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ある秋の日

来ていただいてありがとうございます。



マーロの木が紅葉していてとても綺麗だわ。マーロの葉の紅葉は大体赤に近い橙色なの。秋の日に透けてキラキラの木漏れ日がいい感じだわ。


ある日の授業終わりに裏庭で木精さん達とまったりしていたら、面会人が来ていると言われた。学園の応接室へ行くと、アレックスだった。優しそうな女性の事務員の人に

「あ、間違いです」

と言って回れ右をしようとしたら、

「待てよ!エルシェ!!」

と呼び止められた。

「え?私?」

アマンダに会いに来たのではないの?私は仕方なくソファに座った。

「何の御用かしら?」

「とぼけないでもらいたい!君はアマンダの妨害をしてるらしいな!」

「…………はい?」

「アマンダの勉強の邪魔をして試験の成績を落としたり、学習発表の資料を独占したり、高位貴族のご令嬢を味方につけて、彼女に嫌がらせをしているそうじゃないか!!」


「してないわ」

「は?」

「私は何もしてないわ」

「何だと?」

「アマンダには話しかけないように最初に学園で会った時に言われてるから。私からは殆ど話しかけてないもの」

アマンダの方から突っかかってくることはあるけれど。


「…………」

「大体私は家を出されているから、より良い就職に向けて勉強に忙しいの。アマンダにかまってる暇はないわ」

「じゃあ、アマンダが嘘を言ってるっていうのか?!君は僕とアマンダの仲に嫉妬してアマンダに意地悪をしてるんだろう!」


「…………」

なんだそれ?

「あなたと私が言葉を交わさなくなってずいぶん経つけれど、私が貴方のことを好きだったことは過去に一度たりとも無いわ。そもそも婚約者だって紹介されてから殆ど間を置くことなく無視されるようになったんだもの」

「なっ」

アレックスの顔が紅潮した。プライドを傷つけちゃったかしら……。でも本当の事だから仕方ないわよね。

「だから嫉妬するなんてことは無いの。それに勉強の邪魔なんてしてる暇は本当に無いのよ。私はあなたの言う平凡な成績を取るのにも必死なのよ」


「あのう」

ここで、応接室にいた事務員さんが口を挟んできた。年頃の男女を密室に二人きりにすることは出来ないので立ち会ってくれていたのだ。もちろん部屋のドアは開けたまま。

「このクローバー学園はと王都でもとてもレベルの高い学園です。エルシェ・エバーグリーンさんは最初こそ成績は振るわなかったですが、とても努力されて今の成績になっておられます。とても他の方の妨害をする時間は無いと思いますよ?そんなに余裕のあるカリキュラムではありませんので。アマンダさんもこれから学園に慣れてもっともっと努力をしていかれれば、良い成績が取れるようになるかもしれません」

「しかしっ」

「とにかく、この学園には他の方を邪魔して追い落とそうとなさるような程度の低い方はいらっしゃいません。万が一そんなことがあれば、分かった時点で即退学ですよ?」

「……分かりました」

アレックスは渋々ながら納得したようだった。私はホッとして事務員さんに笑いかけた。事務員さんもにっこりと笑ってくれた。助かっちゃった。後でお礼を言っておこう。


「だが、高位貴族のご令嬢と一緒にアマンダを苛めているというのはどうなんだ?」


「それもあり得ないな。そもそも彼女はそんなことをするような存在ではない」


ユースティン様が応接室の入り口に立っていた。

「ユースティン様?」

「ユースティン殿下!どうしてこちらに……?」

なんでユースティン様がここに?私と事務員さんは慌てて立ち上がった。


「えっと、貴方は……」

座ったまま戸惑ってるアレックス。

「この方はアベンチュリン王国の王子様。ユースティン殿下よ」

「え?!」

私が説明するとアレックスも慌てて立ち上がる。ユースティン様は私の近くに立った。


「エルシェは私やアーチボルトの友人だ」

アーチボルト殿下に続いてユースティン様まで……。友人だなんて恐れ多いわ……。私は内心冷や汗をかいていた。

「ゆ、友人?!」

「そして、最近は公爵令嬢のアリシア嬢とも親交がある」

「こ、公爵令嬢っ?」

親交というか、一方的に話しかけられてるだけなんだけれど……。


「貴方はエルシェに感謝した方がいい。貴方の婚約者殿は公爵令嬢の会話に割って入り、彼女の気分を害するところだったと聞き及んでいる。それを諫めて婚約者殿を連れ出したのはエルシェだ」

「アマンダ……、何てことを……!」

アレックスの顔色が真っ青だ。


「貴方の婚約者殿が何と言っているのかは知らないが、成績が振るわないのも、一方的に騒ぎを起こしている事もエルシェのせいにするのはどうかと思われる。そしてこれ以上彼女の努力の妨げになるのなら、私は友人として君達を許さない」

ユースティン様のいつもの優しい表情は鳴りを潜めて、今は無表情だ。綺麗な顔だからとても怖い。でも、ユースティン様が私が努力してることを知っててくれて、庇ってくれてることがとても嬉しい。

「も、申し訳ございません……」

アレックスはユースティン様に頭を下げた。

「謝るのなら私にではないだろう?」

「…………ごめん、エルシェ」

そんな悔しそうな顔で睨まれても困るわ。謝ってるような態度じゃないもの……。

「誤解だって分かってもらえれば、もういいわよ」

私はため息をついた。


「話はそれだけか?」

ユースティン様は冷たく問いかける。

「…………はい」

アレックスは肩を落としてそれだけ答えてたわ。目がうつろ……。大丈夫かしら?

「なら、エルシェにもう用はないな。後は貴方と婚約者殿とでよく話し合われることだ」

ユースティン様はそう言うと、私の手を取って応接室を出た。え?あ、手が……。私はシンリーンでのダンスを思い出して顔が熱くなった。



私達は裏庭にやって来た。

「ユースティン様、ありがとうございました。とても助かりました」

「あの二人は一体何なんだ?特に君の義妹は!人間というのはどうしてこんな……!あ、いや……すまない。勝手にしゃしゃり出てしまって」

「いいえ!私のために怒って下さってとても嬉しかったです!本当にありがとうございました」

私は深く深く頭を下げた。


「でも、ユースティン様はどうしてあそこに?」

「いや、偶然通りかかって」

どうして空を見つめているのかしら?あとお顔に汗が……。


マーロの木精達が現れて周りを飛び回り始めた。


『エルシェドッカイッチャッタ』

『メンカイ』

『オシエタ』

『ユースティン』


「え?」

「あ、こら!内緒だって言ったろう?あっ……」

ユースティン様が周りを飛び回ってる木精さんに向かって話してる?え?ユースティン様ってもしかして……。

「ユースティン様って、みんなの事見えてたり声が聞こえてたりします……よね?」

ユースティン様ははあっとため息をついて片手で顔を覆った。


「……うん」

ユースティン様は顔を上げて真っ直ぐに私を見つめた。










ここまでお読みいただいてありがとうございます。


樹精→木精に変更しました。

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