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ささやか……?

来ていただいてありがとうございます。



「さあ、どちらがいい?」

私の目の前には2着のドレスがある。深い青色のドレスと深い緑色のドレス。どちらもデザインはシンプルでそれほど装飾過多ではない。私は少し安心したわ。これなら、メイドさんのお仕着せに近い。悪目立ちせずに済みそう。ちょっと露出度が高いけれど。

「では、こちらのグリーンの方を」

私はちょっと考えてそう言った。だってエバーグリーンだし。っていうのは冗談で、こちらの方が好きだっただけ。


「うーん。残念。負けちゃったか……。まあいいや。じゃあ、エルシェ、今夜パーティーでね」

そう言ってアーチボルト殿下は部屋を出ていかれた。何に負けてしまわれたのかしら?謎は解けないまま、その後私はメイドさん達に人生で初めてこれでもかと体を磨かれて、髪を整えてもらい、お化粧もしっかりしてもらったのだった。











「ささやか?」

パーティーはものすごく盛大だった。お城の舞踏会ほどでは無いんだろうけれど、私は行ったことがないから分からない。エバーグリーン家はお城の舞踏会とかお茶会とかに招待されることもあった。跡継ぎの私もお父様やお義母様、アレックスと一緒に招待されていたけれど、何故かいつも謎の体調不良で、義妹のアマンダが連れて行かれてた。私は特に体調に問題は無かったんだけどね。


「これでささやかなんだ……」

あちらこちらに燭台の明かり。並べられた豪華な料理。名前も分からない綺麗な色の飲み物。着飾った沢山の人達。てっきりパーティーって殿下達とご友人だけかと思ってた。地元の名士や、貴族の方々がたくさんいらっしゃてるらしいの。メイドさん達が教えてくれたわ。私ここにいてもいいのかしら?そもそもパーティーって何をするものなの?ユースティン様が隣にいらっしゃらなかったら、怖くて回れ右して帰るところだったわ。




「え?何故あの方までここに?」

「それに、どうしてユースティン殿下がエスコートなさってるの?」

「酷いわ。わたくしがお願いしたらお断りになられたのに」


ご令嬢様方……聞こえてますよ?やっぱりそうなりますよね。


「あの方だからいいのでは?」

「わたくしたちの中から選ぶと角が立ちますし、噂になってもお困りでしょう?」

「そうですわね。国にご婚約者がいらっしゃるのだから、あの方ならその心配はないですものね」

「でも……、ズルイですわ」


「はあ……」

ユースティン様は私の隣でため息をついた。すごくご機嫌が悪そう。

「エルシェがいてくれて助かったよ。ありがとう」

ユースティン様はもしかして女の人が苦手なの?だから婚約者がいることにしてるのね。よし!そういうことなら今日は私が風除け、っていうかご令嬢除けになりましょう!頑張ります!

「ユースティン様のお役に立てて良かったです!」

私は出来るだけ安心していただこうと思って、笑って見せた。


「……そ、それはそうとそのドレスよく似合ってる……。今日のエルシェはまた一段と綺麗だね」

わあ、褒めてもらっちゃった。お世辞でも嬉しいわ。

「あ、ありがとうございます」

「お世辞じゃないよ?今日のエルシェはマーロの森みたいに綺麗だ」

相変わらず不思議なたとえをされる方だわ。でも全然嫌じゃなくて、むしろとても嬉しい。パーティーは気が進まなかったけど、来て良かった。ん?なんだかさっきからご令嬢様達がざわついてるみたい。どうしてかしら?




みんなが集まってるホールみたいな会場から二階につながる階段がある。そこから、アーチボルト殿下がアリシア様を伴って降りてこられた。わあ、美男美女でお似合い!あのお二人には婚約の噂があるみたいだけど、発表はまだなのよね。どうしてかしら?


「みんな、よく来てくれたね!今夜はマーロの研究に尽力してくれているみんなの慰労も兼ねている。ささやかな夏の宴を楽しんでいって欲しい」

とてもよく通る凛とした声に拍手や歓声が沸く。同時に楽団が音楽を奏ではじめて会場は更に賑やかな雰囲気になったわ。


あ、あれ?今アーチボルト殿下がこっちを見たような?ああ、そうかユースティン様がいらっしゃるからだわ、きっと。あっという間にたくさんの人達に囲まれちゃった。殿下やっぱりすごく人気があるのね。パーティーはアーチボルト殿下のお人柄を表すかのように終始和やかに進んでいった。


時々、ユースティン様のところへ身分の高そうな人達がご挨拶にいらして緊張したけれど(何故か私にもご挨拶していただいたの)、美味しいご飯を食べたり、ユースティン様や研究所の人達とお話をしたりしてた。着なれないドレスに体力を奪われたけど楽しい夜を過ごせたの。








公爵令嬢アリシアのひとりごと




アラゴ王国の第二王子アーチボルト殿下はわたくしの従兄で幼馴染なのです。ですから、彼の事はよく知っているつもりなのですけれど、時々分からなくなることがありますの。


例えば婚約の事。幼心にわたくしはアーチボルト殿下と婚約することになるのだろうと思っておりましたけれど、彼はのらりくらりとかわし続けていまだに婚約者がいない状態なのです。いったい彼は何を考えているのでしょう?


たとえば彼にしか見えない存在の事。小さな時はわたくしにもよく話して聞かせてくれたのです。「妖精」の事。もうそういったことは話してくれなくなってしまいましたけれど、今も彼の目にはそういう存在が映っているのでしょうか?


そして、たとえば今はエルシェ・エバーグリーンのこと。彼女は貴族ではありません。確かにあのエバーグリーンの家の者ではありますが、今は家を出されています。確かお母様の妹さんのもとへ身を寄せているのです。つまり、王家としてはもう特に関わらなくてもいい存在のはずなのです。なのにこんなところまで連れてこられた。不思議です。わたくしは気になって尋ねてみました。


「アーチボルト様はエルシェさんにご執心ですのね?」

「彼女は金の卵を産むにわとりかもしれないからね」

「まあ、そういうお考えがあったのですね……」

エルシェさんはいきなりマーロドロップを作り出したと聞き及んでいます。マーロドロップは魅力的な資源ですから、殿下が王家に取り込もうとなさるのは当然ですわね。わたしくしは少しだけ納得できました。


でも、それ以上の何かがあるような気がします。たとえば今パーティーでエルシェさんが着ているドレスの事。アーチボルト殿下とユースティン殿下とでそれぞれに彼女に似合いそうなドレスを選んで、どちらを彼女が選ぶかで勝負をしていたのです。但しユースティン殿下はそれをご存じありません。アーチボルト殿下はお一人で賭け事のようなことをしていたのです。


「勝ったらユースティンにエルシェのエスコートを譲ってもらおうと思ってたんだけど、駄目だったよ」


なんて笑いながら仰っていました。彼女のエスコートをしたいなら命じればいいだけなのに、一体アーチボルト殿下は何を考えているのでしょう?





それに、ユースティン殿下もエルシェ・エバーグリーンに興味がおありのようなのです。


「それにしても、ご覧になられまして?ユースティン殿下のあの笑顔!」

「ええ!とても驚きましたわ!」

「あんな風に笑われるのを初めて拝見いたしましたもの!」

「とても素敵でしたわ!」

「でもわたくしたちにはあんなお顔を見せていただけないですわね……」

「身分の低い方の方が緊張なさらないのよ」


お友達の皆さんが仰ってたようにあのユースティン殿下が笑っておられたのです!


この国に留学に来られたユースティン殿下は変わった方でした。この国の貴族達と交流を深めるでもなく、いつも無関心でむしろ不愛想なくらいでした。一体何をしにいらしたのでしょう?唯一興味を示されたのがあのエバーグリーン家のエルシェさんでした。あまつさえ、彼女の前ではあんな風に優しく笑うなんて、とても驚きましたわ!


アーチボルト殿下といい、ユースティン殿下といい、あのエルシェ・エバーグリーンにいったい何があるというのでしょう?わたくしは注視していかないといけないのかもしれません。






ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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