する場所。各世界という広大な陸地に、複数あったとしても不思議ではない」


「仮にそうだとすれば、あの異世界転生の間は」


「日本人受入用の、専用窓口」


「日本人専用? たしかに受入転生者は日本人だけみたいですが」


「その裏付けが、月日の一致。異世界転生の間が設置されているこの地域は、年号こそ違うものの月日は日本と一致している」


 麻耶は自分の情報を見てみた。


『No /氏名     /転生開始年月日  /転生完了年月日  』

『054/上田麻耶   /67年08月08日/67年08月08日』


「確かに。日本も8月8日でした」


「以前に日本人の転生者から聞いた話だと、時刻も大体一致しているらしいわよ」


「シャロン殿の言う通りで、偶然にしては出来過ぎている。日本と時間が一致しているこの地域に、日本人受入用の異世界転生の間が設置された可能性は、極めて高い」


 麻耶もそうだという気がしてきた。


「なるほど。日本人専用なら、異世界転生執行官の後任に日本人を選ぶのも納得です」


「前任の執行官も日本人だったのか。あるいは日本人の転生者が増えたためにあの異世界転生を増設して、執行官を増員したのかもしれない」


 麻耶はうなずきながら、受入転生者一覧から自分の行をタップしてみた。

 自分の転生の情報の詳細を見ておきたかったからだ。


『合言葉を口に出して言ってください』


「あれ?」


『合言葉が違います』


 そう表示されて、詳細は開けなかった。


「私の詳細を表示させるにも、合言葉が必要?」


「麻耶の情報なら私も異世界転生の間で見ようとしたけど、駄目だだったわ。だから年齢を聞いたのよ。合言葉は分からないわ」


 サンドラが呟いた。


「それにしても、ロックは生体認証でもパスワード入力でも無くて、合言葉?」


「何せ肉体は再現生成が可能。パスワード入力も、キーボード設定などが煩雑になりかねないという判断かと」


 ジェラルドの言う通りかもしれない。


「合言葉のせいで開けないのは、麻耶だけじゃないわよ。名前まで隠されている転生者は、もちろん見られなくなっているわ」


 サンドラの言葉で、試しに麻耶の一人前の受入転生者の行をタップしてみた。


『No /氏名     /転生開始年月日  /転生完了年月日  』

『053/―――――――/67年08月08日/67年08月08日』


『合言葉を口に出して言ってください』


「本当ですね」


『合言葉が違います』


 また表示に失敗した。


「このロックを掛けたのは、あの異世界転生執行官なんですよね?」


「他にいないでしょ」


「でも、なぜ転生者の情報にロックを――」


 麻耶は言い掛けて口を止めた。

 サンドラが苦虫をかみ潰したような顔をしていることに気付いたからだ


「転生者に悪事を働いたのを隠すためよ。叔父さんの体を使って真面目に異世界転生の仕事をするなら、まだ許せたわ。だけどあいつは――」


 サンドラが拳でテーブルを叩いた。

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