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最終話

来ていただいてありがとうございます。




私とユースティン様は叔母様に話すために学園の寮ではなく、叔母様の家へ戻った。


私の事は王家の方々の知るところとなってしまった。まあ、それはそうよね。急を要したとはいえあれだけ動き回れば人の噂にもなってしまうわよね。アーチボルト殿下に知られればある程度の推測はついてしまう。それでも今回マーロドロップを配ったことは後悔はしてないわ。やっぱり誰かが苦しんでいるのを黙ってみていられないから。


それにエバーグリーン家の事はやっぱり私にも責任があると思う。私がもう少し頑張ってみんなと話が出来ていたら、家を簡単に出ていかなかったら、森をあんな目に合わせなくて済んだかもしれないもの。

「そうなると、あなたはあのアレックスと結婚しなければならなかったのよ?」

私の言葉に叔母様が苦笑する。う、確かにそれは嫌だわ、すごく。

「恐ろしいな……。それに欲得ずくの連中がエルシェの言葉に耳を傾けたとはどうしても考えられない」

ユースティン様は私の手を握った。


うん、今回の騒動に加担した親戚の人達は相応の罰を受けてもらわなきゃって思う。でも、エバーグリーンの森が王家の直轄領になってしまったら、その他のエバーグリーン家の人達や今まで森や樹液の作業場で働いていた人達はどうなってしまうんだろう?今まで通りに生活できるんだろうか?多分無理だ。それに、思い出の詰まったエバーグリーンの土地や家が変わってなくなってしまうかもしれない。時の流れと共に起こるその変化は仕方がないと思う自分と、お母様との思い出がなくなってしまうことを寂しく思う自分がいる。私は悩んだ。


こちらへ戻る前に女王様に言われたことがある。私はどちらかの世界を選ばなければならないの。人であるか、精霊であるか。両方ではいられないのだと。そしてユースティン様はじきに妖精の世界へ帰ってしまう。もし私が人であることを選んだらもうユースティン様には会えない。それは嫌。でも……。

「エルシェ……」

悩む私をユースティン様が心配そうに見てる。




やがて叔母様が静かに口を開いた。

「私がエバーグリーン家に戻るわ。それで国王陛下の条件も満たせるでしょう」

「え?」

「……そうか!」

エバーグリーン家の親類の中から今回の騒動に関わっていなかった家族の子どもを養子に迎えて跡取りとして養育していくと叔母様は言った。そうか、叔母様だってエバーグリーン家の直系なんだものね。姉である私のお母様が継ぐことになっただけで、叔母様が継いだって何も問題は無かったんだ。


「でも、叔母様はこの家を、旦那様との思い出の家を離れたくないのでは?それにアレックスがつくった借金のもことも……」

「借金は皆を働かせて返してもらうわ。今まで通りの生活は出来ないでしょうけれど、それは当然の事ね」

私は借金分のマーロドロップを叔母様に渡すことにした。一旦返済をしておけば利息が増えることは無くなると思ったの。もちろん他の人達には秘密で。


「樹液の採取と煮詰めの作業は主に冬から春にかけてだから、夏から秋はここへ帰ってくるわ。大丈夫よ。貴女は安心して行きたいところへお行きなさい、エルシェ。でも時々は私に顔を見せに来てちょうだいね。私達の可愛い娘」

叔母様はそう言って優しく私を抱きしめてくれた。

「私にはお母様が三人もいて幸せだわ……!」

私は叔母様を強く抱きしめ返した。



私は女王様にお願いしてクローバー学園で勉強を続けさせてもらうことにした。アーチボルト殿下が卒業するまではちょっと大変だった。卒業を祝うダンスパーティーでとうとう断り切れずに、私はアーチボルト殿下と一曲ダンスを踊ることになってしまった。


「本当はね、君をこの国に留まらせるべきだって強硬な意見がまだまだあるんだよ」

「え?」

私をリードしながら楽しそうに言うアーチボルト殿下の言葉は不穏なものだった。

「大丈夫。そこまで皆愚かじゃない。マーロの女王を怒らせればどうなるかは良く分かってる」

私の手を握る手に力がこもる。

「だから、君に僕を選んでもらいたかったんだ。ダメだったけどね」

「申し訳ございません……」

「謝らないで、エルシェ。君はこれからもこの国を見ていてくれるよね」

「はい。もちろんです」

アーチボルト殿下は切なげに私を見た。

「ああ、もう曲が終わるね……早いな」

ダンスが終わると殿下は私の指先にそっと口づけた。

「あっ」

「ふふっ、これくらいは許してよ」

そう言うと殿下は振り向いて後ろにいたユースティン様の方へそっと私を押し出した。

「さようなら、僕のお姫様」


アーチボルト殿下と公爵令嬢のアリシア様との婚約が発表されたのは、クローバー学園の卒業式の一週間後だった。





その一年後、私は無事にクローバー学園を卒業して、妖精の世界でユースティン様と結婚式を挙げることになった。特別に叔母様も妖精の世界へお招きすることができた。

「ああ、なんだか懐かしいような気持ちになるわね」

叔母様は妖精の世界のマーロの森の中でそう言って微笑んだ。


その日は空は澄んだ青空で、無数の淡い色合いの花が空から降ってきてとても綺麗だった。


「おかえりなさい、金のしずくの姫。わたくしの可愛い娘。そしておめでとう。エルシェ、ユースティン。あなた方に永遠の祝福を」

「ありがとう、お母様」

私はユースティン様と笑い合った。




「私を選んでくれて嬉しかったよエルシェ。本当は今日まで不安だった」

妖精の世界の夜、大きな白い月が浮かんでる。遠くには輪のかかった青白い大きな星。不思議な夜空。私とユースティン様はマーロとローヌの森を見渡せる小高い丘に二人並んで座っていた。

「選ぶなんてそんな……!私はずっとユースティン様の事だけを好きです!」

「私もだよ、エルシェ」

ユースティン様は私の肩を抱き寄せた。


「最初はね、許嫁だといっても特別な感情は無かったんだ。人の世界に生まれた精霊なんて珍しいなってくらいで……」

ユースティン様の頭が私の頭にこつんと当たる。

「初めて君を見て……、なんて綺麗なんだろうって思った。そしてずっと君を見てるうちにどんどん惹かれていった。止められなかった」

ユースティン様の指が私の顎にかかる。

「誰にも渡したくなかった」

「ユースティン様……」

「ユースティンって呼んで欲しい」

「……ユースティン、愛してます」

ユースティンの唇が私の唇に重なった。

「愛してる、エルシェ……」

少しづつ深くなる口づけに軽い眩暈と大きな幸せを感じる。その夜、丘の上の私達のための家で私達は今までになく仲良くなった。






私は時々お母様の目を盗んではエバーグリーンのマーロの森へ行って金色の祝福をしてるの。森を代々大切に守ってくれているみんなのために。それにさらに時々、小さなマーロドロップを生まれたばかりの赤ちゃんの手に握らせてくる。この国にいつまでも精霊の加護があるよって知らせるために。だって忘れてしまうと女王様が怒って、みんなも悲しくなって大変なことになっちゃうから。






「この子は精霊の祝福を受けて生まれてきたのね」


「おまえは光の乙女に病から救ってもらったんだよ」


人々は忘れかけていた妖精や精霊の世界を再び認識して、自然を敬う心を取り戻した。アラゴ王国はその後も精霊に守られた国として長く繁栄をつづけたという。











ここまでお読みいただいてありがとうございました。

この物語はここでおしまいとなります。

お読みいただいた方が少しでも楽しい時間をお過ごしいただけていたらとても幸せです。

本当にありがとうございました!

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